上 下
1,211 / 1,668
発展と鍛錬

PHASE-1211【存外――柔らかいじゃないか】

しおりを挟む
 憧憬の眼差しを向けてくる皆さんを端から端まで見渡したところで――、

「「「「長旅お疲れ様でした!!!!」」」」
 と、声を揃えて俺達を労ってくれる。
 戦いの時には揃った声のように、素晴らしい連携に期待したいところである。

「有り難う」
 馬上にて丁寧な挨拶でこちらも応える中、更にそこからコクリコが前へと出て、馬車の屋根に飛び乗ってからのガイナ立ち。
 居並ぶ面々を見下ろして最高に気分は良さそうだけども、

「……ぬぅ……」
 なぜか表情が曇る。
 新人さんではあるけども、思いの外、自分と位階が同等の者が多いことが原因だろう。
 馬車から軽やかに跳躍し、俺が騎乗するダイフクに飛び乗ってくる。

「得心がいきません」
 俺の後ろに着地したコクリコが耳打ち。
 耳打ちという接近もそうだけど、結構な密着を美少女がしてくるもんだから俺はテンパってしまう。
 テンパってしまうが新人さん達の前でもある。
 無様な表情は出来ないからポーカーフェイスにて対応しているけども、心臓はバクバクですよ。
 コクリコはもっと女の子としての恥じらいを持つべきじゃないの。
 王都への途上中、野営時に腰が痛いと言うから擦ってやると言えば、気安く柔肌に触れられるとでも? なんて言ってたくせに、自分は俺にガッツリと体を密着してくるじゃないの。
 男に密着するなんてことを気軽にするなんてはしたないぞ。と、年上としては注意しないといけないのだろうけども――。
 反面――以外と柔らかいじゃないか。って邪な考えが生まれてしまう。
 とういうより、その考えに支配されていく。
 まな板だと思っていたが、一応はあるんだな。
 ――侮っていたよ。
 
「聞いてますか?」

「聞いてりょ」

「なんで呂律がまわっていないんですか」
 お前がくっついているからだよ。
 ポーカーフェイスではあるが、鼓動の高鳴りによる精神の高ぶりがどうしても表面に出てきてしまうようだ。
 童貞だからね。仕方ないね。

「これでは私は恥をかきますよ」

「だからちゃんと位階を上げるのは約束しているから心配すんなよ。今回のエルフの国での八面六臂の活躍は認めているんだから」

「でしたら黄色級ブィとは言わずにもっと上をお願いしますよ」
 くっつくなよ!
 なにコイツ!? まさかの色仕掛けで俺を籠絡させようとしているのか!?
 だとしてもその胸では……。

「お願いしますよ」

「う~む……」
 ――……って! なにを考え込んでんだ俺! 
 十分にその胸によって籠絡されかけているじゃないか。

「駄目! お前はしっかりと俺みたいに地道に向上していくように!」

「けちくさいですね」

「コクリコのためでもあるんだからな」
 ここで二階級アップなんてすれば、絶対に調子に乗るもの。
 これ以上、調子に乗らせてはいけないからな。
 手綱はしっかりと握らせてもらう。
 ――……それよりも耳打ちを止めて。俺のポーカーフェイスがにやけに変わってしまいそうだから……。

「と、とにかく地道にだ。納得してくれよな」
 ――…………。
 なんだよその間は?
 この間にコクリコの温かさと柔らかさを背中で存分に堪能しものいいのかな?

「ハッ!」
 堪能するつもりだったけども、何とも馬鹿にしたような返事がくる。
 肩越しに見れば琥珀の瞳が半眼となっており、返事と同様に表情も馬鹿にしたものだった。
 その表情に俺はコクリコの柔らかさを堪能する以上にイラッとしてしまう。

「納得しろよ。地道が一番だぞ」

「嫌ですね」
 コイツ……。王都に戻った途端これだよ。
 周囲の面々の認識票を目にして欲が出たな……。

「じゃあその白から変更なしでもいいんだな?」

「八面六臂の私の活躍を一階級昇進だけで済ませれば、他が納得しませんよ。他の者たちの不満を抑えるためにも必要な事だと具申します」
 コクリコの活躍。
 確かに今までの功績に加えて今回のエルフの国における大活躍を考えると、勇者パーティーの中でも頑張ってくれたのは事実。
 
 最初の頃は調子に乗っていたコクリコを勇者パーティーから追放してやろうと考えてもいたっけ。
 追放した後に活躍を耳にしたところで、こちらは土下座しながら泣いて戻ってきて! と、言わない自信しかなかったけども。
 冗談はさておき――、励んでいる人材が相応の扱いを受けなければ、やる気に繋がらないし不満も出てくるってのは分かる。
 結果、それらが積もり積もることでギルド全体に不協和音が出てくるだろう。

 頑張っても正当な評価が受けられないのなら別のギルドに流れたり、自由な野良へと戻る事になるかもしれない。
 ――それでもいいのですか?
 と、至極真っ当なことを己の位階アップの為に耳打ちによって力説してくる。
 コレには俺も首肯でしか対応できなかった。
 しっかりと背中に伝わる控えめな柔らかさを堪能しながらだけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

処理中です...