上 下
1,109 / 1,668
トール師になる

PHASE-1109【強者が狼に甘いよ】

しおりを挟む
「で、どうするんだ? 飼い主がカゲストなら確実にこちらの行動が発覚したと考えるべきだろう」

「ですね」
 最悪ダークエルフ達も戦闘に駆けつけてくるだろう。
 更に最悪を想定するなら、そのダークエルフ達が既に呪解がされた状態となっていて、魔法の使用が可能となっているってところだろうな。
 
 武装も逆テーパーの棍棒じゃなく、戦闘に特化した本格的なモノへと変わっていると考慮すべきだね。
 
 ――……いやでもだよ……。
 こっちは感知能力が秀逸なベル。潜入に関しては神と言ってもいいゲッコーさんがいるんだぞ。
 なぜにこうも素早く先に感知、発見されるんだよ……。
 どう考えてもおかしいだろう。

「考えるのは後にしろ。まずは脅威に意識を集中だ」
 俺に注意しつつ、威嚇なのかこちらへとゆっくり接近してくる一頭のミストウルフに対し、ゲッコーさんがMASADAから弾丸を数発撃つ――。

「――なるほどな。効果はないとみていいな」
 と、威嚇に対してゲッコーさんも牽制射撃。
 当てることはなかったが、発砲と同時に向かって来ていた狼が霧へと姿を変えるのを目にしたことで、弾丸による攻撃は意味がないということを確認。
 狼も不思議な武器だと判断したのか、威嚇を止めて後方に下がってくれる。

 次にゲッコーさんが手にしたのは、炎でダメージを与える事が可能な焼夷グレネード――なのだが、手にするだけで投げようとはしない。
 手にしながら俺を見るだけ。
 ――……なるほど……ね。ゲーム内だとゲッコーさんの相棒が狼を大切にする人物だったな……。
 ゲッコーさん自身も愛でてたし。
 だから攻撃に本気が感じられないわけだ……。
 
 これは間違いなく俺のリアクション待ちなので――、

「火事は避けたいですよね」
 と、返す。

「だな~。あれ、俺は不要な人か?」

「んなわけないでしょ」
 ゲームでも銃弾が通用しない相手と渡り歩いてるでしょう。
 対処方法はいくつもあるって感じだろうに、牽制射撃に投げる気のないグレネード。
 今回はスパルタというより、自分が戦いたくないという考えなんですかね?
 この世界に来たばかりの時、俺も召喚した面々に全てを任せて楽しようって考え方だったから、強く言う事は出来ないけどね。
 なので不平不満は口には出しませんよ。

「しかたない。やるかね」
 残火にブレイズを纏わせる。これで斬って終わらせよう。

「まずはセンター奥のリーダーと思われるのを一気に仕留めて、混乱したところを――」

「仕留めるのは駄目だ」

「……なぜに?」

「動物に罪はない」
 ――……でたよ……。ベルさんのポンコツなところが……。

「せやかてベルはん。そないなこと言いますけども、あんたはんかてクラーケンのデカイのしばき倒しておまっしゃろ。それにゲッコーはんはさっき撃ちましたやん」

「適当な関西弁を使うと関西圏の人に怒られるぞ」
 ゲッコーさんからのツッコミを受けつつもベルにはしっかりと反論。

「アレは巨大で脅威。しかもこちらと意思疎通が出来なかった。ゲッコー殿のは牽制だった事はお前も理解しているだろう」
 ――……意思疎通が出来なかったってのは、ヌメヌメな存在に体が上手く動かなくなって捕まったあげく、エンレージMAXで自身を制御できず、感情のままに出した青い炎で跡形もなく消滅させたんじゃん……。
 火龍戦が一番の原因だけど、クラーケン戦でも青い炎を使用した事が弱体化の遠因でもあるかもしれないのにさ……。
 どの口が言っているのでしょうか……。

「とにかく駄目だ」

「お断りだ!」

「――駄目だ」

「あ、はい……」

「トールは弱いですね」

「俺はフェミニストで動物愛護の精神が強いから」

「ハイハイ」

「コクリコ君。俺を可哀想な目で見ないように」
 弟子が見ているんだ。

「じゃあ、どうする?」
 焼夷グレネードを宙空に仕舞いつつゲッコーさんが問うてくる。

「こっちにしっかりと会話をさせてくれるだけのゆとりある連中ですからね。話し合いをするってのが一番いいんでしょうけどね。まあ狼との会話は難しいでしょうね? ルーシャンナルさん」

「ゴブリンの言葉は可能ですが、流石に……」

「ですよね」
 なんて冗談を言えるだけの余裕もある。
 ミストウルフたちは最初の牽制以降、攻撃を仕掛けてこない。
 考えられるのは包囲して増援を待つってところだろう。

「このままこの場にいても相手の増援を待つだけだな」

「うん。ベルが戦うのは駄目っていうから……」

「戦うのはいい。命を奪う事は駄目だと言っているのだ」
 本当に動物に対しては慈悲深いんだよな。
 虫とかは駄目なくせに。
 俺も別に命を奪うのは好きじゃないけどさ。

「それに理由は他にもある」
 本来はバレずに行動しエリスを救うって事だったけど、相手に発見されたとなれば話し合いをするのも選択肢に含めるべきだということだった。
 話し合いを円滑にする為にも、ミストウルフの命を奪って向こう側を刺激するのはよくないという。
 
 次期王を攫っている時点で相手は話し合いなんてしないだろうけど、その可能性がゼロでない限り無用な刺激は避けるべきだというのがベルの主張。
 ――今のところこっちサイドは軍隊を動員せずに立ち回っている。
 少数で行動するならば潜入しての救出だけでなく、交渉役といった立ち回りも出来るということだけども――、

「保険は必要だろうな」

「その通りだ」
 ここはベルも同様の事を考えてくれている。

「この場に留まるだけじゃ意味がない。シャルナはリンファさんを連れてここから離れてくれ。後で合流しよう。遊撃役を頼む。可能な限り見つからないように頼む」

「分かった」
 言えば直ぐさまシャルナは首肯で応じ、ゲッコーさんは俺にイヤホンマイクを投げ渡してくる。
 合流するまではこれで交信をするってことだな。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...