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トール師になる

PHASE-1100【チャーム】

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「お、のれ……」

「流石だな。口が垂直にあるから伏臥の状態でも喋るのは問題なさそうだ」

「こんな……ふ、ざけた力……で勝った気に……」

「お前も力も使ってるからおあいこだよ。メタモルエナジーってのを飲んでんだから」

「やったねトール」
 駆け寄ってくるシャルナとは相反してゆったりとした足取りのリン。
 二人とも笑みを見せる時点で勝利を確信はしているんだろうけども――。
 俺は違いますよ。
 残心は大事ですよ。これは弟子達にもしっかりと教え込んでいかないとな。
 教えることで自分の経験にもなるからな。

「……ヒ、ヒール」

「うん。分かってた」
 回復は使用できるのは何度も目にしているからな。
 ファンタジー世界の素晴らしさは回復魔法の即効性だろう。

「死ねぇぃぃぃ――ん゛んぅ!?」

「死ぬのはごめんだね」
 回復から即座に立ち上がっての攻撃モーションよりも、俺のブーステッド発動からの両手による弱烈火が遙かに速い。
 巨躯の腹部にワンツー。
 巨体がくの字を書いてガクガクと足を震わせて両膝をつく。

「やだ……」
 駆け寄っていたシャルナとリンの動きが止まる。
 縦に割れた口から勢いよくゲボっていたからな。
 大きな口に似つかわしくないヒューヒューといった喘鳴が漏れる。

「おいガグ。回復していいぞ」
 言いつつ拳を見せれば、ギョロ目には明らかに恐れが滲み出ていた。
 俺を恐怖対象と見てくれたようだ。
 脅威であると判断してくれれば、これ以上、戦いを続けようとは思わないだろう。
 回復をして再び挑めば痛く苦しい目に遭う。それは回避したいだろうからね。
 
 ――が、

「ヌゥァァァァァアアァッ!?」

「おいおい……」
 俺の考えとは真逆の選択。再び挑もうとしてくる。
 しかたがないのでもう一度見舞ってやる。
 こっちとしてはブーステッドは短時間しか使用できないから、これで終われとばかりに次は一段階威力を上げた中烈火を打ち込む。
 ――腹部から俺の鼻孔に届く体毛が焦げる臭い。

「いい加減にしろよ」

「も、もう……もう……イヤだぁぁぁぁ…………」
 再び伏臥の姿勢で倒れ込み、弱々しい声で必死になって厭戦の意思を漏らすガグことポルパロング。
 嫌だと漏らしながらも、またも立ち上がり、こちらに向かって戦いを挑もうとする姿。
 反面、嫌々と頭を左右に振れば、ギョロ目からは涙が飛び散る。
 しかも攻撃に傾倒して思慮が狭くなっているのか、ヒールを使用することなくダメージを蓄積した状態で攻撃態勢。

「これは――」
 訳知り顔となるリン。

「ふん!」
 今度は手心を加えての腹部への一撃。
 ブーステッドを使用しなくてもその一撃で手負いのガグは膝をつく。

「リン」
 訳知り顔の理由を求める前に、

「ディスペル」
 と、リンの一声。
 呪いを解く魔法。
 てことは――ポルパロングは呪いにかかっている?

「もう戦うのは嫌だぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁ! なんですって!?」
 発言とは正反対の行動をとるガグの力任せの拳を回避する中で、リンが驚きの表情を浮かべる。
 見て分かるけど、リンのディスペルは成功しなかったようだ。

「ポルパロングにかかっている呪いはなんだ?」
 問うても頤に指を添えてブツブツと自分の世界に入るリン。

「おい!」

「うるさいわよ」

「いいから分かったことがあるなら教えてくれ」

「……認めたくないけども、この国には私を超える力を持った者がいる」

「……は……マジ……か?」

「ええ。生意気ね!」
 アルトラリッチであり、魔術師最高位でもあるネクロマンサーのディスペルが通用しない。
 リン以上の術者が使用している呪詛……。
 そんな使い手がこの国にいるのか。
 リンよりも長い時間を過ごすエルフ達の国だからな。いても不思議じゃないのかもしれないけど、今までの面々を見る限りそれは考えにくいんだよな。

 ――それよりも、

「あの呪いはなんだ?」

「あれは呪いじゃなくてチャームよ」

「てことは――魅了系の魔法?」

「そう。大地系の大魔法であるフル・ギルと見ていいでしょう」
 ――フル・ギルをかけられた対象者は術者の絶対支配を受けてしまうという。
 大魔法ではあるが広範囲というわけではなく、個人――もしくは数人単位に発動する魔法。
 広範囲ではないぶん派手さはないが、チャームを受けた者は術者に受けた指示を死ぬまで実行するという。
 
 でもってリンでも解除できない程の実力者がその魔法を使用しているという事実。
 
 ポルパロングだけの問題じゃなくなってるな。
 やばい状況なのは理解していたけど、俺が理解する以上のやばい状況になっているみたいだ。
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