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トール師になる

PHASE-1092【口角泡を飛ばす】

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「で、凝視しているところ悪いけど、どう探すのかしら?」
 ――……リンさん。余計な事は言わなくていいです。
 シャルナは何のこと? と聞いてくるので、ガン見してた事は気付かれなかったのでセーフ。
 
 即、話題をすり替えよう。

「聞いてくるリンは探索魔法が使えるんだろう?」

「どうかしらね~」

「まったく。素直じゃない」
 絶対に使えるリアクションだよ。

「主に代わって謝罪しよう」
 と、各扉を封鎖してくれるエルダースケルトン達とは違い、リンの護衛のために随伴してくれた四体のうちの一体が頭を下げてくる。

「余計な事はしなくていいの!」
 と、このスケルトン達と話す時のリンはなんとも人間味のあるリアクションになるね。

「まあいいさ。リンの力を借りなくても解決してみせるさ」
 探索能力はこの国の森で実証済みだからな。
 プレイギアから心拍センサーを召喚。

「それがハーフエルフとダークエルフの子供たちを見つけた時に使った魔道具?」

「そう。魔道具じゃないけどな」
 興味津々に耳を振りつつディスプレイを覗き込んでくるシャルナからはとても良い香りがしました。

「鼻の穴が広がってるわよ」
 コクリコが不在の時はリンがツッコミ担当になるのかな?
 
 ――さっそくディスプレイを真っ直ぐ続く廊下や横合いに繋がる各廊下の方向へと向けていく。

「ふむ。控えめに言ってチートだな」

「これはどう見るのかしら」

「おう」
 リンまで覗き込んでくる。
 左右を美人に挟まれた俺は幸せ。
 約二千歳と五百年を過ごす女性たちだけど。
 二人に説明をする。
 使用者から見て前方180度の約120メートルの距離以内にいる敵の索敵が可能で、映し出された円弧上に光が走り、赤点で表示されたのが敵だと説明。

「便利であるな」

「ああ、はい……」
 あの……。出来れば美人二人だけでお願いしたいんですが。
 なんでエルダースケルトン達まで覗き込んでくるの。
 いくら味方とはいえ、眼窩に灯る緑光による凝視は、俺のSAN値を下げてきます……。
 
 この青色は? と、正面から覗き込んでくるエルダー達の質問に味方を意味すると伝える。
 それにしても心拍センサーはいいね。
 いくら広い屋敷とはいえ、120メートル内を探索出来る心拍センサーなら殆どを捕捉する事が出来る。
 だだっ広い森の中で使用するのとは大違いだ。
 
 二つの赤色の点が横合いで待機しているのが分かる。
 念のために右拳を振る。

「うむ。これなら問題ない」

「何が?」

「まあ見てろシャルナ。そしてお歴々」
 曲がり角に差し掛かったところで、先手必勝のアクセルにて背後まで回り込み、振り返る前に二人をダウンさせる。

「フフフ……」
 いいね。アサシンのような戦い方が出来た。
 心拍センサーを所持していたら、武器チェンジが鈍くなるというゲーム内と同じ弊害が起こるのが欠点だが、それなら素手で倒せばいいじゃないの理論は正解だった。
 瞬時に接近して拳で二人を黙らせるのはとても楽。

 ――心拍センサーを片手に、廊下や部屋を探索していく。
 その間に脅威となる者達は全て先手でダウンさせる事が可能だった。

「なんだかんだでトールも強くなってるよね」
 と、飾らないシャルナの褒め言葉は嬉しかった。
 背中の部分がこそばゆくもなるけど。
 だが今回の強さってのは、左手に持った偵察兵ガジェットの心拍センサーの恩恵が大きい。
 なので個人の力ではないと己を律して調子には乗らない。

「それで――何処が正解なのかしら?」

「多分ここだろうな」

「そのようね」
 リンの笑みを目にしつつ、ディスプレイに反応のある赤点を見る。
 数は今までで一番多い。
 一つの赤い点を中心とし、取り囲むように複数の赤点が存在する。

「この中心の赤点がポロパロングってことかな?」

「十中八九そうだろうな」
 そう返せばシャルナの瞳に力が宿る。
 加えて握り拳もつくる。
 有言実行とばかりにストレートを打ち込むつもりかな?
 自分が最初に一撃を加えてやるとばかりに、シャルナが先頭切って歩き出す。
 真っ直ぐと続く廊下は他よりも力が入っていた。
 ニッチとなった壁には調度品が飾られており、上へと目を向ければ、雲から光芒がさす中をエルフ達が空を舞う姿が描かれた天井画。
 天使が降臨する姿をエルフで見立てているような絵。この世界に天使がいるのかは分からないけど。

 油断せず、しかし気負わず余裕を持って、絵や調度品を見つつ扉へと向かう――。 

「たのもう!」
 大音声とともにシャルナの綺麗な長い足が扉を蹴り開く。

「なんと下品な。とても氏族の娘とは思えませんな」

「うるさいポロパロング! 随分とふざけた出迎えだったわね!」

「それはこっちが言いたいこと。こちらの厚意を無下にしたうえに、この私の立場を危ぶませたのだからな!」

「うっさい! 頼みもしないのにアンタがダークエルフを連れてきて、食事やお酒を持ってきただけでしょうが!」

「それを受け取ったのはそこの勇者や仲間であろう!」

「だから好きにした。アンタが言ったことを実行しただけだよ。トールはね」
 テイワイズの時のようにシャルナが代弁すれば、向こうの顔はテイワイズ同様に真っ赤。

「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇい!! 氏族どころかエルフの面汚しがぁ!」

「はあ? なに声を裏返しながら訳の分からない事を言ってるの? バカなの? バカだから勝手に自滅しかけてるんでしょうけど。何なの面汚しって?」

「貴様のような小娘に、この国のこれからを梶取する者の思考など分かってたまるかよ!」

「分かるつもりはないし、質問の答えになっていないんだけど。面汚しって何をさしてるのよ」

「言われないと分からないとはな! 答えは貴様の後ろだ。なんだそのスケルトン達は! しかもエルダークラスではないか! 不浄の中でも上位種を引き連れているとは! 貴様はそれでもエルフか!」

「うっさい! アンタのような腐った心根の持ち主よりマシよ!」

「この国にアンデッドという災いをもたらすとは。エルフだけでなくファロンド家の面汚しよな。父親に代わって私が躾けてやる」

「変態に躾けられるくらいなら舌をかみ切ってやるわよ!」
 ハイエルフ二人の丁々発止に首を忙しく動かすのは――、向かいでポルパロングを護衛する正規兵のエルフさん達。
 そして――対面する俺。
 忙しく首を動かす中で目が合えば、対面で共通するのは――苦笑い。
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