上 下
1,276 / 1,668
発展と鍛錬

PHASE-1276【三つ編み揺らして】

しおりを挟む
 ――――。
 
 王都を出て街道を南へと進み――、次の朝を迎える。

「いやはや、このようなお力を……」
 ロイドルにとってギャルゲー主人公の家は初めて目にするもの。
 内装やキッチンなどが別世界のものだったから非常に驚いていた。
 主に利便性で。

 護衛の黄色級ブィ二人は驚きよりも会頭の召喚した家で一泊する事が出来たという事に興奮しており、自慢できる的な内容を昨晩からずっと語り合っている。
 俺との行動はギルドメンバーにとって、本当にステータスになるみたいだね。
 嬉しくもあり、気恥ずかしくもある。

「いや~冒険中にこんな快適な生活が送れるなんてね」

「満足だったか?」

「悪くはなかったんだけどね~」
 楽しげではあるが、満足まではいっていないミルモン。

「オイラとしては家具に囲まれるより、たき火を囲みたかったよ」

「だったな。じゃあ次は外でな」

「お願いするよ♪」
 小っこいキャラの笑顔は朝からの癒やしである。
 それにここで否定して不満を持たれるのも嫌だしな。

「てなわけでミルモン」

「あいあい」
 フランクに返事をすれば、俺が何を望むのかというのは言わなくても分かるとばかりに瞳を閉じ、むむむむ――っと、可愛くうなり声を上げ、

「見えた!」
 の一言と共に刮目。
 結果としては天空要塞には動きがなく、極東の上空に留まっているという内容だった。 
 これを耳にする俺はグッと拳を作って喜ぶ。
 そしてそのまま動くな! と、念を込めるように極東の空に睨みを利かせた――。

「じゃあロイドル」

「ハッ! お任せを! お二方、戻りましょう」
 そう言ってロイドルは馬上の人となれば、護衛の二人もそれに続くように騎乗。
 二人の顔からは不満が滲んでいた。
 あともう少しだけでもいいので、俺達と行動したかったという気持ちが表面に出てしまったようだ。
 気持ちだけは受け取って、自分たちの任に戻ってほしいと述べて、王都に戻る三人の背を見送った。

 ――。

 見送りを終えてから、皆して家の中で身支度を整えてから出発――。

「何とも平和な光景が続くね~」
 街道を常足によるゆったりとした速度で移動する。
 牧歌的な風景を更に強調するように、パッカパッカと蹄鉄。ゴトゴトと馬車の車輪が音を奏でる。
 ――調子の取れた音を聴いていると眠くなってくる。
 馬上で寝たとしてもダイフクは賢いので、俺が落馬しないようにバランスをとってくれるであろうから、居眠りしても問題はないだろう。

「これもトールハンマーで目を光らせてくれている人達のお陰だよね」
 微睡みそうになったところで、窓から顔を出したシャルナが俺の独白に続いてくれる。
 目をしっかりと開いてから肩越しに後方を見れば、色彩の薄い金糸のような髪を靡かせていた。
 牧歌的な光景がシャルナの存在だけで神秘的なものへと早変わりである。

 ダイフクの速度を落として馬車と並べば、

「高順の活躍は大したものですね」

「まったくだな」
 シャルナと対面して座っているコクリコも頭を出して青空の下で平和を堪能していた。
 季節は寒い時期だが、新たな出立を祝うような蒼穹の下を移動できるのは有り難い。
 陽射しが降り注ぐ昼間の気温は温かいようで、馬車組は厚着ではなく、普段、着用しているものだけで事足りるようである。

 コクリコの言うように、高順氏とその下で活動してくれる者達の活躍が大きいのも事実だが、デミタスに聞かされた、蹂躙王ベヘモトカルナックの貪欲さも起因しているからだろう。
 兵の消耗を避けるという腹積もりもあるから、消極的な戦いしか仕掛けてこないってのもあるよな。

 そういった事を知る由もない街道ですれ違う旅の方々は表情に余裕がある。
 常に周囲を気にしながらビクビクと旅をするという心配は、今までと比べれば軽減しているからだろうな。
 石畳からなる街道の上を意気揚々と進んでいる。

 パロンズ氏の話では、王都からリオスの町とトールハンマーを繋ぐ道は全て石畳に
舗装されているという。
 街道の修復と発展も、俺達が別の場所で活動している間に着々と進んでいるようだ。
 工事に励んでくれた顔も名も知らない方々に感謝する。

 と、感謝をしている中で――、

「後方」
 と、シャルナの長い笹の葉のような耳がヒクヒクと動き、碧眼を鋭くする。

「なんだ?」
 街道で、しかも後方からということは王都方面。
 そちらから脅威が来るなんて事はまずないだろう。
 となればロイドル達が何かしら忘れ物でもしたのであろうか?

 ――確認のためにビジョンを使用。

「――なんだ。タチアナじゃないか」
 襲歩による馬にてこちらへと向かってくるのはよく知った人物である。
 それにしても距離が離れていたのに、音で気付けるシャルナの聴力は流石だ。
 スカウトとして最高の存在。
 感知能力がずば抜けて高いベルがいなくても、シャルナの聴力があれば相手に先制攻撃を仕掛けられる心配はないな。
 
 ――ダイフクと馬車の動きを止めて待ってやれば、栗毛の三つ編みを派手に揺らしながら俺達へと合流。

「ふぅぅぅ――追いつきました」
 安堵の息を吐きつつ、開口一番でそう言う。
 襲歩による移動には慣れていないのか、馬よりも騎乗しているタチアナの方が息切れしている。

「凄い勢いだったから警戒しちゃったよ」

「すみません。途中ロイドルさん達と会いまして、会頭たちの事を聞けば少し先にいらっしゃるだろうとの事でしたから、急いで追いかけてきました」
 シャルナに対して馬上から頭を下げるタチアナ。

「で、大急ぎで追いかけてきたようだけど、王都でなんか変事でも?」

「いえ、違います。私もお供に加えてほしくて来ました」

 ――……。

「いやいやいや。これから行く所は女性にはオススメ出来ない場所なんだけど」

「大丈夫です。お役に立って見せます。コクリコさんとシャルナさんがいる時点で、微力程度しかご助力できないでしょうが」

「あのね――」
 ――俺達がこれから向かう先には、女となれば見境のない下半身思考主義の連中が生息するところだと説明すれば、知っていますと返ってくる。
 
 一緒に行動したいというのもそうだし、知っていると返してくる時の言葉には強いものを感じる。
 様々なクエストをこなしてきたからこその自信から来ている返事だというのが分かる。
 俺達が成長しているようにタチアナだって成長している。
 脅威に対して立ち向かえるだけの実力と精神を培ってきたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...