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トール師になる
PHASE-1107【食わず嫌いせず素直に覚えろ】
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「お姉ちゃん本当に大丈夫?」
「だからお姉ちゃんじゃなくて――って、まあここではいいでしょう。シャルナは私を侮っているのかしら?」
「そんな事ないよ。子供の時はお姉ちゃんに色々と教えてもらったもの」
「…………そうでしょ」
「ひどくない! いま間があったよね。忘れてたでしょ!」
と、自分としては大切な思い出だったのか、姉がそれを忘れていたことにシャルナは頬を膨らませる。
リンファさんはそれに対して苦笑いを浮かべて謝っていた。
でもしかたないよね。
子供の時でしょ。てことは今のエリスくらいだろうからな。ざっと千年以上前の出来事だろ?
忘れてて当然だと思うんだけど……。
「とにかく私の事は心配しなくていいから」
そう言いながら金糸のような美しい髪を結うリンファさん。
髪型がちょっと変わるだけで女性って雰囲気が変わるよね。
ポニーテールにするだけで、おしとやかさから活発な女性に早変わりである。
――――暗闇の中をライトをつけず森の中を進む。
鬱蒼とした下生え。隆起した大地。
平時ならば愚痴を零して進むギムロンだけども、有事となれば動きは別物。オンオフがしっかりとしているプロである。
下生えの中を音を立てないで進むというのは困難だが、極力、音を立てずに歩くことを心がける。
俺はビジョンがあるし、ゲッコーさんは夜目が利く。
シャルナ達エルフにドワーフであるギムロンも暗闇を見通せる目を生まれながらに持っている。
リンもアンデッドだから問題なし。
そういったスキルを有していないベルとコクリコ。
前者はなんの問題もなく感覚だけで行動できるけど、後者はやはり難がある。
歩けば他と違い、下生えを体に触れさせガサガサと結構な音を立てている。
今はいいが、集落近くでこれだと困る。
「いい加減にビジョンを覚えろよ」
「別に覚えなくても見えていますよ」
とか言いながらつまずきそうになってるじゃねえか……。
「いざとなったら灯りを所望します。いつものように強い光を出してくれる筒状のアイテムを」
「駄目に決まってるだろう。灯りで気取られる。ベル、いいよな?」
「この状況だと仕方ないだろう」
本来はインスタント習得を嫌う美人様から許可をもらった事だし――、
「ほら頭出せコクリコ。ビジョンを習得しようぜ」
「ぬぅぅぅ……」
どうもプライドが許さないようだな。
タフネス以外のピリアを覚えようとしないのは魔術師としてのポリシーなのかもしれんが、あるにこした事はない。
現にいま必須だし。
嫌がるコクリコの頭に手を置いて――、
――……置いて……、
「置いてどうすんの?」
よくよく考えたら俺は与えられた事はあっても、与えた事がなかった。
「ただイメージすりゃいい。自分が普段発動するピリアを相手に与えるイメージだ」
「分かった」
ギムロンのアドバイスに従い、やおら目を閉じてからコクリコに渡すイメージ。
「……本当にこんなんでいいのか? コクリコ、試してみてよ」
「仕方ないですね」
やはり納得がいかないのか渋々と発動しようとする。
コイツ本当に自分の体に叩き込んで覚えるタイプなのか?
だから俺をボコボコにしたのか?
楽して覚える方法を知りながらもそれを実行しなかったのは、やはり俺の為だったのだろうか?
「ビジョン」
コクリコが俺にタフネスを伝授する時のことを回顧している中で発動。
「――ほぉぉぉぉぉぉお!」
発動とほぼ同時にアホみたいな声を上げる。
「馬鹿! 大声を出すな!」
まだ集落から離れているとはいえ、急にテンションの上がった声を出すんじゃねえ。
ルーシャンナルさんもリンファさんも驚きだよ。
「なんですかこれは!? 昼ですよ。私は闇を支配する力を得ました! 実に素晴らしい! 我が魔眼!」
魔眼ってなんだよ……。ビジョンだよ。
――……このテンションからして、楽して覚える事を嫌悪しているとかって考えはないようだな……。
単純に魔術師として自分に不要なピリアは覚えたくなかっただけか……。
あのボコボコ習得はやはり悪意からのものだったんだな……。
「なんですかトール。こんな便利なものならさっさと教えてくださいよ」
「いや……。お前がぺらぺらのやっすいポリシーで拒んでたんだろうが」
後衛でありながら誰よりも前線に立つから、本当はタフネスだけでなく他のピリアを習得するべきなんだよ。
タフネスだって後衛として接近戦に持ち込まれた時の保険――みたいな使い方じゃなく、零距離魔法で生じる衝撃を緩和させるってのが目的だしな。
「いや~いいですね。ビジョン――なるほどなるほど。イメージして遠くを見ればしっかりと離れた位置も見えますね。素晴らしい。便利です♪」
――……気に入ってもらえて何よりですよ。
「だからお姉ちゃんじゃなくて――って、まあここではいいでしょう。シャルナは私を侮っているのかしら?」
「そんな事ないよ。子供の時はお姉ちゃんに色々と教えてもらったもの」
「…………そうでしょ」
「ひどくない! いま間があったよね。忘れてたでしょ!」
と、自分としては大切な思い出だったのか、姉がそれを忘れていたことにシャルナは頬を膨らませる。
リンファさんはそれに対して苦笑いを浮かべて謝っていた。
でもしかたないよね。
子供の時でしょ。てことは今のエリスくらいだろうからな。ざっと千年以上前の出来事だろ?
忘れてて当然だと思うんだけど……。
「とにかく私の事は心配しなくていいから」
そう言いながら金糸のような美しい髪を結うリンファさん。
髪型がちょっと変わるだけで女性って雰囲気が変わるよね。
ポニーテールにするだけで、おしとやかさから活発な女性に早変わりである。
――――暗闇の中をライトをつけず森の中を進む。
鬱蒼とした下生え。隆起した大地。
平時ならば愚痴を零して進むギムロンだけども、有事となれば動きは別物。オンオフがしっかりとしているプロである。
下生えの中を音を立てないで進むというのは困難だが、極力、音を立てずに歩くことを心がける。
俺はビジョンがあるし、ゲッコーさんは夜目が利く。
シャルナ達エルフにドワーフであるギムロンも暗闇を見通せる目を生まれながらに持っている。
リンもアンデッドだから問題なし。
そういったスキルを有していないベルとコクリコ。
前者はなんの問題もなく感覚だけで行動できるけど、後者はやはり難がある。
歩けば他と違い、下生えを体に触れさせガサガサと結構な音を立てている。
今はいいが、集落近くでこれだと困る。
「いい加減にビジョンを覚えろよ」
「別に覚えなくても見えていますよ」
とか言いながらつまずきそうになってるじゃねえか……。
「いざとなったら灯りを所望します。いつものように強い光を出してくれる筒状のアイテムを」
「駄目に決まってるだろう。灯りで気取られる。ベル、いいよな?」
「この状況だと仕方ないだろう」
本来はインスタント習得を嫌う美人様から許可をもらった事だし――、
「ほら頭出せコクリコ。ビジョンを習得しようぜ」
「ぬぅぅぅ……」
どうもプライドが許さないようだな。
タフネス以外のピリアを覚えようとしないのは魔術師としてのポリシーなのかもしれんが、あるにこした事はない。
現にいま必須だし。
嫌がるコクリコの頭に手を置いて――、
――……置いて……、
「置いてどうすんの?」
よくよく考えたら俺は与えられた事はあっても、与えた事がなかった。
「ただイメージすりゃいい。自分が普段発動するピリアを相手に与えるイメージだ」
「分かった」
ギムロンのアドバイスに従い、やおら目を閉じてからコクリコに渡すイメージ。
「……本当にこんなんでいいのか? コクリコ、試してみてよ」
「仕方ないですね」
やはり納得がいかないのか渋々と発動しようとする。
コイツ本当に自分の体に叩き込んで覚えるタイプなのか?
だから俺をボコボコにしたのか?
楽して覚える方法を知りながらもそれを実行しなかったのは、やはり俺の為だったのだろうか?
「ビジョン」
コクリコが俺にタフネスを伝授する時のことを回顧している中で発動。
「――ほぉぉぉぉぉぉお!」
発動とほぼ同時にアホみたいな声を上げる。
「馬鹿! 大声を出すな!」
まだ集落から離れているとはいえ、急にテンションの上がった声を出すんじゃねえ。
ルーシャンナルさんもリンファさんも驚きだよ。
「なんですかこれは!? 昼ですよ。私は闇を支配する力を得ました! 実に素晴らしい! 我が魔眼!」
魔眼ってなんだよ……。ビジョンだよ。
――……このテンションからして、楽して覚える事を嫌悪しているとかって考えはないようだな……。
単純に魔術師として自分に不要なピリアは覚えたくなかっただけか……。
あのボコボコ習得はやはり悪意からのものだったんだな……。
「なんですかトール。こんな便利なものならさっさと教えてくださいよ」
「いや……。お前がぺらぺらのやっすいポリシーで拒んでたんだろうが」
後衛でありながら誰よりも前線に立つから、本当はタフネスだけでなく他のピリアを習得するべきなんだよ。
タフネスだって後衛として接近戦に持ち込まれた時の保険――みたいな使い方じゃなく、零距離魔法で生じる衝撃を緩和させるってのが目的だしな。
「いや~いいですね。ビジョン――なるほどなるほど。イメージして遠くを見ればしっかりと離れた位置も見えますね。素晴らしい。便利です♪」
――……気に入ってもらえて何よりですよ。
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