1,168 / 1,668
トール師になる
PHASE-1168【ネタ要素で大痛打を与えたとは言えない】
しおりを挟む
――――種族の垣根を取り除きたいという俺の考えをデミタスへと滔々と述べた。
――……静寂の訪れ。
この間がすごく怖い……。
死刑執行を待たされる気分だ……。
「非常に不愉快ではあるけど、私を前にし、恐れを抱きながらも立ち塞がるゴブリン達の義理を重んじる精神に免じて――今回は見逃してやる」
「そりゃ助かるってもんだ」
俺の立ち位置からすれば本当に助かったわけだ。
ゴブリン達を一蹴して俺を殺すなんて可能なのは分かっている。
いくら傷の治りが遅い状態だとはいえ、動けない俺を殺すなんて簡単でしかないからな。
「だが今回だけ。そもそも本来の目的はこの国を中枢から崩壊させるもの。お前の殺害は今後、主目標としてから下してやる。せいぜい私以外に殺されないことね」
――…………。
「なに、その顔は?」
「ああ、いや。言いようが完全に後々、味方になってくれるヤツの台詞そのものだったから。なんならヒロイン候補に――んぐぅん!?」
「やはりこの場で殺してあげようか?」
――……ゴブリン達が立ち塞がっていても何の意味も無いとばかりに俺の目の前に立てば、強烈な踏みつけ。
ガッツリと頭を踏みつけられる俺……。
この辺はベルと違って優しさは微塵もなく本気で踏んでくる。
まあ性癖が性癖なら大層なご褒美なんだろうが……。
俺は痛くて苦しいだけだけ……。
「殺してあげようか?」
再度、問うてくるので、
「丁重に……お断り致します」
と、弱々しく返す。
「ふんっ」
「ぎゅん!」
足をどける前に強い踏みつけをされてからの解放。
「この体の状態でここに留まれば追っ手への抵抗は難しい。私はまだ成すべき事を成していない。故に死ぬことは出来ない。さっさと撤退したいがどうしても腑に落ちない事がある」
「それは感知タイプであるのに、なんで俺の存在に気付くことが出来なかったかって事か?」
「そう」
「手の内をそう簡単に晒すわ……教えてやろう。なので踏みつけようとしないでもらいたい……」
本当に……殺そうと思えばいつでも殺せる状況だな。生殺与奪を有しているって言うだけある。
でも、発言どおり今回は見逃してくれるということなのか、俺を守ってくれるゴブリン達は過剰に反応しない。
デミタスが纏っていた殺気が今はないからってことなのかな?
これだけの実力者だと殺気を纏うことなく対象者を殺害するなんて簡単にできそうだけども……。
――ここは素直に手の内を晒すことで殺されるのを回避しよう。
というか、動けない俺にはその選択肢しかない……。
デスベアラーと同じような真面目タイプだからな。発言した以上は約束は守るだろう。
デスベアラーと違って策謀でこの国を傾けようとしてた存在だから約束を反故するって可能性もあるけども……。
――――伏臥の状態だと話しにくいだろうと察してくれたのか、ゴブリン達が気を利かせて俺を起こし、側の巨木まで運んでくれる。
体を木へと預けてからデミタスに教える。
ここで嘘をついて相手の不評を買えば殺される可能性もあるので真実を伝えた。
――……まったく勇者だってのに情けないったらありゃしない……。
強者相手に一人で不安だってのに、この場にパーティーメンバーがいなくて良かったと思っている俺もいる。
――――俺が召喚したギャルゲー主人公の家。
普段は旅の最中、野営をするのを回避する為に使用しているが、この家には不思議な力もある。
といってもゲーム内だと完全なネタ要素だけど。
今回の戦いではそのネタ要素を理解して利用した事で、デミタスの背後を取ることが出来たわけだ。
前例があったから試すことも出来た。
前例がなかったなら試そうとも思わないし、そもそもこんな攻撃手段を思いつくこともなかっただろう。
ネタ要素などと言ってもデミタスには理解できないのでそこは端折り、ある一定の空間に入り込めば気配を察知されなくなるという事だけを伝えた。
「その一定の空間というのがあの小部屋と周辺だったわけね。侵入したかぎりでは浴室のようだったけど」
「まあな」
「なぜ浴室付近で気配を感じる事が出来なくなるのかしら?」
「うん。そういった仕様なんだから仕方ない」
「何とも面妖なことね。まあ、お前が使用するモノは全てが面妖な力を有しているようだけど」
「おう、そうだな」
「しかし解せないわね。浴室で気配が察知できなくなるなんて何の意味があるのかしら? 本来、浴室は最も無防備になる場所。そこで気配が察知できなくなるとは無意味な効力よね」
「でも効力はあっただろう」
「まあ――ね」
無意味と言うもそれで手痛いダメージを受ければ、俺の発言を受け入れる。
本来ならデミタスが思った感想が正しいんだろうけどな。
でもな――、察知できなくなるってところに浪漫があるんだよ。
ギャルゲーの浪漫。それはヒロイン達が入浴しているところに、主人公が気付くことなく浴室に入るということ。
そしてその主人公が入室しても目と目が合うまでヒロイン達も気付かないという仕様なのがギャルゲーの浴室あるあるなのだから。
事実、この家を初めて召喚した時、いま目の前にいるデミタス以上に感知能力が高いベルであっても、俺の入室に気付くのにワンテンポ遅れたし、俺もベルが入っているなんて分からなかったからな。
今回はそのギャルゲーにおけるギャグ要素にして、ご都合お色気シーンが発生する場所を利用してデミタスに大痛打を見舞うことが出来たわけだ。
家の効力を教えるにしても、この部分だけは絶対に口に出来ないけどね。
まず言っても信じてくれないだろうし、信じたとしたら屈辱でしかないだろうからな。
汚点は消し去るとばかりに約束を反故にして、俺を殺害するという考えになられては困る。
――……静寂の訪れ。
この間がすごく怖い……。
死刑執行を待たされる気分だ……。
「非常に不愉快ではあるけど、私を前にし、恐れを抱きながらも立ち塞がるゴブリン達の義理を重んじる精神に免じて――今回は見逃してやる」
「そりゃ助かるってもんだ」
俺の立ち位置からすれば本当に助かったわけだ。
ゴブリン達を一蹴して俺を殺すなんて可能なのは分かっている。
いくら傷の治りが遅い状態だとはいえ、動けない俺を殺すなんて簡単でしかないからな。
「だが今回だけ。そもそも本来の目的はこの国を中枢から崩壊させるもの。お前の殺害は今後、主目標としてから下してやる。せいぜい私以外に殺されないことね」
――…………。
「なに、その顔は?」
「ああ、いや。言いようが完全に後々、味方になってくれるヤツの台詞そのものだったから。なんならヒロイン候補に――んぐぅん!?」
「やはりこの場で殺してあげようか?」
――……ゴブリン達が立ち塞がっていても何の意味も無いとばかりに俺の目の前に立てば、強烈な踏みつけ。
ガッツリと頭を踏みつけられる俺……。
この辺はベルと違って優しさは微塵もなく本気で踏んでくる。
まあ性癖が性癖なら大層なご褒美なんだろうが……。
俺は痛くて苦しいだけだけ……。
「殺してあげようか?」
再度、問うてくるので、
「丁重に……お断り致します」
と、弱々しく返す。
「ふんっ」
「ぎゅん!」
足をどける前に強い踏みつけをされてからの解放。
「この体の状態でここに留まれば追っ手への抵抗は難しい。私はまだ成すべき事を成していない。故に死ぬことは出来ない。さっさと撤退したいがどうしても腑に落ちない事がある」
「それは感知タイプであるのに、なんで俺の存在に気付くことが出来なかったかって事か?」
「そう」
「手の内をそう簡単に晒すわ……教えてやろう。なので踏みつけようとしないでもらいたい……」
本当に……殺そうと思えばいつでも殺せる状況だな。生殺与奪を有しているって言うだけある。
でも、発言どおり今回は見逃してくれるということなのか、俺を守ってくれるゴブリン達は過剰に反応しない。
デミタスが纏っていた殺気が今はないからってことなのかな?
これだけの実力者だと殺気を纏うことなく対象者を殺害するなんて簡単にできそうだけども……。
――ここは素直に手の内を晒すことで殺されるのを回避しよう。
というか、動けない俺にはその選択肢しかない……。
デスベアラーと同じような真面目タイプだからな。発言した以上は約束は守るだろう。
デスベアラーと違って策謀でこの国を傾けようとしてた存在だから約束を反故するって可能性もあるけども……。
――――伏臥の状態だと話しにくいだろうと察してくれたのか、ゴブリン達が気を利かせて俺を起こし、側の巨木まで運んでくれる。
体を木へと預けてからデミタスに教える。
ここで嘘をついて相手の不評を買えば殺される可能性もあるので真実を伝えた。
――……まったく勇者だってのに情けないったらありゃしない……。
強者相手に一人で不安だってのに、この場にパーティーメンバーがいなくて良かったと思っている俺もいる。
――――俺が召喚したギャルゲー主人公の家。
普段は旅の最中、野営をするのを回避する為に使用しているが、この家には不思議な力もある。
といってもゲーム内だと完全なネタ要素だけど。
今回の戦いではそのネタ要素を理解して利用した事で、デミタスの背後を取ることが出来たわけだ。
前例があったから試すことも出来た。
前例がなかったなら試そうとも思わないし、そもそもこんな攻撃手段を思いつくこともなかっただろう。
ネタ要素などと言ってもデミタスには理解できないのでそこは端折り、ある一定の空間に入り込めば気配を察知されなくなるという事だけを伝えた。
「その一定の空間というのがあの小部屋と周辺だったわけね。侵入したかぎりでは浴室のようだったけど」
「まあな」
「なぜ浴室付近で気配を感じる事が出来なくなるのかしら?」
「うん。そういった仕様なんだから仕方ない」
「何とも面妖なことね。まあ、お前が使用するモノは全てが面妖な力を有しているようだけど」
「おう、そうだな」
「しかし解せないわね。浴室で気配が察知できなくなるなんて何の意味があるのかしら? 本来、浴室は最も無防備になる場所。そこで気配が察知できなくなるとは無意味な効力よね」
「でも効力はあっただろう」
「まあ――ね」
無意味と言うもそれで手痛いダメージを受ければ、俺の発言を受け入れる。
本来ならデミタスが思った感想が正しいんだろうけどな。
でもな――、察知できなくなるってところに浪漫があるんだよ。
ギャルゲーの浪漫。それはヒロイン達が入浴しているところに、主人公が気付くことなく浴室に入るということ。
そしてその主人公が入室しても目と目が合うまでヒロイン達も気付かないという仕様なのがギャルゲーの浴室あるあるなのだから。
事実、この家を初めて召喚した時、いま目の前にいるデミタス以上に感知能力が高いベルであっても、俺の入室に気付くのにワンテンポ遅れたし、俺もベルが入っているなんて分からなかったからな。
今回はそのギャルゲーにおけるギャグ要素にして、ご都合お色気シーンが発生する場所を利用してデミタスに大痛打を見舞うことが出来たわけだ。
家の効力を教えるにしても、この部分だけは絶対に口に出来ないけどね。
まず言っても信じてくれないだろうし、信じたとしたら屈辱でしかないだろうからな。
汚点は消し去るとばかりに約束を反故にして、俺を殺害するという考えになられては困る。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる