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トール師になる

PHASE-1093【有言実行、右ストレート!】

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「ぬかしたな! かみ切る前に首を斬り落としてくれる! やれ!」
 躾け発言から秒で斬首発言への変更。
 ポルパロングは情緒不安定かな?

「いや、ですが……」
 忙しなく首を動かしていたエルフ兵たちは困惑する。
 元々は話し合いだったはずなのに戦いに発展し、尚且つ氏族の娘と勇者に対して攻撃を行うのはよろしくないと気骨を見せてくれる。
 この辺は私兵とは違うね。
 言われるがままに従わず、しっかりと異を唱えるんだからね。

「いいからやれ! ここに来ているという事は、ここに至るまでに我々の仲間の命を奪ったという事だ」

「奪ってねえよ。ただ戦闘不能にしただけ」

「聞いたか! あの勇者の発言を! こちらに対して攻撃の意思ありと判断せよ」

「いや、お前の私兵が先に――」

「黙れ! アンデッドなどといることが何よりも悪としての証拠よ!」

「アホか。アンデッドだからって悪って決めつけんなよ」

「なんと不快な発言なのか……。このような者が勇者であろうはずがない。殺せ!」
 と、言えば手を俺へと向ける。
 エルフ兵たちは納得はしていないようだが、アンデッドといるというのがやはりこちらの説得力を奪うようで、しっかりと俺達に鏃を向けてくる。

「放て!」

「プロテクション」
 放ったところで意味はないとばかりにリンが障壁によって矢を叩き落とす。

「随分な言い方をしてくれた事に怒りを感じたわ。お仕置きでもしてあげましょうかね」

「なんだ女。邪魔をするな!」

「邪魔はするでしょう。貴男にとって敵なのだから」
 蠱惑と嘲りが合わさる笑みを向ければ、怒りが限界を超えているポルパロングのエンレージが大爆発。
 指示を兵達に出しているんだろうが、言葉として聞き取れないくらいの発狂した姿。
 それでも態度で主の思考を感じ取るエルフさん達は再び矢を放ち、加えて魔法を唱えてくる。
 でもその全てがリンによって防がれる。
 
 詠唱有りの大魔法ライジングサン詠唱破棄スペルキャンセル大魔法グラトニーで容易くかき消してしまうだけの実力を有した人物。
 エルフたちの小手先の魔法ではなんの脅威にもならない。

「弱いわね~」
 トドメに小馬鹿にする始末。
 氏族の屋敷ってのもあるから本気の魔法を使用するってことに躊躇もあるんだろうけどね。
 実力を発揮出来ないでいるのか、それともそれが全力なのかは分からんが――。

「分水嶺に立ち、強兵となるか弱卒となるかは、全ては拠り所となる将の存在に左右される」

「そうそれ」
 エルダー一体の発言に相槌を打つ俺。

「それだけで見ても、こちらは大いに勝っている」
 と、リンの事かと思ったけども、緑光は俺をじっと見る。
 いや……。アンデッドを悪と決めつけるなとは言ったけども、やはりアンデッドにガン見されると怖いです……。

「不浄なる存在たちを討滅せよ!」
 エルフの兵達も自分たちを言い聞かせるようにしながら、こちらに多様な攻撃を繰り出してくる。
 が、その悉くがリンによって防がれてしまうという状況は変わらない。

 ポルパロングは物事がうまく運ばず歯がゆいのか、兵達に対して罵詈雑言。
 だだでさえ戦いに躊躇しているというのに、あれでは戦おうとする意思が大いに削がれるというものだ。

「ふん!」
 可哀想なので俺がラピッドで一気に距離を詰め、青筋立てて叱責に集中して隙だらけのポルパロングを掴み、

「シャルナ」

「お任せ!」
 弓を手にせず、革手袋からギュッと聞こえるほどの音を出して拳を作るシャルナのいる方向へとポルパロングを突き飛ばす。
 ポルパロングが空足を踏むところに、

「このド変態がぁぁぁぁぁあ!!」
 金糸のような長く美しい髪を靡かせながら、シャルナによる渾身の右ストレート。
 有言実行による一撃。
 バランスを崩していたこともあり、ポルパロングは無様に床を転がる。
 そんな主の姿をエルフ兵達は眺めるだけ。
 存外、心の中ではガッツポーズだったりして。

「綺麗に入ったな」

「当然!」
 殴った拳を高らかに掲げる勝ち気美人。
 自信が溢れる美人の一撃は間違いなくクリティカル。
 
 今の一撃を見舞われれば立つのも――、
 
「お、おのれ!」

「お!?」
 決まったと思ったけど、矢庭に立ち上がる。
 意外と元気。
 怒りの視線はコンビネーションをしかけた俺とシャルナに向けられる。
 でも迫力にはかけるね。
 イケメンに鼻血は似合わないな。

「貴様等! いきなり私を狙うとは!」

「大将首を狙うのは戦いの鉄則だろう」

「なんと下品な。大将とは最後に狙うものだ!」

「知るかよそんな価値観。自分ルールを俺達にまで強要するな」

「勇者とは名ばかりの卑怯者め!」

「戦いに卑怯もラッキョウもあるものか! そもそもこっちは全力じゃないぞ」
 こちとら抜刀も抜剣もしていないんだからな。

「ぬかしたな! 後悔させてやるぞ!」
 ん?
 ゴソゴソと服の中に手を突っ込んで何をするつもりかな?
 ろくな事じゃないだろうから阻止させてもらおう。

「アクセル」
 からの――、

「おら!」
 と、ここで弱烈火。

「シルフィード!」
 ゴテゴテとはめている指輪が輝く。

「おお!?」
 シャルナも使用した事のある風の障壁魔法か。
 弱烈火を容易く防がれた。
 しっかりと実力もあるようだ。
 
 ふんぞり返っているだけではなく、氏族というポジションに居座り続けるだけの力とアイテムは持っていて当然か。
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