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矮人と巨人

PHASE-1292【不羈奔放】

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 仲間の称賛に喜んで、タックルに対する溜飲を下げる俺の側では、羽ばたいて宙に留まるミルモンからギリリッと歯を軋らせる音。

「なにを偉そうに! オイラの主にこの侮辱。お前ごとこの国を消し炭にしてやろうか!」
 と、次にはエンレージMAXな怒号。
 小柄な体からは想像が出来ないほどの大音声だった。

「ミルモン。落ち着こうか」

「だってさ兄ちゃん!」
 俺の為に怒れる連中がいてくれるのは嬉しいけども、とりあえず――、

「コクリコはサーバントストーンを収納。シャルナも構えなくていいし、今にも放ちそうな黒い電撃を消してくれミルモン」

「……分かったよ。でも派手に吹っ飛んだけど大丈夫かい?」

「問題ない。あんなもん屁でもねえよ」
 傑物とか言われてなんだが、イラッとしているのは事実。
 なので語末の方は挑発的な言い様になってしまった。
 初対面のお偉いさんに対しての言い様ではなかったと、言った直ぐに反省。
 だがしかし、イラッとするものはイラッとするからね! 
 だってまだまだ多感な十代の人間だもの。アンガーマネジメントって難しいのよ。

「いい加減にしていただきたい! 親方様!!」

「すまん。すまん」
 ミルモンを凌駕する大激怒のダダイル氏。
 おしかりを受けて素直に謝罪を述べるあたり、部下の発言や諫言を聞き入れるだけの器量はあるようである。

「本当にすまなかったな。勇者よ。あそこまで無防備でいるとは思わなくてな」

「初対面。友好関係。となれば、無防備になるのは当然かと」
 代弁してくれるダダイル氏の声には未だに怒りが残っている。

 でも――、

「反省しないといけないのはこちらもですので」

「と、言うと?」

「初対面だからこそ油断しては駄目ですからね。いくら友好関係にあるとはいえ、初対面の相手に対してあまりにも無防備でした。王に対して構えれば失礼ということを優先しましたが、本来なら隙を見せないためにも警戒を怠ってはいけませんでしたね」
 もしここにベルがいたら、油断しすぎということで、追加でタックルなんか比じゃない蹴りが大腿四頭筋に見舞われていたことだろう……。

「よい理解力だな。そこを教えたかったのよ」

「親方様……」

「どうした、ダダイル?」

「……ぶっ飛ばしますよ」

「お、おお……」
 さっきまでの激怒と違い、落ち着き払った声音によるぶっ飛ばしますよ発言は、能面のような表情からなる笑みによるもの。
 この笑みに親方様こと、ドワーフ王ダーダロスは引きつった表情で背を反らせていた。
 そんな王が姿勢を正し、ダダイル氏から視線を逸らして声を整えるように小さく唸り、

「よく来てくれた。勇者トールと従者たち」
 謁見の間にてダーダロス王は定位置である一段高くなった場所に腰を下ろし、対面する俺達にも腰を下ろすように伝えれば、側面の引き戸が開き、ダダイル氏よりも質の高い防具を纏ったドワーフさんたちがクッションを人数分運んでくると、「どうぞ」と、俺達の背後に置いてくれる。
 装備からしてこのドワーフさん達は近衛ってところだろう。
 俺の分を運んで来てくたドワーフさんは、「親方様の戯れ失礼」と、付け加えてくれた。
 いきなりタックルの王と違って、部下の方々は礼儀正しい。
 謝罪を述べてくれた近衛兵に会釈で返し、俺達が腰を下ろしたところで、

「改めて名乗らせてもらう。ワシがこのアラムロス窟の代表であり、この大陸のドワーフ達のまとめ役である、現ドワーフ王、ダーダロス・フェイコス・ガイガンだ」
 名乗ればニッコリ笑顔で俺達の来訪を歓迎。
 さっきまでのタックルは既に気にしていないご様子。
 豪放磊落――というよりは、不羈奔放って四字熟語の方が似合う王様だな。
 
 いきなりタックルの時にはちゃんと確認できなかったが、腰を下ろしてからここで風貌に目を向ける。
 ――腹まで届く長い黒ヒゲは、ギムロンみたいに球体の髪留めみたいなものでヒゲを根元部分で纏めている。
 球体の色はオレンジ。ギムロンのはふつうの装飾品だったようだけど、王様ともなればタリスマンなんかを装飾品として使用してたりするのかな?
 
 黒髪の髪型もヒゲと合わせているのかポニーテール。
 ただのポニーテールではなく、ツーブロックからなるもの。
 ツーブロック部分はトライバルのようなレザーアートによる剃り込み。
 元いた世界だったら間違いなく話しかけないタイプの髪型である。

 腰を下ろすと同時に自分がこの地の統治者というのを発言だけでなく、見た目でも証明するとばかりに王冠を頭にポンと乗せる。
 流石はドワーフと思える、見事な王冠だった。
 王冠の円幹部は波状で、細やかな彫金と宝石がちりばめられている。
 円環内部は赤い生地が彩り、円環部の左右には六本の細い鎖が垂れ下がっていて、全てに下げ飾りがついている。
 それらを施した王冠は黄金製。
 ちりばめられた宝石の煌びやかさと、黄金の重々しい輝きがお互いを引き立てているようであった。
 ――と、素人の評価。
 真っ先に浮かんだ素直な感想は、売ればいくらになるだろう? という野暮天なもの。

「ドワーフの王ではあるが、王ではなく皆からは親方様と呼ばれとる」

「呼んでほしいと言ったのは親方様でしょう。なんならダーダロス王に戻しましょうか?」

「いや、親方様がいい……」
 冷たい発言のダダイル氏に対し、未だに弱々しく返す親方様。
 変な拘りを持っているところに、やや中二臭を感じ取ることが出来る。
 つまりは俺、ゲッコーさん、コクリコと同類といったところだな。

「おお! 生真面目パロンズ。久しいな。息災か?」
 ダダイル氏から視線を逸らすようにドワーフ王こと親方様は、パロンズ氏へと話しかける。

「元気にしております」
 額が板張りに触れる勢いで頭を下げるパロンズ氏。

「よせよせ。ワシらは同世代ではないか」
 と、カラカラと笑って堅苦しい挨拶は止めてほしいと発する。
 同世代ってことは、パロンズ氏とは、王と一ドワーフという関係以外の付き合いもありそうだな。
 ご学友って関係性かな?

「他の者たちもよろしくな」

「「……はぁ」」
 ウエルカムタックルを目にしたコクリコとシャルナ。
 親方様に対する初対面での好感度はかなり低いものとなったようだ。
 タチアナとコルレオンは二人のリアクションに影響を受けたのか、苦笑いを顔に貼り付けて親方様へと返していた。
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