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トール師になる

PHASE-1158【真面目かっ!】

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「フンスゥゥゥゥゥウ!」
 鼻息を荒くし、軋む体で懸命に受け止めている俺と違い、涼しい表情の相対する方からは――、

「なんとも不格好な表情ね」
 と、小馬鹿にした発言を俺の耳朶に届けてくる。

「不格好は生まれた時からだよ!」

「そうかしら? 普段の時は可愛げのある表情だけど」
 やめて。戦闘中だし、間違いなく死の淵で踏ん張ってる時に言われるのは困る。
 そんなことは修羅場な状況ではなく平時に言ってくれ。

「ブレイズ!」
 残火に炎を纏わせる。
 力んだ状況による発動だったからか、普段以上に炎が残火から巻き起こる。
 並の相手なら十分な脅威になるだろうが、眼前のお相手には牽制程度にしかならないだろう。
 距離を少しでも取ってくれれば御の字だ。

「火力を加えたところで――ね!」

「ぐぇ!」
 腹部に走る衝撃は蹴撃によるもの。
 ここでも地面を勢いよく転がされる。
 ――……胃の中身を戻さなかった自分を褒めたいよ……。
 思っていた展開じゃなかった……。怒りの混じった声による蹴撃を見舞われてしまう……。
 腹部への蹴撃で地面を転がされたが回復をするまでのダメージはなかった。デミタスにとって距離を取るための蹴撃だったようだ。
 素直に自分から離れてくれればいいってのに……。

「まったく、人をサッカーボールみたいに蹴っては転がしやがって」

「お前が不快になる行動をするからだ。大恩ある御方の命を奪い、尚且つその存在が炎の使い手となれば余計に腹立たしい!」

「ひょ!」
 殺気の籠もったフランベルジュを俺へと振り下ろしてくる。
 痛みに堪えながら矢庭に立ち上がり、何とか回避。
 フランベルジュが地面を抉れば、重々しい音と共に大地を震わせ、生じた衝撃が履いた半長靴の裏から伝わってくる。
 
 ジワジワと苦しめて殺すとか言っておいて、しっかりと頭へと目がけて振り下ろしてきたのは、後半の怒気の籠もった発言が関係してんのか?
 明らかに恩人に対する発言の時よりも怒りを感じさせるものだったように思えた。
 
 ――ここでデミタスの動きが止まる。
 大きな深呼吸を行っていた。
 呼気によって体の中に溜まっていた怒りを吐き出しているかのように見える。
 俺にとっても呼吸を整えられる貴重な時間だった。

「――――で、召喚が本当なら困ったものね」
 はたして正にとばかりに冷静さが戻っていた。
 
「呼べば間違いなくお前は負けるだろうからな」

「司令を簡単に拘束してしまうだけの実力者を喚ばれるのはこの状況だと芳しくないわね。あの男――私が変身していた時から怪しんでいたようだし」

「え!? そうなの!」

「何も聞かされていないのはここまでのお前の行動でも分かってはいたけども。聞かされていないとなれば同情もするわね」
 俺がデミタスの事に気付いていたら当然、単独に近いような行動はとらない。
 ――……ゲッコーさん……。
 ――……ゲッコーさんよ~……。

「時と場合を考えてスパルタしてほしいもんだよ!」
 怒りの感情を爆発させるように、大音声によって発する。
 深夜の森によく響いた。

「流石に疑うだけで拘束するのはよくないと判断したんでしょうね。でも大したものよねあの男。集落へと入る前にお前たちと別行動をしたけど、私がシャルナというエルフを狙う事が出来なかったのも全てはあの男が私を監視していたから。まったく、他者に気取られないようにしながら監視してくるのだから……。大人しくシャルナの姉を演じるだけしか出来なかったわよ」
 ――……!?

「あ、そういう事か……。ゲッコーさんがあの時、姉をしっかりと見張っといてやるみたいなことを言ってたけど、そういった意味だったのか」

「でしょうね」
 だったらなんであの時にはっきりと…………、デミタスを泳がせるためか。
 リンファさん自身が謀反を起こしている。
 フル・ギルによって操られている。
 これに加えて第三者が姿を変えていると仮定した場合、第三者を追い込めばリンファさんを人質として使われる可能性もあったから、無理な拘束や尋問を避けたと判断するべきなのかな。

「……だとしても……。少しは話してくれてもいいだろうよ……」

「敵を欺くために味方にも普段通りに接したのでしょうね。私が少しでも警戒しないように」
 なんで敵のデミタスがゲッコーさんをフォローするような発言をするんだよ……。
 ゲッコーさんめ! 後でしっかりと怒らせてもらう!
 怒るためにもこの場をしっかりと乗りきらないとな!
 
 それと――、
 
「それで、リンファさんは本当に無事なんだよな」

「無事」

「本当だな!」

「ええ。私は人質なんかを利用して戦うのがとても許せないのよ」

「エリスを攫わせといてよく言う」

「私が人質として利用するわけではないからそこは含めないでほしいわね。結果的にダークエルフ達も人質として使用しなかったのには驚きではあったけど。まさか最下級の族長がこの国の次期王の許嫁とはね……」
 偽者どころか本物も知らないかもしれないビックリな内容だもんな。

「変身する対象の身辺情報をちゃんと得てから行動するべきだったな」

「それを言われれば私も返す言葉がないわね。こういった潜入活動は経験が浅いし、何より怨敵である勇者がこの国に訪れるというのを知ってからは、意識がお前に向いてしまった――などというのは言い訳でしかないわね。偏に臨機応変に事に当たることが出来なかった私の愚かさが問題」
 人質として利用しなかったり、素直な反省だったりと――コイツ、クソ真面目だな。
 いや、デスベアラーを恩人として慕っていた事から察するに、恩人と似たような性格なのかもしれない。
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