上 下
1,208 / 1,668
余暇

PHASE-1208【誰が小僧だ!】

しおりを挟む
「向き合うのは全てを終わらせてからにするよ。その為にはこの弓に恥じないように励まないといけないね」

「本来は王から賜る弓なんだろうけどな。ルミナングスさんから俺を介してのもので悪いな」

「別に気にしないよ。そもそもトールは現王の師匠だからね。むしろ光栄だと思う事にするよ」

「お、そうか!」

「嘘だけどね」

「なにおう!」

「ハハハハ――――」
 まったく。
 まあ、いつものように元気なシャルナに立ち戻ってくれたから良かったけどな。

「トール」

「なんだ」
 笑顔から真面目な顔になってるけど。

「――ありがとね」
 からの即、笑顔。

「――お、おう」
 やべえな。流石はエルフだ。
 屈託のない笑みを向けられれば、こっちの鼓動は早鐘を打つ。
 ただ打つのじゃなくて、伝説のドラマーが打ってんのかとばかりに激しくもありスピーディーに叩かれている気分だ。
 
 何となく良い雰囲気にもなっているような気もしないではないが……、

 ――チラリと外側を見れば、聞き耳を立てていたのがさっき以上にテントに張り付いている……。
 夏の山で白い布にライトを当てて虫を集める手法が頭内に浮かんだよ。
 二人が原因で雰囲気は台無しってところだな。シャルナもその二人の影を目にして苦笑してるし。

「さてさて、このまま居続けると外の二人を無視して私に襲いかかってくるかもしれないからお邪魔しようかな」

「なぬ!?」

「あ、やっぱり考えてたのかな~」

「この遠坂 亨、その様な事は一切考えてなどおらぬ! 心はいつもシベリアの真珠ことバイカル湖のように透き通っている!」
 ――考えてはいない。芽生えそうになっただけだ! と、心の中で継がせていただく。

「透き通っているとは思ってあげないけど、私を元気づけようと動いてくれたトールは最高に格好良かったって評価してあげる」

「なんだその上からな言い様は。いい女気取りですか」
 実際いい女ですけども。
 
 ――――!?

「え!? なに!? いま最高に格好良かったって言ったの!」

「そこで聞き返すのが格好悪いところなんだろうけどね~」
 屈託のないものから悪戯じみた笑みへと変わるシャルナ。
 おちょくられているのか、どうなのか。
 だが俺の人生において始めて女性――しかも凄い美人から面と向かって格好いい発言をもらうことが出来るとはね。
 異世界最高! って思いが頭の中を支配したよ。

「発言に勘違いしてトールが狼になるかもだから、やっぱり早々に退散しよ~っと」
 と言いつつ、俺へと背中を向けるシャルナ。
 おちょくるつもりだったのかもしれないが、最高に格好いい発言を口にした事が恥ずかしかったようで、隠すことの出来ない笹の葉のような長い耳が真っ赤に染まっていた。
 
 ――足早にテントから出て行くシャルナを見送るように俺もテントから出る。
 出た矢先に――、

「なんじゃい! もっとガッといかんかい! 中々にいい感じだったようなのにの! おもしろくないの! 股間に陽根ついとらんのか情けない!」
 攻めに転じなかった俺に、酒気をまき散らしながら不満を漏らすギムロンの姿は正に悪酔いした鬱陶しいおっさん。

「恥ずかしげもなくテントに耳をつけて中の話を聞いてたヤツに言われたくねえよ」
 お前等がいたからってのも手を出せなかった理由なんだよ。
 ――……まあ、そもそもヘタレな俺が手を出すなんて事は出来ないけども……。

「まったくトールはとんだすけこましですよ。我らがギルドの要である知恵者たちは人誑しの才があるなどと言っているようですが、すけこましの間違いですね!」

「俺のどこがすけこましなんですかねコクリコさん」
 元気づけてお礼を言われて出て行かれただけなのに、なんですけこまし扱いなんだよ!
 最高に格好いい発言くらいですけこましなんて称号が手に入るなら、陽キャと呼ばれる俺と対極に立つ者たちは、全てがすけこましの称号を得ることになるっての!

「なんともおもしろくないですね!」

「何でギムロンと同じような言い様なんだよ。十四歳がおませな事を考えるな。それとも何か? 俺に攻めに転じてほしかったのか?」

「そんなわけないでしょう!」

「あいた! なんで蹴るんだよ!」

「ふん! お湯の管理は自分でしてくださいね!」
 ――……まったく。何が気に入らないのやら……。
 蹴るだけ蹴って立ち去るとは……。

「最後まで全うしないとはな。これだと位階のアップは考え直さないといけないな」

「ほ~」

「どうしたよ?」

「いやいや。会頭もまだまだ小僧だと思っただけよ」

「なにぃ!」
 そら二百年以上の歳を重ねているドワーフから見たら小僧だろうよ!
 小僧の部分の言い方が馬鹿にされた語調だったからイラッとしたぞ!

「色事が好きそうなのに、その手前は見えとらん。かぁぁぁぁ――情けない!」
 よし! エルフの国での続きをやろうか。今度は丸太でボコボコにしてやる!

「だからこそ春の到来はまだまだ遠いんだよ」

「そうね~」

「藪から棒に二人して」
 見回りを終えたゲッコーさんとリンが俺を残念な感じで見てくる。

「確かにこの寒さはまだまだ続くでしょう。ですがトールと季節に何の因果関係があるのかが分かりませんね」
 と、二人に続くのはベル。
 ベルの言っている事は至極当然と思っているのだが――。どうやらそう思っているのは俺だけのようであり、ゲッコーさん、リン、ギムロンは顔を見合い――、

「「「やれやれ」」」「だぜ」「だわ」「じゃの」と、語末はシンクロさせなかったが、肩を竦めて首を左右に振るという動作はしっかりと揃え、且つ半眼で俺を見てくる。
 
 三人の発言と動作に対し――、

「「?」」
 俺とベルは疑問符を浮かべて見合うという所作で返す。
 答えを求めようとしたのに、三人は俺たちに背を向けての解散。

「なんなんだよ」

「さあな」

「あ、コクリコがお湯を沸かしてくれているからな」

「それは助かる」
 といった会話をベルとやり取りしながら夜は更けていった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...