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発展と鍛錬

PHASE-1266【千里眼の小悪魔】

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 皆の驚きに染まる声を背に受けつつ――、

「さあ出てこい! 千里眼の小悪魔――ミルモン!」
 発せば、プレイギアの全面ではいつもの如く強い輝きが生じる。
 光が発生している最中、

「聞いたことのない悪魔の名だ」
 と、ゲッコーさん。
 そりゃ聞いた事なんてないでしょうね。
 この小悪魔はフィクションであり、神話の人物や団体とは一切の関係がありません。

 輝きの中から黒い影が出現する。
 影のサイズは小さいもの。
 その影の大きさが原因なのだろう、肩越しに背後を見れば、面々の構えがわずかながら弛緩しているのが見て取れた。
 ベルとゲッコーさんだけが構えを崩さずに警戒しているところは流石である。
 サイズが小さいからといって警戒を緩めるのはよろしくないからな。

「それにしても小さい影ですね」
 コクリコの言には皆して同調。
 影の大きさは両手に収まりそうな、子猫くらいのサイズ。

 ――――完全に光が消え去ったところで、

「ふわぁぁぁぁぁ~ここは何処だい?」

「なん……だと……」
 光が消えたところでの開口一番を耳にしたベル。
 予想通り、ベルが駄目になってしまったようである……。
 先ほどまではゲッコーさんと同様、一切の警戒を緩めることがなかったというのに、今は脱力に襲われたように両手を力なく垂らしている。
 やはりガルム氏と翁に先生の護衛を任せておいて正解だったな。
 
 最強さんはノーガードスタイルとなり、無警戒な足取りで宙に浮く小さな存在へと近づいていく。

「やあ、美人のお姉さん。お姉さんがオイラの契約者かい? とりあえずここが何処なのか教えておくれよ」
 くりくりお目々は赤い虹彩。背中にはコウモリのような翼があり、それをパタパタと忙しなく動かして宙に留まる。
 臀部からは矢印のような尻尾。
 黒いタキシードで身を包み、赤い蝶ネクタイ。
 二頭身ボディからなる頭部は、清潔感のあるオールバックで、髪の色は瞳と同色の赤。
 肌の血色は悪魔とは思えないほどに良い肌色。そしてプニプニのほっぺた。
 その姿は人間を愛らしくデフォルメしたようなものだった。
 マスコットのような見た目からなる存在――千里眼の小悪魔ミルモンの召喚。
 
 召喚したばかりだが、その愛らしさに当てられてしまったベルは、ミルモンの手前まで足を進める。

「あの――お姉さん? オイラを喚んだのは――」

「私だ!」
 大声でそう返せば、ミルモンの小さな体がビクリと震え、尻尾がピンッと天井を向くように伸びて硬直する。
 ベルから圧を受ければ、悪魔であっても緊張するようだな。

「違うぞ。ベルじゃないぞ」
 圧を受けているであろうミルモンに俺がそう言えば、

「じゃあ兄ちゃんかい?」
 美人であるが、圧を与えてくる存在に何かしらの脅威を感じ取ったミルモンは、俺の返事に対応するように急いでこちらへと飛んでくる。
 
 そして俺の耳元まで近づいてくれば、

「あのお姉さん凄く美人だけど、なんか怖いね」
 オイラを見てくる眼力には強い念が籠もっていた。とのことで、悪魔である自分に恐怖を植え付けてくるなんてとんでもない存在だと判断。
 本来、人間の負の感情なんかが悪魔にとっての栄養分なのに、オイラがその恐怖を抱いてしまったよ……。との事だった。

 ベルは愛らしい者を目にすると途端にポンコツになるからな。
 まあベルのお陰でミルモンが俺に対して、フレンドリーに話してくれたのは有り難いけども。
 一応は悪魔だからな。召喚と同時に敵意を向けられてしまえば、交渉する時の弊害になってしまう。

 俺が安堵をしている中で――、

「私は怖くないよ。ミルモン」
 ベルはミルモンの小声を聞き逃さなかったようだ……。
 可愛い存在の声は、どんなウィスパーボイスであっても聞き逃さない! っていう能力でもあるんですかね……。
 会話の内容を聞かれていたミルモンはベルに対し、若干ひきつった笑みを貼り付けて返していた。
 で、俺の背後に移動してくる。
 いやはや有り難いよベル。これならミルモンとの交渉もすんなりと出来そうだ。
 
 現に、ここではオイラは素直にしておいたほうがいいようだね。といった発言を耳にすることが出来たからな。
 ファーストコンタクトとしてはよい出会い方だった。
 ベルがポンコツになるのだけはどうにかしてほしかったけど……。

 ――――ミルモンには執務室にて応接に使用するソファに座ってもらい、くつろいでもらう。

「なるほどね。ここはオイラの住んでいた世界――アザアル界じゃないんだね~」

「皆、ミルモンのような小柄な連中ばかりじゃないもんな」

「いやいや、オイラの世界にも人間はいるよ」

「あ――そうだったな」

「なんだい? 兄ちゃんはオイラの世界を知っているのかい?」

「ええっと――さわりだけ」

「さわりだけ?」

「うん。なんかゴメン」

「なんで謝るのさ? まあいいけどね。負の感情を美味しくいただけるから。ついでにこのホットミルクも」
 ぐい呑みを両手で持ったミルモンが、ぷはぁっと発しながらホットミルクを飲む姿は可愛い。
 口周りが白くなっているのも可愛い。
 
 俺ですらそう思うのだから……、

「はぁぁぁぁ……」
 婀娜っぽい声を漏らすベルの顔は目尻が下がったもの。
 キレのある普段の目とは真逆である。
 可愛いものにはめっぽう弱い最強様である。

「うん……。やっぱりオイラはこの世界では素直にした方がよさそうだね……」
 ベルの可愛いものを見る目。つまりは幸せオーラに支配されているからか、負の感情が好きな小悪魔は、ベルの幸福感情に気圧されているようだった。

「変なことは考えないってのは懸命だよ。ここの面子は強者揃いだからな」

「そのようだね。身を守るためにも友好的な――」

「安心しろ! 私がその身を守ってやろう」

「「……」」
 対面するミルモンと見合う俺。
 小さく首肯を行ってから、

「ベルはちょっと黙ってようか」

「あぅ……」
 ポンコツモードは本当に役に立たない……。
 いや、抑止として役に立ってはいるな……。

 ――。
 
 この世界での状況を簡単にミルモンへと説明。 

「オイラの知らない魔王――ショゴスね。そいつが滅茶苦茶やってるわけだ。本当にここはアザアル界じゃないんだな~」

「信じてもらえるかな?」

「まあ、兄ちゃんのお仲間さん達の恰好を見れば信じられるかな。服装に違いがありすぎるからね。オイラ以外にも違う世界から喚ばれた面々だと考えるべきだよね?」
 コクリコやシャルナ達の現地民の服装。
 ゲッコーさんのスニーキングスーツ。
 ベルの白からなる軍服。
 先生の漢服。

 ミルモンが言うように、統一性がない服装だ。
 コスプレイヤーの待合室のようにも見える風景である。
 
 だが、その統一性のなさが説得力に繋がったのは儲け物。
 意図しないことでミルモンから信用を得る事が出来た。
 
 
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