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トール師になる
PHASE-1150【波刃の剣】
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「何とか踏みとどまれたわね」
美しい顔にクツクツとした笑みが合わさると、ホラーテイストの嘲笑になる。
「うぅ……」
先ほどの目力と圧だけでなく、この笑みにも気圧されてしまう。
「うっとか。くっとか。うぅっとか。弱々しい声が漏れてばかりね。さっきまでの気概はどこに行ったのかしら?」
嘲笑から口が裂けたような不気味な笑みへと変わる偽者。
美人が台無しの笑みだが、それ以上に心底から凍えさせてくる笑みは今までの嘲笑とは明らかに次元が違うものだった……。
笑みに気圧されそうになるが、好機でもある!
リンファさんの姿のままならという発言。
つまりはあの姿のままの偽者を相手にすれば、俺は問題なく倒せるということ。
「アクセル」
「まあ、そういった選択を取るわよね。格下の相手を倒すという、勇者としてはあるまじき恰好の悪い絵面だけど」
「罵ってもらって結構! 烈火!」
アクセルによる一足飛びで偽者の正面に移動しての左による弱烈火。
「ああぁ!!」
直撃すれば不気味な笑みが消え去り、苦痛に歪んだ表情で地面を勢いよく転がる。
――……なんか悪い気もするが、その考えをかなぐり捨て、次は中烈火まで育てた右側を打ち込むために地面に倒れる偽者に向かって疾駆。
目標を見下ろす位置に立ち、
「これで終わらせて捕らえる!」
追撃を打ち込むために右拳を振り上げる。
「無理、無駄、無謀」
「道理、有用、慎重」
「馬鹿まる出しの対義語ね」
その余裕――、
「気に入らねえな!」
振り上げた右拳を倒れる偽者に向かって全力にて叩き込む。
――当たった感触はあったが、偽者に直撃することはなかった。
偽者を守るように地面から出現した土の盾によって防がれる。
今までの泥を硬化させたものとは違った。
壊れることなく中烈火を防ぐだけの強度を誇っていた。
土の盾は幅広のものではなく、細長い形状。
密集させたことで強度を上げたといったところか。
「かなりの強度からなる障壁魔法だな」
「いえ、貴男の攻撃を防いだのは魔法ではないものよ」
「?」
「これは魔法だけど――ね!」
「ちぃ!」
鋭利な泥の槍が倒れる偽者の側から俺へと向かって飛び出してくる。
咄嗟に離れつつ、再び烈火を見舞うためにイグニース顕現させて練っていく。
今度は強烈火を打ち込むために時間をかけて練る。
その間に偽者がやおら立ち上がる。
「余裕だな」
「余裕ではないのよ。これでもね――大分、抑えようとしているのだから」
? 話の内容――語末の部分が分からなかった。
「何を抑えているのか」
「何って言われると――」
言葉に間が生まれた次の瞬間、俺の背中は一瞬にして凍りつくような感覚に襲われる。
――……呼吸がしづらい……。
ヒューヒューといった喘鳴による呼吸になってしまう……。
「――憤怒。怨嗟。殺意。そして場数を踏んでいると勘違いした思考への――落胆」
なんだよ落胆って。
意味が分からんが、会話のお陰で強烈火まで持っていくことは出来た。
強烈火に全てを託すよう念じる。
念じる事で背筋を襲う寒気を振り払いたかったから。
「ふん!」
一足で移動して正面から拳を叩き付ける。
ここでも細長い土によって防がれるが、強烈火ならば! と、己の力を信じて押し込む。
「大した威力だけども、届かないわね~」
「くそっ!」
細長い土の障壁の向こうで作られた嘲笑を崩すことが出来ず、俺は再び後方へと下がる。
というか、ここでも圧によって下がらされた。
「圧縮することで強度を上げる障壁ってところか」
俺のイグニースも同じような扱い方が出来るからな。
「だがら――これはそんなものではないと言ったでしょう。確かに土を操ってはいるけども、障壁魔法などの類いではないわ。貴男の攻撃はこの土の中に収められたモノによって防がれているのよ」
「なんだそれ?」
意味が分からん。
「これは障壁や盾ではなく――鞘代わりに使っているだけ」
「鞘?」
「そう――鞘」
言えば細長い土は意思を持ったかのように自ら偽者の横へと移動する。
偽者が手を伸ばすと、動作に合わせて土の上部分が崩れ落ちていく。
――そこから見えたのは――、
「柄――か?」
鞘と言うだけあって、刀剣類が収まっているようだな。
「そうよ」
と、短く返し、柄を掴み一気に土から引き抜いてみせる。
――……現れた剣身に俺は更なる寒気を覚えてしまい、偽者との距離を更に広げてしまった……。
「勇者が情けないことね。そこまで下がれば称号返上だけではすまないわよ。新たに臆病者の称号を与えないといけないわね」
発言に対して俺は言い返す事が出来ない。
実際に俺の心は臆病に支配されたから……。
現れた剣身を目にしてしまえば、情けなくもなるさ……。
剣身を見れば見るほど、俺の体は寒さに襲われる。
寒気を与えてくる剣身は……、波打つ長剣からなっていた。
――……以前にも目にした事がある長剣にして大剣の……、
「フラン……ベルジュ…………」
美しい顔にクツクツとした笑みが合わさると、ホラーテイストの嘲笑になる。
「うぅ……」
先ほどの目力と圧だけでなく、この笑みにも気圧されてしまう。
「うっとか。くっとか。うぅっとか。弱々しい声が漏れてばかりね。さっきまでの気概はどこに行ったのかしら?」
嘲笑から口が裂けたような不気味な笑みへと変わる偽者。
美人が台無しの笑みだが、それ以上に心底から凍えさせてくる笑みは今までの嘲笑とは明らかに次元が違うものだった……。
笑みに気圧されそうになるが、好機でもある!
リンファさんの姿のままならという発言。
つまりはあの姿のままの偽者を相手にすれば、俺は問題なく倒せるということ。
「アクセル」
「まあ、そういった選択を取るわよね。格下の相手を倒すという、勇者としてはあるまじき恰好の悪い絵面だけど」
「罵ってもらって結構! 烈火!」
アクセルによる一足飛びで偽者の正面に移動しての左による弱烈火。
「ああぁ!!」
直撃すれば不気味な笑みが消え去り、苦痛に歪んだ表情で地面を勢いよく転がる。
――……なんか悪い気もするが、その考えをかなぐり捨て、次は中烈火まで育てた右側を打ち込むために地面に倒れる偽者に向かって疾駆。
目標を見下ろす位置に立ち、
「これで終わらせて捕らえる!」
追撃を打ち込むために右拳を振り上げる。
「無理、無駄、無謀」
「道理、有用、慎重」
「馬鹿まる出しの対義語ね」
その余裕――、
「気に入らねえな!」
振り上げた右拳を倒れる偽者に向かって全力にて叩き込む。
――当たった感触はあったが、偽者に直撃することはなかった。
偽者を守るように地面から出現した土の盾によって防がれる。
今までの泥を硬化させたものとは違った。
壊れることなく中烈火を防ぐだけの強度を誇っていた。
土の盾は幅広のものではなく、細長い形状。
密集させたことで強度を上げたといったところか。
「かなりの強度からなる障壁魔法だな」
「いえ、貴男の攻撃を防いだのは魔法ではないものよ」
「?」
「これは魔法だけど――ね!」
「ちぃ!」
鋭利な泥の槍が倒れる偽者の側から俺へと向かって飛び出してくる。
咄嗟に離れつつ、再び烈火を見舞うためにイグニース顕現させて練っていく。
今度は強烈火を打ち込むために時間をかけて練る。
その間に偽者がやおら立ち上がる。
「余裕だな」
「余裕ではないのよ。これでもね――大分、抑えようとしているのだから」
? 話の内容――語末の部分が分からなかった。
「何を抑えているのか」
「何って言われると――」
言葉に間が生まれた次の瞬間、俺の背中は一瞬にして凍りつくような感覚に襲われる。
――……呼吸がしづらい……。
ヒューヒューといった喘鳴による呼吸になってしまう……。
「――憤怒。怨嗟。殺意。そして場数を踏んでいると勘違いした思考への――落胆」
なんだよ落胆って。
意味が分からんが、会話のお陰で強烈火まで持っていくことは出来た。
強烈火に全てを託すよう念じる。
念じる事で背筋を襲う寒気を振り払いたかったから。
「ふん!」
一足で移動して正面から拳を叩き付ける。
ここでも細長い土によって防がれるが、強烈火ならば! と、己の力を信じて押し込む。
「大した威力だけども、届かないわね~」
「くそっ!」
細長い土の障壁の向こうで作られた嘲笑を崩すことが出来ず、俺は再び後方へと下がる。
というか、ここでも圧によって下がらされた。
「圧縮することで強度を上げる障壁ってところか」
俺のイグニースも同じような扱い方が出来るからな。
「だがら――これはそんなものではないと言ったでしょう。確かに土を操ってはいるけども、障壁魔法などの類いではないわ。貴男の攻撃はこの土の中に収められたモノによって防がれているのよ」
「なんだそれ?」
意味が分からん。
「これは障壁や盾ではなく――鞘代わりに使っているだけ」
「鞘?」
「そう――鞘」
言えば細長い土は意思を持ったかのように自ら偽者の横へと移動する。
偽者が手を伸ばすと、動作に合わせて土の上部分が崩れ落ちていく。
――そこから見えたのは――、
「柄――か?」
鞘と言うだけあって、刀剣類が収まっているようだな。
「そうよ」
と、短く返し、柄を掴み一気に土から引き抜いてみせる。
――……現れた剣身に俺は更なる寒気を覚えてしまい、偽者との距離を更に広げてしまった……。
「勇者が情けないことね。そこまで下がれば称号返上だけではすまないわよ。新たに臆病者の称号を与えないといけないわね」
発言に対して俺は言い返す事が出来ない。
実際に俺の心は臆病に支配されたから……。
現れた剣身を目にしてしまえば、情けなくもなるさ……。
剣身を見れば見るほど、俺の体は寒さに襲われる。
寒気を与えてくる剣身は……、波打つ長剣からなっていた。
――……以前にも目にした事がある長剣にして大剣の……、
「フラン……ベルジュ…………」
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