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トール師になる

PHASE-1142【美人が台無しの笑みだよ】

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「ルーシャンナルまで。どうしたのですか二人して?」
 またも首を傾げる仕草。
 何とも白々しいこって。

「――あんた誰だ?」

「冗談が過ぎますよ勇者様。私はリンファ・ファロンドです」

「嘘をつくなよ。ルーシャンナルさん」

「分かりました」
 名を口にすれば、直ぐさま手にした弓に鏑のついた矢を番え、空へと向け――放つ。
 ピュイィィィィィ――と独特な甲高い音を発しながら木々の隙間を縫うようにして鏑矢が天高く飛んでいく。

「これでこちらの増援があの防御壁から来る事になる。どのみち抵抗はさせないけどな。なので大人しくするように」
 なんて言いつつ、なんか違和感を覚えてしまう。

「大人しくはしますが。なぜ私をそんなに警戒するのです?」

「霧の中では難儀するって事を言ったらアンタは肯定しただろう。なら警戒するさ」

「事実を述べただけですよ。アンタという言い方は乱暴です」

「じゃあ、もう一回聞くけど、俺だけでなくアンタも霧に包まれた先が見えないんだろう?」

「ええ」

「おかしいんだよ。あり得ないんだよ」

「何がでしょうか?」
 ルーシャンナルさんと目を合わせると小さく頷いてきた。
 間違いなく目の前の存在は脅威と判断していい。

「あのな、あの霧は――この国のエルフにとってはなんの効果も発揮しない。霧があろうとも視界は良好なんだよ。外の国の者や脅威となる者にのみ作用するんだそうだ。本物のリンファさんなら霧に覆われた場所だろうが見通すだろうし、何よりこの国の王族の側仕えがそんな事を知らないとかあり得ないだろうだ。また聞くぞ。お前――誰だ?」
 ――……。
 静寂が支配する。
 沈黙は正解って判断させてもらおうか。

 残火の柄を絞るように握る中で、鏑矢の音に反応した防御壁にて待機していたエルフ兵が四名、樹上より降りてくる。
 ルミナングスさんの部下なだけあって、現着の速さは素晴らしいの一言。

「勇者殿、それにルーシャンナル殿。どうされました?」

「侵入者です」
 指さす先には王族の側仕えであり、自分たちの上司になるルミナングスさんのご息女の姿をした何者。
 俺の発言に対してエルフさん達は首を傾げる――なんて事はしない。
 即座に矢を番え、リンファさん――のような者へと体を向ける。
 事実確認が必要だからかだろう、鏃をまだ向けることはない。
 番えるだけで留まる。

「正気ですか。この私を射かけるとでも?」

「正気ですとも。城仕えのリンファ様がこの様な場所にいることが疑念を抱かせます。やましいことがないのならば、抵抗せず素直に指示に従っていただきたい」

「なんという不遜。我が父は貴方方の行為を残念に思うでしょう」
 今の発言で些かたじろぐ兵士さん達。

「うるさいぞ偽物! それよりも本物はどうした!」
 エルフさん達が言い返すのが難しそうだったので俺が代わりに発する。
 しっかりと偽物という単語を入れて。

「ですから私が本物です」

「そんな必死の形相になっても手遅れだぞ。霧の内側は見えないって言質は取ってんだ」
 追加で現着したエルフさん達に伝えるように発せば、即座に理解してくれたようで、構えは次の段階へと移行。キリリッと弦音が耳朶に届く。
 もちろん鏃を向ける先は俺たちと相対する存在。

「あ~。まったくもってくだらないことで尻尾を掴まれたわね」
 必死の形相だった対面する美人さんは、腕を組んでの余裕の佇みへとなって言葉を返してくる。
 俺だけでなく、目の前で弓を構えるエルフ兵さん達もわずかだが足を後ろに下がらせてしまった。
 美人は笑みを湛えていたが、口端は裂けるような勢いでつり上がっており、今までの淑やかさが一瞬にして消え失せた。

「捕獲しろ! リンファ様の事を聞き出す」

「無理、無駄」
 相対する者が不気味な笑みのまま右足で地面を踏めば、それに合わせてエルフさん達の足元から硬化した泥の槍がいくつも現出し……全員が串刺しとなってしまった……。
 串刺しにされた四人から声は上がらない。
 瞬時に絶命。
 泥の槍が地面へと戻れば、事切れた四人のエルフさんたちが横たわる――光景を見つつ、俺は即座にプレイギアから除細動器を召喚。

「インスタント蘇生でごめんなさいね」
 四人となれば素早い蘇生が必要になるのでフルチャージではなく、パドルを一度だけすり合わせての蘇生。
 ゲームプレイ時にセラが蘇生ポイントだけを稼ぐためにやる適当蘇生と同じやり方で申し訳ないが、串刺しにされて穴が空いた部分はなかったかのようにふさぎ、大きな深呼吸をすれば、上体を起こしてくれる。

「四人とも無事でなにより」

「な!?」
 相対する美人の表情は不気味な笑みから驚きのものへと変わる。

「まさかその様に容易く蘇生ができるとはね。流石は勇者。不思議な物を持っている」

「どうも」
 応じつつも、ふらつきながら立ち上がる四人の前へと立ち後退させる。
 直ぐに回復箱をと動こうとするも、今度は俺の足元から鋭利な泥の槍が現出。
 槍衾を思わせるけども――、

「今回の連戦で地面から出てくるのは嫌になるほど目にしてんだよ!」
 抜刀した残火にてそれらを切り払う。

「お見事」
 嘲笑によるお褒めの言葉を発する表情は、再び余裕のものへと変わってのもの。
 嫌な笑い方を浮かべるけども、その笑みに見合った強さはあるようだ。
 ミストウルフの時も感心したが、それ以上の存在である手練れのエルフさん四人をあっという間に仕留めるだけの実力を有した強者。
 油断怠りなく対応せねば。
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