上 下
1,173 / 1,668
トール師になる

PHASE-1173【いびつなバランス】

しおりを挟む
 ――――魔王軍ってのはいびつな力関係で出来ているようだね。
 そこを突けば一気に崩れるかもしれないな。
 となれば、こちらから動いてそこを突いて崩せばいいような気もする。
 そこら辺を刺激すれば内部抗争に発展させることも出来るかもな。
 先生や荀攸さんに相談すれば、最上の策を繰り出してくれること間違いなしだ。

「造反を狙っても意味はないわよ」

「ソンナコトハ、カンガエテイナイヨ」

「なんなのその語り方は……」

「う、ううん。意味は――ないのか?」

「ない」
 きっぱりと言い切るね。

「それはなぜ?」

「それはお前――お前達が原因でしょうね」

「なぜに!?」

「お前達によって蹂躙王ベヘモトは醜悪な顔に土をつけられたからね」

「言い方よ」
 失態したことがよほど嬉しいのか、クツクツと笑みを湛える。
 味方であっても蹂躙王コイツに関しては一切ぶれない悪態。
 なんか戦っていた時は恐怖を感じた嘲笑だったけど、今では性悪美人の笑み程度に見えてしまうのが不思議だよ。

「本来は王都を落とし、そこを中心として各地の人類やエルフなどが住まうカルディア大陸を征服、統一をと考えていたのだけどね」
 だがあろう事か蹂躙王ベヘモトの軍勢は、余裕の戦ということから遊びに興じるようになった。
 王都付近の要塞、砦までも落とし、尚且つ王都内へと侵入することも可能となっていたのに、欲にまみれたクズ共が欲を優先とした動きへと移行してしまう。
 ここのデミタスの説明部分は怒りを隠すことが一切無く、感情が大いに体から溢れていた。
 俺に向けての怒りではなかったのでプレッシャーは感じなかったけども、絶対に許すことが出来ないといった怒りを脱力した体全身でも感じ取れた。
 
 ――欲にまみれたってのは、王都の女性を連れ出して好き放題していたってことだろう。
 実際にゲッコーさんが潜入してくれたリド砦では、多くの女性が全裸で囚われていたからな。
 その前の話になると、王都に跋扈していた連中。そしてその後、王都に迫り来る者達を召喚したばかりの最強状態の赤髪だったベルが、レイピアの一振りで生み出した炎の大波で撃退した。
 
 そこからゲッコーさんを召喚してリド砦に潜入してもらい、ベルと俺……あの時の俺はまったくもって役に立っていない存在だったな……。
 ――……とにかく三人で砦を攻略した。
  
 更にその後、先生を召喚して王都にカイルたち後のギルドメンバーになってくれた冒険者たちを集わせ、兵を精強へと変えていくことで王都に侵攻してきた蹂躙王ベヘモトの麾下である、ホブゴブリンのバロニア指揮する約一万の軍を危なげなく撃退できた。
 王都が追い込まれた状況からの反攻も一年前になるんだな。
 
 ――以降は高順氏のお陰で不落の要塞と化したトールハンマーの存在により、蹂躙王ベヘモトは北伐が悉く失敗し、攻めあぐねている状態。
 
 王都まで攻め込んでいて大きな後退を余儀なくされた事に現魔王であるショゴスもお怒りではあるそうだが、いかんせん大規模な戦力を有している蹂躙王ベヘモトことカルナックには強い叱責はしていないそうだ。
 それをいい事にカルナックは形だけの侵攻へとチェンジ。
 見て分かる程に北伐への力を緩めているという。

「なんで?」

「さっきも言ったわよね。強欲な存在だって。自分の力を温存したいのよ。欲の塊なのだから。だからこそ自分の所有物が消耗することを惜しむ。見ようによっては兵に対して慈愛ある行動のようで、そう判断するゲスな配下達からの信頼はすこぶる高いようね」
 実際は部下の消耗を惜しんでいるのではなく、三百万を超える兵を動かすとなれば輜重もとんでもない事になる。
 それらを多く失うのが嫌だというのが本音だとデミタスは付け加えた。
 なので北伐の時は魔王サイドから物資を提供してもらって攻撃を行っているという。
 で、流石の魔王サイドも三百万の兵力すべてに対して物資を無尽蔵に送るなんて事は出来ない。
 でも北伐はしてもらいたい。
 なので叱責はしても強くは咎めない。
 いびつではあるが相互の思惑が奇跡のバランスとなっているようで、そこを崩すってのは難しそうだ。

「現魔王も苦労してるんだな」

「苦労などしないわよ。カルナックなど聖祚が殺そうと思えばいつでも殺せる。ただ無用な内乱に発展すればお前たちが調子づく。先ほどもそれを画策していたようだし。それが分かっているからこそ粛清を実行しないのよ」

「だろうね」
 といっても、瘴気が充満している以上、こちらも攻めあぐねているから南伐が出来ないんだけどね。
 カルナックもそれが分かっているから大軍ではなく兵を小出しにして損耗を抑えているってわけだ。
 後々、自分が魔王を名乗るために――。

「なら瘴気が浄化されてこっちの動きがよくなれば」

「その時はあのクズは困るでしょうね。本腰を入れないといけないのだから」
 それはお前達もだろうと言いたかったが――やめておく。
 デミタスにとってはショゴスへの忠誠よりも、蹂躙王ベヘモトカルナックへの復讐心の方が強そうだしな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...