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トール師になる
PHASE-1131【宜しくない】
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「終わらせよう。捕らえて色々と聞かせてもらうからな」
「ええい! 誰ぞあの梟雄を止めよ! 止めた者には新たなる国において好きな役職と、未来永劫、風化する事のない名誉を与えてやる」
止めよ――ね。殺せ。とか、倒せ。って言葉から止めよに変更か。
完全に逃げの準備だな。
まあ、周囲で護衛をしていた私兵たちは、カゲスト以上の速さで逃げ出しているけどね。
「おい! 逃げずに早く止めよ! 地位と名誉は思いのままだぞ!」
「黙りなさい!」
ゲッコーさんに抱えられたエリスからの怒号。
「新たなる国は僕と皆で築いていきます。権利欲。佞言によって地位を授受するような国には絶対にさせません!」
「脆弱な小僧は黙っていろ!」
殿下じゃなく小僧呼ばわりか。相当に追い詰められているな。
反乱を起こすにしても、徹頭徹尾、殿下と呼んで敬うような姿を見せれば、反乱を起こす者であっても、それをするだけの自分なりの大儀や理由があったりするってのが窺えたりもするんだけどね。
追い詰められれば今まで拝していた相手に暴言。
程度が知れたね。
まあ、傀儡とか言ってた時からカゲストの駄目さは分かっていたけど。再認識させられたよ。
「さて、残念な謀反人をさっさと捕らえようかな」
ポルパロングの私兵たちは殆どが逃散。残っているのも自分の進退を考えるのに精一杯といったところ。
ダークエルフさん達はゴロ丸に手一杯。
俺とカゲストの間を阻む者なし。
有言実行のためにボコボコにしてこの戦いを終わらせよう。
「アク――!?」
一足で移動しようとした時だった……。
俺の視界が強い光によって阻害される。
「ファイアフライ!?」
何度か目にしている魔法。灯りのない洞窟などを移動する時に使用したり、対象への目眩ましにも使用できる便利な魔法。
だが誰が使用した?
目の前のカゲストは焦っているだけでそういった動作は無かった。
ダークエルフさん達もゴロ丸を前にしてそんな余裕はない。
いったい誰が――と考えると同時に、カゲストが俺へと攻撃を仕掛けてくると考慮して身構えていると、背後でピュイィィィィィィ――ッと甲高い音が響く。
「鏑矢?」
なんの合図だと思っていれば、
「ハハハッ! やはり私が頂に立つのは運命づけられているようだ。捲土重来を果たしてくれる!」
背後の甲高い音に続いて、俺の眼前にいたはずのカゲストの声が背後から聞こえてくる。
反転すれば――、
「クソッ! アクセルか」
俺が使用できるんだからな。相手も出来て当たり前の精神が欠如していた。
だが、反省は後だ。
切り替えて目の前の問題に集中しないといけない。
なんたって俺の目の前では、物陰に隠れていたはずのサルタナがカゲストによって拘束されているという光景。
あの鏑矢の合図は誰だ? 間違いなく鏑矢は隠れていた二人の位置を知らせるものだ。
しかもご丁寧なことに。
「すまない勇者……」
申し訳なさから弱々しい声が下生えの方向から聞こえてくる。
エルダースケルトンの二体はミストウルフとの戦闘に突入していた。
明らかに急襲を仕掛けられたといったところ。
ご丁寧に俺だけでなく、エルダー二体もファイアフライによって視界を阻害されてしまったようだ。
そしてあのミストウルフだ。
先ほどまで屋敷の周囲に霧状で待機していた連中だろう。
このわずかな間で屋敷の霧はなくなっている。
分かってはいたがカゲスト以外にもやはり脅威はいた。
しかもこの状況を窺えるだけの位置で俺たちの戦いを見ていたわけだ。
影でコソコソと動いているのはいま正に俺たちの近くにいる。
屋敷の中で高みの見物か?
ゲッコーさんが潜入して目指したのはルリエールの寝室だからな。そこまでのルート以外にある部屋で俺たちの戦いを見ていると考えるべきか。
「ぐぅ!」
熟考したいところだけど目の前の状況がそれを許さない。
「動くなよ。動けばこのハーフエルフの首をへし折る。お前もだ! お前は絶対に動くなっ!」
俺とゲッコーさんを牽制してくる。後者には特に強い口調で。
本気であるという意思表示のためにサルタナを持ち上げ首を締め上げる。
カゲストの呼吸は荒く目は血走った興奮状態。
捲土重来なら今回は負けを認めたって意味で受け止めてもいいのか? と、挑発じみた事も言いたかったが、軽はずみな発言は許されない現状なので口は真一文字。
俺達が少しでも軽口や妙な動きを見せれば、発言どおりサルタナの首をへし折るつもりだ。
細い首を締め付けられる中、苦しむサルタナは見つかってしまったことに責任を感じているようで、申し訳ないといった目を俺に向けてくる。
俺の弟子は揃いも揃って良い子たちだよ。
「まったくふざけている。拘束しようとする私に斬りかかろうとするとはな。たかがハーフエルフの小僧の分際で! しかもミスリルの剣だと! 生意気なんだよ。テレリが許可なく武器など! しかもミスリルなど! 持つだけで万死に値する」
言えば更にサルタナの首を強く締めるカゲスト。
「それ以上、弟子を苦しめたらただじゃすまさない」
「うるさい! さっさと武器を捨ててミスリルゴーレムを消し去れ! 貴様もその筒を向けるな!」
エリスを担ぎつつ、CZ75SP-01をカゲストへと向けるも、俺以上にゲッコーさんを警戒しているカゲストは、サルタナを盾にして自分の上半身を隠す。
流石のゲッコーさんでも難しいようだ。
狙おうと思えば狙えるだけの実力はあるだろうが、子供を盾にされると躊躇の方が勝る。
「プロテクション」
と、ここで俺とゲッコーさんを更に警戒して障壁魔法を展開。
しっかりと遮ってくる。
同時にサルタナの首を絞めつつジリジリと後方へと下がる動き。
「逃げんな!」
「お断りだ」
俺達が手も足も出ないと判断したことから心に余裕が出てきたのか、荒かった呼吸と語気は平静さを取り戻していた。
「ええい! 誰ぞあの梟雄を止めよ! 止めた者には新たなる国において好きな役職と、未来永劫、風化する事のない名誉を与えてやる」
止めよ――ね。殺せ。とか、倒せ。って言葉から止めよに変更か。
完全に逃げの準備だな。
まあ、周囲で護衛をしていた私兵たちは、カゲスト以上の速さで逃げ出しているけどね。
「おい! 逃げずに早く止めよ! 地位と名誉は思いのままだぞ!」
「黙りなさい!」
ゲッコーさんに抱えられたエリスからの怒号。
「新たなる国は僕と皆で築いていきます。権利欲。佞言によって地位を授受するような国には絶対にさせません!」
「脆弱な小僧は黙っていろ!」
殿下じゃなく小僧呼ばわりか。相当に追い詰められているな。
反乱を起こすにしても、徹頭徹尾、殿下と呼んで敬うような姿を見せれば、反乱を起こす者であっても、それをするだけの自分なりの大儀や理由があったりするってのが窺えたりもするんだけどね。
追い詰められれば今まで拝していた相手に暴言。
程度が知れたね。
まあ、傀儡とか言ってた時からカゲストの駄目さは分かっていたけど。再認識させられたよ。
「さて、残念な謀反人をさっさと捕らえようかな」
ポルパロングの私兵たちは殆どが逃散。残っているのも自分の進退を考えるのに精一杯といったところ。
ダークエルフさん達はゴロ丸に手一杯。
俺とカゲストの間を阻む者なし。
有言実行のためにボコボコにしてこの戦いを終わらせよう。
「アク――!?」
一足で移動しようとした時だった……。
俺の視界が強い光によって阻害される。
「ファイアフライ!?」
何度か目にしている魔法。灯りのない洞窟などを移動する時に使用したり、対象への目眩ましにも使用できる便利な魔法。
だが誰が使用した?
目の前のカゲストは焦っているだけでそういった動作は無かった。
ダークエルフさん達もゴロ丸を前にしてそんな余裕はない。
いったい誰が――と考えると同時に、カゲストが俺へと攻撃を仕掛けてくると考慮して身構えていると、背後でピュイィィィィィィ――ッと甲高い音が響く。
「鏑矢?」
なんの合図だと思っていれば、
「ハハハッ! やはり私が頂に立つのは運命づけられているようだ。捲土重来を果たしてくれる!」
背後の甲高い音に続いて、俺の眼前にいたはずのカゲストの声が背後から聞こえてくる。
反転すれば――、
「クソッ! アクセルか」
俺が使用できるんだからな。相手も出来て当たり前の精神が欠如していた。
だが、反省は後だ。
切り替えて目の前の問題に集中しないといけない。
なんたって俺の目の前では、物陰に隠れていたはずのサルタナがカゲストによって拘束されているという光景。
あの鏑矢の合図は誰だ? 間違いなく鏑矢は隠れていた二人の位置を知らせるものだ。
しかもご丁寧なことに。
「すまない勇者……」
申し訳なさから弱々しい声が下生えの方向から聞こえてくる。
エルダースケルトンの二体はミストウルフとの戦闘に突入していた。
明らかに急襲を仕掛けられたといったところ。
ご丁寧に俺だけでなく、エルダー二体もファイアフライによって視界を阻害されてしまったようだ。
そしてあのミストウルフだ。
先ほどまで屋敷の周囲に霧状で待機していた連中だろう。
このわずかな間で屋敷の霧はなくなっている。
分かってはいたがカゲスト以外にもやはり脅威はいた。
しかもこの状況を窺えるだけの位置で俺たちの戦いを見ていたわけだ。
影でコソコソと動いているのはいま正に俺たちの近くにいる。
屋敷の中で高みの見物か?
ゲッコーさんが潜入して目指したのはルリエールの寝室だからな。そこまでのルート以外にある部屋で俺たちの戦いを見ていると考えるべきか。
「ぐぅ!」
熟考したいところだけど目の前の状況がそれを許さない。
「動くなよ。動けばこのハーフエルフの首をへし折る。お前もだ! お前は絶対に動くなっ!」
俺とゲッコーさんを牽制してくる。後者には特に強い口調で。
本気であるという意思表示のためにサルタナを持ち上げ首を締め上げる。
カゲストの呼吸は荒く目は血走った興奮状態。
捲土重来なら今回は負けを認めたって意味で受け止めてもいいのか? と、挑発じみた事も言いたかったが、軽はずみな発言は許されない現状なので口は真一文字。
俺達が少しでも軽口や妙な動きを見せれば、発言どおりサルタナの首をへし折るつもりだ。
細い首を締め付けられる中、苦しむサルタナは見つかってしまったことに責任を感じているようで、申し訳ないといった目を俺に向けてくる。
俺の弟子は揃いも揃って良い子たちだよ。
「まったくふざけている。拘束しようとする私に斬りかかろうとするとはな。たかがハーフエルフの小僧の分際で! しかもミスリルの剣だと! 生意気なんだよ。テレリが許可なく武器など! しかもミスリルなど! 持つだけで万死に値する」
言えば更にサルタナの首を強く締めるカゲスト。
「それ以上、弟子を苦しめたらただじゃすまさない」
「うるさい! さっさと武器を捨ててミスリルゴーレムを消し去れ! 貴様もその筒を向けるな!」
エリスを担ぎつつ、CZ75SP-01をカゲストへと向けるも、俺以上にゲッコーさんを警戒しているカゲストは、サルタナを盾にして自分の上半身を隠す。
流石のゲッコーさんでも難しいようだ。
狙おうと思えば狙えるだけの実力はあるだろうが、子供を盾にされると躊躇の方が勝る。
「プロテクション」
と、ここで俺とゲッコーさんを更に警戒して障壁魔法を展開。
しっかりと遮ってくる。
同時にサルタナの首を絞めつつジリジリと後方へと下がる動き。
「逃げんな!」
「お断りだ」
俺達が手も足も出ないと判断したことから心に余裕が出てきたのか、荒かった呼吸と語気は平静さを取り戻していた。
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