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トール師になる

PHASE-1170【俺以上】

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 ――――リンファさんの安全がデミタスの口から確認できた事は良かった。
 頭も切れるし、虚言を使うようなタイプだけども、根はデスベアラータイプだから信用は出来る――と思いたい。
 戦闘時と非戦闘時のオンオフはしっかりしていると――思いたい。

 ここでちょっと話題を変えて――、

「じゃあ俺からも質問いいか?」

「受けてやろう。ただし手短に」

「ありがとう」
 態度はでかいけども話は聞いてくれるみたいだ。
 でかい態度の美人は普段から俺の周囲にいるから、上からな態度には耐性が出来ている。
 なのでムッとすることもなく、素直に謝意を声にして出せば、わずかながらデミタスは驚いた顔を見せてきた。
 俺が大器ある男だと判断したみたいだな。

「愚鈍の才に恵まれているようね」
 ――……大器とは思っていなかったようだ……。

「それで愚鈍は何が聞きたいのかしら? 魔王軍の内情は語らないわよ」
 当然だろうね。

「気になった事があったからさ。成すべき事があるって言ってたけども。それはなんだろうな~って」
 可能ならば俺を殺すという内容じゃない事を祈りたい。
 会話の前後からして、明らかに俺に対してのものではなかったのは理解しているけど。
 
 ――……うん……。
 聞かなければよかったかもしれん……。

「ギャア、ギャギャッ!」
 周囲で俺を守ってくれているゴブリン達が騒ぎ始める。
 手にした尖頭器などの武器をデミタスに向けるも、乱杭歯からは恐怖によるシバリングを奏でる。
 圧倒的な殺意がデミタスから迸っているからね……。仕方ないね……。
 冷気を思わせる殺意のオーラが、デミタス全体を包んでいるかのような幻視。
 それほどに殺意が溢れていた。
 
 でも――、

「俺じゃない」
 と、独白でポツリと呟く。
 こういった圧倒的な強さを持つ者が放つ殺意、殺気なんかは他には向けられず、対象にだけ向けるものなんだろうが、今のデミタスの殺意は放射状に放たれている。
 強者であるのに殺意を抑える事が出来ていない状態。
 デスベアラーの仇である俺以上に怒りを抱く対象がいるというのが推測できる。
 
 ――デミタスとの戦闘時に行った会話のやり取りを思い返す。

 魔王護衛軍の中でも精鋭からなるレッドキャップス。
 そこに所属し、現魔王であるショゴスにより生み出されたデスベアラーの配下という立場からして、現魔王や同胞に対しての殺意ってものじゃないだろう。

 ――となると――、

蹂躙王ベヘモト――か?」
 今回も独白のつもりだったけども、デミタスはその言葉を聞き逃さなかったようで、表情が瞬時に豹変。
 ビンゴだったようだ。
 
 俺を守っていたゴブリン達は恩も大事だが、自分たちの命はもっと大事だったのだろう。自然の中で生きているからこその素直さが出る。
 出来れば俺も運んでほしかったけども、そんな暇はないとばかりにデミタスから距離を取って巨木の背後へと身を隠す。
 目の前の怒りを感じれば仕方ないか……。
 この殺意に当てられて股間から漏らす事なく耐えている俺は偉いと思うよ……。

「その名を耳にし、口にするだけでも反吐が出る!」

「でも出してたよね」

「あの時は口が腐る覚悟で発したのよ!」
 それほどですか……。
 美人が台無しとばかりに鼻息荒く怒気を言い放った後、自制するかのように長い深呼吸を一回。
 動悸が激しくなっている俺も自然とそれを真似ていた。

「不快であり、いずれは私が殺すのがあのクズだ。先ほどの魔王軍の内情は語らないという発言の一部を撤回させてもらうわ。ヤツとヤツの部下達の情報だけなら好きなだけ話してやってもいいわよ」

「同じ魔王軍でも随分と違うようで」

「当然ね。お前も仇ではあるけど――私個人を痛快にさせてくれている事もあったりする」

蹂躙王ベヘモトとその下の連中が失態を重ねることか?」

「そうよ。特に北伐においての失態の連続には哄笑してしまうほどよ」
 魔王軍――しかも護衛軍所属の存在としては完全にアウトな発言だな。
 それほどに対象が不快なんだろう。
 ――で、魔王軍から見て北伐って事は、こちらから見れば南方からの脅威となる。

 つまりは――、

「対魔王軍、南の要衝となってくれている要塞トールハンマー攻略の立て続けの失敗ってやつか」

「ええ、敵ながら見事よね。伝聞だけど、あの地を守る人間の将は偉大なようね」

「そらそうだ。清廉潔白を具現化させたような人物である陥陣営様だぞ」

「陥陣営か――。確かにそのような戦い方をする御仁のようね」
 敵であろうとも称賛に値する人物には敬語表現を使用するんだな。
 デミタスって性格がベルに似てるかも。
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