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発展と鍛錬

PHASE-1277【現金なくらいがいい】

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 だが、しかし……。

「う~む……」
 これから向かう先の脅威が、一般的なオークとゴブリンの中間程度の存在だとはいえ……。
 これ以上、女性陣を増やすのは得策ではないよな。

「後衛は多い方がいいかと」

「分かるよ。後衛が多いとそれだけ前衛は心強いからね」
 だがどうしても女性陣を下半身至上主義の連中が跋扈しているところには連れて行きたくない。
 正直なところ、難敵であっても打破できるであろうシャルナとコクリコであっても、連れて行きたくないのは今でも変わらない。

「私の力を会頭に見てほしいんです」
 成長を見せたいという心意気は嬉しい。
 まいった……。
 ここで断れば、丁寧な言い方であってもタチアナは傷つくだろうな。
 ――ここは多数決による判断をと馬車の方へと目を向ければ、四人からは小さな首肯が返ってくる。
 コルレオンとパロンズ氏は自分たちを高めたいという気持ちがあるから、タチアナの思いが分かるんだろう。
 再度の確認として、馬車の中にいる二人にアイコンタクトを送ってみれば――、

「いいと思いますよ」
 と、コクリコが応じてくれる。

「ですがタチアナ。なにかあっても自己責任ですよ」
 継ぐ発言は、らしくない重々しい言い様だった。

「分かっています。冒険者として活動している時点でそういった覚悟は持ち合わせていますから。無ければそもそも冒険者としての道は選びません」

「だそうですよ。会頭」
 普段は会頭なんて呼ばないコクリコがそう呼ぶって事は、ここで最終判断を俺に下せということだろう。

「有事の際は各自で支え合う。後衛は前衛の補助にばかり傾倒することなく、バックアタックにも気をつけてほしい。当たり前の事を言っているけど、有事で気が高ぶっている時は、その当たり前が当たり前に出来ないからな。タチアナも今までの経験を活かして危機を回避しつつ、俺達のフォローを頼むよ」

「はい!」
 許可すれば喜びから笑顔となる。
 ライやクオン達とクエストをこなして培ってきた成長を見せたくてしかたないようだな。

「兄ちゃんモテるね。流石はオイラの契約者だ」

「――だろ」
 って勘違い発言を左肩に乗る小悪魔へと返す。
 ミルモンの勘違いに俺も冗談で便乗したけども、七人中、三人が女性ってところは真剣に考えないといけないな。
 有事の際は自分以上に周囲に注意しないと。
 女性陣に危機が迫りそうな時には、ゴロ丸に護衛をさせないとな。

 ――――。

「ふっへぇぇぇぇぇ……」
 野営を行いつつトールハンマーへと到着。

「なんや……これ」
 続いて出てくる語調も驚きに支配されていた俺の声。

「いやはや、一年前と比べると凄いことになってますね~。風景がまったくの別物ですよ」
 馬車から上半身を乗り出させてのコクリコの語調も俺と同じもの。

「凄いね」
 シャルナのは俺達と違って新鮮なもの。
 あの時シャルナはここには来なかったからな。
 俺はコクリコに対する怒りを抱きつつ、タチアナ、ギムロン、クラックリックと行動していたな。
 昔を思い出しつつ、今ではまったく違うものとなった眼前の風景に度肝を抜かれている。

 いや本当に……、

「要塞じゃんよ……」

「要塞ですからね」
 何を言っているのやらと言わんばかりのコクリコなんだけども、その声は上擦っているんだよな。
 
 ――以前は岩山洞窟と湿地帯でしかなかったのに。
 元々は魔王軍のトロールが、今後の魔王軍の拠点とするために、コボルト達を強制的に働かせ、洞窟の中を掘削させていた場所だったが、それが今では対魔王軍の為に活用されている。
 湿地を利用しての足場の悪さによる進撃の遅延と、立ち塞がる防塁と堀。
 これに加えて長大な木壁を築き、岩山洞窟を拠点の中心地である山城へと変え、難攻不落の要塞を造り上げるとは聞いていたけども――、

「出来てるじゃない……」
 木壁に沿って見やれば、壁は何処までも延びている。
 この壁は要塞に近いリオス町まで延びているようだ。

「まるで万里の長城だな」
 長い木壁の造りは最前線ということもあり、形を整えるよりもまずは速さを優先したといったところ。
 拙速でありながらも時間に余裕があれば補強も行っていくといった感じだろう。
 先生が以前、口にしていた岩山を利用した要塞。
 攻める者に対し、これ以上、北への侵攻を許さないという気概をぶつけるような威圧感を誇っている。
 
 湿地帯ではあるが、王都方向は埋め立てられており、こちらからの移動はスムーズに行えるようになっているということをここに来るまでの道中に、コルレオンから教えてもらった。
 給仕や鍛練に励みつつ、合間には里帰りしていたそうだ。

「素晴らしいでしょう」

「うん、実感しているところだよ。コルレオン。でも聞くのと実際に見るのとでは違うね」
 木壁壁上には楼閣も等間隔に築かれている。
 長大さに万里の長城を想像したけども、視界に収めて分かることは、楼閣と防御壁である木壁の造りは、古代中国の城壁をモチーフにしているのが分かる。
 先生の指示でもあるんだろうが、間違いなくここの指揮官のアドバイスも繁栄されているんだろうな。

「だれだぁ~」
 壁上の楼閣部分を眺めていると、そこから出てきた人物からの誰何。
 腹から出ている声ではあるが、威圧感よりも訛りの方が気になってしまう。
 両手でクロスボウを持っているが、こちらに対して向けるという事はまだしない。

「なにしゆうが!」
 と、直ぐさま楼閣から飛び出してきた一人に、兜越しに頭を小突かれていた。
 別に構えてねぇだよ。と、頭をさすりつつ返す誰何した人物。

「なんとも懐かしいことで」
 なんで日本の方言訛りなのか。
 しかも統一性がないとツッコみたいのは、ブルホーン山の要塞戦でも思ったことだったな。

「これは失礼を公爵様!」

「どうも」
 次に出てきた人物が俺に向かって深く頭を下げ、木壁に設けられた階段を急ぎ足でおりてくる。
 確かバリタン伯爵のアンダリア領の中の一部を統治している地頭さんだったな。
 二つか三つの村を統治しているくらいの規模だったはず。
 なので北伐の時は寡兵による参加だった。
 でもその兵達は訛りのクセも凄いが、べらぼうに強かったのも記憶している。
 へっぽこ傭兵団と言ってしまえばマジョリカに悪いけども、次々と打ち倒していったよな。

「さあどうぞ。公爵様」

「そんな畏まらずに」

「そうはいきません。王に次ぐお力を持つ御方に粗相は出来ませんので。アンダリア領はオルコロ村とカトレ村の統治を任されている、このロンゲル・ポッケオが責任をもって公爵様を案内いたします。この――ロンゲル・ポッケオが」

「ああ、はい……」
 気持ちがいいくらいに主張してくる方である。
 ここで太いパイプを持ちたいという前のめりな気持ちが表に出まくっている。
 北伐の時も兵士たちに褒賞をちらつかせて頑張らせていたような記憶がある。
 まあでも、これくらい現金な方が最前線の地では頼りになるのかもな。
 報酬の為にがむしゃらに励むという事は、報酬をきちんと与えれば、それに見合っただけの活躍をしてくれるってことなんだろうし。
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