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矮人と巨人

PHASE-1291【挨拶はタックル】

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 ――それにしても本当に和テイストだな。
 木目の美しい板張りはよく手入れされており、燭台の光を反射させるほどに艶がある。
 そんな板張りの廊下から上を見れば、等間隔に配置された木製の梁はアーチ型のもの。
 廊下の側面にある建具は鴨居と敷居による引き戸。
 日本と違うのは障子戸ではなく、木製のものばかりだった。

「こちらです」
 廊下を歩く最中に目にしてきた建具と違い、異彩を放つ木製の引き戸には、一面に細かい彫刻が施されていた。
 戦槌なのだろうか? 身の丈ほどのソレを諸手で握る一人のドワーフが、同じく戦槌を片手で持つ、頭部に角の生えた巨大な存在と対峙しているといった構図。
 今にも戦いが始まりそうな躍動感が伝わってくる力作である。
 これはドワーフの勇ましさを表現する芸術に違いないな。
 
「親方様」
 親方様?

「おう入れ」
 彫刻が際立つ建具の芸術から想像をかき立てていれば、ダダイル氏が一言。
 対して、建具の奥から入室許可の声が返ってきた。

 それにしても――、

「親方様?」
 ダダイル氏の発言に疑問符をつけて口にする。

「王ではなく?」
 と、継ぐ。

「王なのですがね。当人から親方様と呼んでほしいと言われましてね」
 戦国時代を題材にした大河ドラマにでもはまっているのかな? まあそれはあり得ないんだけども。
 ――彫刻が施された建具をダダイル氏が開く。
 その先は謁見の間といった感じだった。
 エリスのとこも似たような造りだったな。あっちは御簾みすってのがあったけど、ここのはシンプルな構造。

 板張りの室内の最奥は一段高くなっており、そこには絨毯が敷かれ、一人の人物がそこに座っている。
 エリスのとこのが公家的なデザインだとすると、ここのは武将たちが話し合う会所に似たデザイン。

「よく来てくれたな勇者よ! ワシがここの主である――」
 豪快な出迎えの声とともに絨毯から矢庭に立ち上がれば、ドスドスと板張りに足音を響かせての驀地。
 そう、駆け足とかじゃなく驀地による接近。
 タックルでもされるのかと身構えてしまいそうになるが、初対面のドワーフ王に対して身構える姿は不遜と考える俺。
 当然ながら向こうも俺の前で止まってくれるだろうからと余裕をもって佇む。

 そんな中で――、

「ダーダロス・フェイコス・ガイガンであぁぁぁぁぁる!」
 継いで名乗りをあげるまま――、

「むん!?」
 勢いを抑えることもなく、俺へとサイドチェスト姿勢でツッコんできた……。
 このダルマ体型……。普通にタックルしてきやがった……。
 吹っ飛ばされる中で確認するように目を動かす俺。
 ミルモンとゲノーモスの四人。特に俺の頭とうなじ、背中にいた三人がぺちゃんこにならないかの心配をしていたが、皆――見事に俺からベイルアウト。

「どいっす!」
 小悪魔と小人たちの心配に注力するあまり、受け身が遅れて背中から板張りに叩き付けられる。
 ――キャッキャと喜ぶ声が上がるあたり、小人たちは俺と違って着地に成功したようだな。
 背中から落ちたけども、有り難きは火龍装備。そして今までの経験で受けてきた痛みで耐性も出来たのか、ダメージというものは感じなかった。
 仰臥の姿勢で天井を眺める俺の耳朶に楽しげな声。
 ゲノーモス達はおっとりとした喋り方ではあるけども、動きは俊敏だという事がここで分かった。
 でもって、スリルを堪能して楽しめるタイプの連中でもあるようだ。
 ミルモンも仰臥の俺の上をパタパタと飛んでいるので問題なし。

「何をするのですか! この樽ぅ!」
 怒号のコクリコ。
 仰臥の視界に新たに入ってくるのは、アドンとサムソン。

「ほぉ!?」
 サーバントストーンを目にしてなのか、驚嘆の声のドワーフ王。

「この樽の行動。敵対行為ってことでいいのかな!」
 シャルナもコクリコ同様に怒気を纏わせ、これまたコクリコ同様に王を樽と呼ぶ……。

かみのエルフ殿、ちょっと待ってくれ」

「何を待つの? そっちの攻撃準備が整うのを!」
 飄々とした返しのドワーフ王に対し、シャルナの声のトーンがもう一段階あがった。

「そうじゃない。すまんの。ちょとした戯れと思ってくれ」

「戯れであそこまで吹き飛ばしますかね! いくらトールが残念なくらい隙だらけで突っ立っていたとはいえ!」
 ――……コクリコさん……。
 隙だらけとか言わないでくれるかな……。
 まさかドワーフ王が初対面の相手に対して、驀地をそのまま利用してのタックルをしてくるなんて思わないじゃない。
 一応、警戒はしたよ。でも失礼になるから身構えなかったのよ。
 特に専守防衛タイプの王様だからタックルとか冗談でもしないと思うじゃないのよ。
 実際はしてきたけども……。

「勇者様ご無事で!?」
 いつまでも俺が起き上がらないから、心配したダダイル氏がここでようやく俺に無事を聞いてくる。
 客人に対する予期せぬタックル行為に、俺が倒れ込むまで何が起こったのか頭の中の処理が追いついていなかったようだね。
 こういった推測が出来るくらいには、俺は冷静ですよ。
 
 ただ勇者が簡単に吹き飛ばされるという姿を客観的に見ると凄く恥ずかしいので、起き上がるタイミングを逃しているというのが、起きない理由でもあります。
 
 タイミングを逃した俺に手を伸ばしてくれるダダイル氏。パロンズ氏もそれに続いてくれる。
 起き上がって入ってくる状況は、怒れる女性二名がドワーフ王の歩みを止めるように立ち塞がり、その後方でタチアナとコルレオンが俺をカバーするように立つ。
 瞬時にこの隊伍を組んだようだな。

「やるじゃない」

「お、そうかな」

「いや、王のタックルに対しての称賛じゃないです」
 迅速に動ける仲間たちに感心しただけ。

「本当にすまん。様々な功績を挙げてきた勇者がどんなものかと試してみたくてな」

「――で、どうだったんですかね?」
 鼻息荒い面々を落ち着かせるように俺が先頭に立ってから問う。

「大したものだな。今の一撃を受けても、怒気を発することなく余裕ある佇まい。それだけで傑物だというのが分かる」

「そう思ってもらえるなら光栄ですよ」
 そんなもんで傑物になれりゃあ楽だろうよ。と、心の中ではちゃっかり毒づかせてもらう。

「それに勇者のために仲間が即、動く。相手がこの国の王であろうとも臆することなく挑む胆力は、場数や鍛練による賜物だろうな」

「でしょう!」
 仲間の称賛には素直に喜んでおきましょう。
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