1,158 / 1,668
トール師になる
PHASE-1158【真面目かっ!】
しおりを挟む
「フンスゥゥゥゥゥウ!」
鼻息を荒くし、軋む体で懸命に受け止めている俺と違い、涼しい表情の相対する方からは――、
「なんとも不格好な表情ね」
と、小馬鹿にした発言を俺の耳朶に届けてくる。
「不格好は生まれた時からだよ!」
「そうかしら? 普段の時は可愛げのある表情だけど」
やめて。戦闘中だし、間違いなく死の淵で踏ん張ってる時に言われるのは困る。
そんなことは修羅場な状況ではなく平時に言ってくれ。
「ブレイズ!」
残火に炎を纏わせる。
力んだ状況による発動だったからか、普段以上に炎が残火から巻き起こる。
並の相手なら十分な脅威になるだろうが、眼前のお相手には牽制程度にしかならないだろう。
距離を少しでも取ってくれれば御の字だ。
「火力を加えたところで――ね!」
「ぐぇ!」
腹部に走る衝撃は蹴撃によるもの。
ここでも地面を勢いよく転がされる。
――……胃の中身を戻さなかった自分を褒めたいよ……。
思っていた展開じゃなかった……。怒りの混じった声による蹴撃を見舞われてしまう……。
腹部への蹴撃で地面を転がされたが回復をするまでのダメージはなかった。デミタスにとって距離を取るための蹴撃だったようだ。
素直に自分から離れてくれればいいってのに……。
「まったく、人をサッカーボールみたいに蹴っては転がしやがって」
「お前が不快になる行動をするからだ。大恩ある御方の命を奪い、尚且つその存在が炎の使い手となれば余計に腹立たしい!」
「ひょ!」
殺気の籠もったフランベルジュを俺へと振り下ろしてくる。
痛みに堪えながら矢庭に立ち上がり、何とか回避。
フランベルジュが地面を抉れば、重々しい音と共に大地を震わせ、生じた衝撃が履いた半長靴の裏から伝わってくる。
ジワジワと苦しめて殺すとか言っておいて、しっかりと頭へと目がけて振り下ろしてきたのは、後半の怒気の籠もった発言が関係してんのか?
明らかに恩人に対する発言の時よりも怒りを感じさせるものだったように思えた。
――ここでデミタスの動きが止まる。
大きな深呼吸を行っていた。
呼気によって体の中に溜まっていた怒りを吐き出しているかのように見える。
俺にとっても呼吸を整えられる貴重な時間だった。
「――――で、召喚が本当なら困ったものね」
はたして正にとばかりに冷静さが戻っていた。
「呼べば間違いなくお前は負けるだろうからな」
「司令を簡単に拘束してしまうだけの実力者を喚ばれるのはこの状況だと芳しくないわね。あの男――私が変身していた時から怪しんでいたようだし」
「え!? そうなの!」
「何も聞かされていないのはここまでのお前の行動でも分かってはいたけども。聞かされていないとなれば同情もするわね」
俺がデミタスの事に気付いていたら当然、単独に近いような行動はとらない。
――……ゲッコーさん……。
――……ゲッコーさんよ~……。
「時と場合を考えてスパルタしてほしいもんだよ!」
怒りの感情を爆発させるように、大音声によって発する。
深夜の森によく響いた。
「流石に疑うだけで拘束するのはよくないと判断したんでしょうね。でも大したものよねあの男。集落へと入る前にお前たちと別行動をしたけど、私がシャルナというエルフを狙う事が出来なかったのも全てはあの男が私を監視していたから。まったく、他者に気取られないようにしながら監視してくるのだから……。大人しくシャルナの姉を演じるだけしか出来なかったわよ」
――……!?
「あ、そういう事か……。ゲッコーさんがあの時、姉をしっかりと見張っといてやるみたいなことを言ってたけど、そういった意味だったのか」
「でしょうね」
だったらなんであの時にはっきりと…………、デミタスを泳がせるためか。
リンファさん自身が謀反を起こしている。
フル・ギルによって操られている。
これに加えて第三者が姿を変えていると仮定した場合、第三者を追い込めばリンファさんを人質として使われる可能性もあったから、無理な拘束や尋問を避けたと判断するべきなのかな。
「……だとしても……。少しは話してくれてもいいだろうよ……」
「敵を欺くために味方にも普段通りに接したのでしょうね。私が少しでも警戒しないように」
なんで敵のデミタスがゲッコーさんをフォローするような発言をするんだよ……。
ゲッコーさんめ! 後でしっかりと怒らせてもらう!
怒るためにもこの場をしっかりと乗りきらないとな!
それと――、
「それで、リンファさんは本当に無事なんだよな」
「無事」
「本当だな!」
「ええ。私は人質なんかを利用して戦うのがとても許せないのよ」
「エリスを攫わせといてよく言う」
「私が人質として利用するわけではないからそこは含めないでほしいわね。結果的にダークエルフ達も人質として使用しなかったのには驚きではあったけど。まさか最下級の族長がこの国の次期王の許嫁とはね……」
偽者どころか本物も知らないかもしれないビックリな内容だもんな。
「変身する対象の身辺情報をちゃんと得てから行動するべきだったな」
「それを言われれば私も返す言葉がないわね。こういった潜入活動は経験が浅いし、何より怨敵である勇者がこの国に訪れるというのを知ってからは、意識がお前に向いてしまった――などというのは言い訳でしかないわね。偏に臨機応変に事に当たることが出来なかった私の愚かさが問題」
人質として利用しなかったり、素直な反省だったりと――コイツ、クソ真面目だな。
いや、デスベアラーを恩人として慕っていた事から察するに、恩人と似たような性格なのかもしれない。
鼻息を荒くし、軋む体で懸命に受け止めている俺と違い、涼しい表情の相対する方からは――、
「なんとも不格好な表情ね」
と、小馬鹿にした発言を俺の耳朶に届けてくる。
「不格好は生まれた時からだよ!」
「そうかしら? 普段の時は可愛げのある表情だけど」
やめて。戦闘中だし、間違いなく死の淵で踏ん張ってる時に言われるのは困る。
そんなことは修羅場な状況ではなく平時に言ってくれ。
「ブレイズ!」
残火に炎を纏わせる。
力んだ状況による発動だったからか、普段以上に炎が残火から巻き起こる。
並の相手なら十分な脅威になるだろうが、眼前のお相手には牽制程度にしかならないだろう。
距離を少しでも取ってくれれば御の字だ。
「火力を加えたところで――ね!」
「ぐぇ!」
腹部に走る衝撃は蹴撃によるもの。
ここでも地面を勢いよく転がされる。
――……胃の中身を戻さなかった自分を褒めたいよ……。
思っていた展開じゃなかった……。怒りの混じった声による蹴撃を見舞われてしまう……。
腹部への蹴撃で地面を転がされたが回復をするまでのダメージはなかった。デミタスにとって距離を取るための蹴撃だったようだ。
素直に自分から離れてくれればいいってのに……。
「まったく、人をサッカーボールみたいに蹴っては転がしやがって」
「お前が不快になる行動をするからだ。大恩ある御方の命を奪い、尚且つその存在が炎の使い手となれば余計に腹立たしい!」
「ひょ!」
殺気の籠もったフランベルジュを俺へと振り下ろしてくる。
痛みに堪えながら矢庭に立ち上がり、何とか回避。
フランベルジュが地面を抉れば、重々しい音と共に大地を震わせ、生じた衝撃が履いた半長靴の裏から伝わってくる。
ジワジワと苦しめて殺すとか言っておいて、しっかりと頭へと目がけて振り下ろしてきたのは、後半の怒気の籠もった発言が関係してんのか?
明らかに恩人に対する発言の時よりも怒りを感じさせるものだったように思えた。
――ここでデミタスの動きが止まる。
大きな深呼吸を行っていた。
呼気によって体の中に溜まっていた怒りを吐き出しているかのように見える。
俺にとっても呼吸を整えられる貴重な時間だった。
「――――で、召喚が本当なら困ったものね」
はたして正にとばかりに冷静さが戻っていた。
「呼べば間違いなくお前は負けるだろうからな」
「司令を簡単に拘束してしまうだけの実力者を喚ばれるのはこの状況だと芳しくないわね。あの男――私が変身していた時から怪しんでいたようだし」
「え!? そうなの!」
「何も聞かされていないのはここまでのお前の行動でも分かってはいたけども。聞かされていないとなれば同情もするわね」
俺がデミタスの事に気付いていたら当然、単独に近いような行動はとらない。
――……ゲッコーさん……。
――……ゲッコーさんよ~……。
「時と場合を考えてスパルタしてほしいもんだよ!」
怒りの感情を爆発させるように、大音声によって発する。
深夜の森によく響いた。
「流石に疑うだけで拘束するのはよくないと判断したんでしょうね。でも大したものよねあの男。集落へと入る前にお前たちと別行動をしたけど、私がシャルナというエルフを狙う事が出来なかったのも全てはあの男が私を監視していたから。まったく、他者に気取られないようにしながら監視してくるのだから……。大人しくシャルナの姉を演じるだけしか出来なかったわよ」
――……!?
「あ、そういう事か……。ゲッコーさんがあの時、姉をしっかりと見張っといてやるみたいなことを言ってたけど、そういった意味だったのか」
「でしょうね」
だったらなんであの時にはっきりと…………、デミタスを泳がせるためか。
リンファさん自身が謀反を起こしている。
フル・ギルによって操られている。
これに加えて第三者が姿を変えていると仮定した場合、第三者を追い込めばリンファさんを人質として使われる可能性もあったから、無理な拘束や尋問を避けたと判断するべきなのかな。
「……だとしても……。少しは話してくれてもいいだろうよ……」
「敵を欺くために味方にも普段通りに接したのでしょうね。私が少しでも警戒しないように」
なんで敵のデミタスがゲッコーさんをフォローするような発言をするんだよ……。
ゲッコーさんめ! 後でしっかりと怒らせてもらう!
怒るためにもこの場をしっかりと乗りきらないとな!
それと――、
「それで、リンファさんは本当に無事なんだよな」
「無事」
「本当だな!」
「ええ。私は人質なんかを利用して戦うのがとても許せないのよ」
「エリスを攫わせといてよく言う」
「私が人質として利用するわけではないからそこは含めないでほしいわね。結果的にダークエルフ達も人質として使用しなかったのには驚きではあったけど。まさか最下級の族長がこの国の次期王の許嫁とはね……」
偽者どころか本物も知らないかもしれないビックリな内容だもんな。
「変身する対象の身辺情報をちゃんと得てから行動するべきだったな」
「それを言われれば私も返す言葉がないわね。こういった潜入活動は経験が浅いし、何より怨敵である勇者がこの国に訪れるというのを知ってからは、意識がお前に向いてしまった――などというのは言い訳でしかないわね。偏に臨機応変に事に当たることが出来なかった私の愚かさが問題」
人質として利用しなかったり、素直な反省だったりと――コイツ、クソ真面目だな。
いや、デスベアラーを恩人として慕っていた事から察するに、恩人と似たような性格なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる