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トール師になる
PHASE-1083【いきなりだね】
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「エリスは素振りを見せるためだけにここに来たわけじゃないよね?」
素振りを済ませて二人だけで小休止をとっていたところで質問。
「はい。今回のダークエルフの女性たちに対するシッタージュ殿の話は大事になりまして」
「うん?」
朝の時から更に進展があったのかな?
「カトゼンカ殿が大層お怒りになったのです」
「ええっと。確か氏族筆頭の長身痩躯の方だよね?」
「はい」
あの蛇さんか。
――エリスが言うには、玉座の間で行われていた御前会議が終了し、王様が退室した後、残った氏族同士でその後も話し合いが行われたという。
ルミナングスさんは警邏の任務があったことから不参加だったそうで、残りの五氏族での話し合い。
今回のポルパロングの行動は、おおよそ氏族としてあってはならない事であったと追求が始まったそうだ。
自分たちは氏族である以上、他のエルフ以上に矜持を持たねばならない。
だというのに、あろう事かウーマンヤールの者を囲わせていたという問題に加え、あろう事かそれを外部の者――しかも公爵位を持つ勇者に譲るという愚行。
国内だけでなく、国外にも恥をさらしたと蛇さんは大激怒だったという。
大激怒の理由が最下級の者を囲っていたというのが理由ってのもなんだかな~とは思うけども、一応はそういった愚行に対する怒りは示したわけだ。
裏方担当であるから、氏族の弱みを持っていると考えられるポルパロングに対して、激怒できたんだな蛇さん。
一応、王様の前では叱責せずに、氏族だけが残った状況で叱責するのはポルパロングに対しての配慮もあったのかな?
――いや、それはないか。
現にエリスの耳に入っているのだから、当然、王様の耳にも入っているだろう。
配慮するなら二人きりって状況を作るのがベターだよな。
蛇さん、本気で激怒したと考えていいのかな? 王様の前で怒りの姿を見せたくないから退室するまで我慢してたって事か?
それもあって、こっちがその情報を耳にするのにタイムラグが生じたわけだけど。
エリスが朝に伝えてくれた内容から一気に動いたな。
しかも同じ日の朝に状況が一変してるんだから。
なるほどね。ルミナングスさん、エリスが訪れた事の重圧で胃を擦っていたわけじゃないな。
俺よりも先に耳にした内容が、エリスによって俺に伝わるってのにストレスを感じたんだろうな。
「でもそういった事はカトゼンカ殿ではなく、御前会議ではっきりと我が父が叱責するべきだと思います」
エリスはご立腹。
確かにそう思うけども、
「氏族との兼ね合いもあるだろうからな」
「それを乗り越えてでも叱責すべきでしょう。朝にも言いましたが、この件に関してはしっかりと追求すると約束もしましたからね」
「追求するにもタイミングが大事なんだろうからな。王様はそこを考慮したんだろうさ」
「そうなのでしょうが……」
納得はいかないか。
正義感があるのは素晴らしいけども、それに固執すると危険だよ。
周囲が見えなくなるからな。
現王様はそれが分かっているから、今まで王族と氏族の間で均衡を保つことが出来てたんだろうしね。
正義を猛進させてその均衡を破れば、大変な目に遭うかもしれないと伝えれば、エリスは素直に首肯で返してくれた。
「僕の心配をしてくれるのは嬉しいですが、師匠もシッタージュ殿には気を付けてください。カトゼンカ殿によって謹慎処分となりましたが、その時、筆頭であるカトゼンカ殿に噛みついたそうですから」
筆頭だからと勘違いするな。氏族である以上、自分たちは対等なのだ! と、蛇さんを罵ったそうだ。
鬼気迫ったポルパロングの姿はまるで別人のようだったそうで、その場にいた氏族たちは気圧されたという。
その場にルミナングスさんはいなかったわけだが、今回、玉座の間の警護を担当してたというルーシャンナルさんが、氏族の一人であるイエスマンと一緒になってポルパロングをなだめ、何とか退出させたという事だった。
「追い詰められた時の気迫は本当に恐ろしかったそうです。実際あの方の力は様々な――」
「所と繋がっているんだろ。裏方担当だから」
「はい。更には多くの私兵もいます」
裏方として他をカバーするためには正規兵だけでは手が足りないという理由から、ポルパロングの私兵の多さは氏族の中でも随一だそうだ。
「今回の俺の行動によって、ポルパロング――殿は矜持を汚されたと思っていることだろうな」
「歪んだ矜持です」
「だが、ポルパロング殿にとっては信念と考えている矜持だからね。こういったのはしつこく恨みを抱くんだろうな」
「もし師匠に危害が及ぶなら――僕が!」
「戴冠式前だからな。無茶はするなよ」
「分かりました……。ですが本当に気を付けてください。裏方だから地味だとは思わないでください」
当然だ。裏方担当として、表で励む各氏族をカバー出来るだけの力を有しているわけだしね。
氏族の中で随一の兵力を有しているだけでなく、諸々の力も筆頭の蛇さんに次ぐと考えるべきだろう。
いや――、総合では蛇さんよりも力を有しているかもな。
追い詰められたらどう出るかなんてのは人間もエルフもそう変わらないだろう。
特に自尊心が高い種族だ。
しでかす時は大事になりそうだな。
――警告と自分の成長を見てもらうために訪れたエリスを屋敷から見送れば、直ぐだった。
まるでエリスが帰るのを待っていたかとばかりに、
「勇者殿」
「はいはい」
現れたのは二人の男。
ポルパロングの使いの者という事だった。
「我が主がお話があるという事で、今晩、屋敷へと来ていただきたいと」
「ほうほう」
「来ていただけますかな?」
「断ったらどうなるんです?」
「我が主は様々な所に力を行き渡らせております。裏方という地味な立ち位置ですが――」
「だからこそ力があるというのは理解してますよ。さっきまでその話をしてましたからね。あと、含みのある言い方は止めて率直にお願いします」
「ゆ、勇者様のお弟子殿やその母親に……き、危害が……」
「あんた声が震えてるよ」
相対する者が恐れるのは理解できる。
この国で大恩ある存在とされる俺相手にこんな事を言うこと自体があり得ないもんね。
しかも勇者であり、北の地には広大な領地を有した公爵でもある。
ここで外交的な問題を起こせば、公爵領の悉くを敵に回す事になる。
氏族とはいえ逸脱した行動。
エルフ王だけでなく、他の氏族もこれには看過も擁護も出来ないね。
使いの二人もそれを理解しているから恐れているわけだし。
宮仕えのつらいところだね。
素振りを済ませて二人だけで小休止をとっていたところで質問。
「はい。今回のダークエルフの女性たちに対するシッタージュ殿の話は大事になりまして」
「うん?」
朝の時から更に進展があったのかな?
「カトゼンカ殿が大層お怒りになったのです」
「ええっと。確か氏族筆頭の長身痩躯の方だよね?」
「はい」
あの蛇さんか。
――エリスが言うには、玉座の間で行われていた御前会議が終了し、王様が退室した後、残った氏族同士でその後も話し合いが行われたという。
ルミナングスさんは警邏の任務があったことから不参加だったそうで、残りの五氏族での話し合い。
今回のポルパロングの行動は、おおよそ氏族としてあってはならない事であったと追求が始まったそうだ。
自分たちは氏族である以上、他のエルフ以上に矜持を持たねばならない。
だというのに、あろう事かウーマンヤールの者を囲わせていたという問題に加え、あろう事かそれを外部の者――しかも公爵位を持つ勇者に譲るという愚行。
国内だけでなく、国外にも恥をさらしたと蛇さんは大激怒だったという。
大激怒の理由が最下級の者を囲っていたというのが理由ってのもなんだかな~とは思うけども、一応はそういった愚行に対する怒りは示したわけだ。
裏方担当であるから、氏族の弱みを持っていると考えられるポルパロングに対して、激怒できたんだな蛇さん。
一応、王様の前では叱責せずに、氏族だけが残った状況で叱責するのはポルパロングに対しての配慮もあったのかな?
――いや、それはないか。
現にエリスの耳に入っているのだから、当然、王様の耳にも入っているだろう。
配慮するなら二人きりって状況を作るのがベターだよな。
蛇さん、本気で激怒したと考えていいのかな? 王様の前で怒りの姿を見せたくないから退室するまで我慢してたって事か?
それもあって、こっちがその情報を耳にするのにタイムラグが生じたわけだけど。
エリスが朝に伝えてくれた内容から一気に動いたな。
しかも同じ日の朝に状況が一変してるんだから。
なるほどね。ルミナングスさん、エリスが訪れた事の重圧で胃を擦っていたわけじゃないな。
俺よりも先に耳にした内容が、エリスによって俺に伝わるってのにストレスを感じたんだろうな。
「でもそういった事はカトゼンカ殿ではなく、御前会議ではっきりと我が父が叱責するべきだと思います」
エリスはご立腹。
確かにそう思うけども、
「氏族との兼ね合いもあるだろうからな」
「それを乗り越えてでも叱責すべきでしょう。朝にも言いましたが、この件に関してはしっかりと追求すると約束もしましたからね」
「追求するにもタイミングが大事なんだろうからな。王様はそこを考慮したんだろうさ」
「そうなのでしょうが……」
納得はいかないか。
正義感があるのは素晴らしいけども、それに固執すると危険だよ。
周囲が見えなくなるからな。
現王様はそれが分かっているから、今まで王族と氏族の間で均衡を保つことが出来てたんだろうしね。
正義を猛進させてその均衡を破れば、大変な目に遭うかもしれないと伝えれば、エリスは素直に首肯で返してくれた。
「僕の心配をしてくれるのは嬉しいですが、師匠もシッタージュ殿には気を付けてください。カトゼンカ殿によって謹慎処分となりましたが、その時、筆頭であるカトゼンカ殿に噛みついたそうですから」
筆頭だからと勘違いするな。氏族である以上、自分たちは対等なのだ! と、蛇さんを罵ったそうだ。
鬼気迫ったポルパロングの姿はまるで別人のようだったそうで、その場にいた氏族たちは気圧されたという。
その場にルミナングスさんはいなかったわけだが、今回、玉座の間の警護を担当してたというルーシャンナルさんが、氏族の一人であるイエスマンと一緒になってポルパロングをなだめ、何とか退出させたという事だった。
「追い詰められた時の気迫は本当に恐ろしかったそうです。実際あの方の力は様々な――」
「所と繋がっているんだろ。裏方担当だから」
「はい。更には多くの私兵もいます」
裏方として他をカバーするためには正規兵だけでは手が足りないという理由から、ポルパロングの私兵の多さは氏族の中でも随一だそうだ。
「今回の俺の行動によって、ポルパロング――殿は矜持を汚されたと思っていることだろうな」
「歪んだ矜持です」
「だが、ポルパロング殿にとっては信念と考えている矜持だからね。こういったのはしつこく恨みを抱くんだろうな」
「もし師匠に危害が及ぶなら――僕が!」
「戴冠式前だからな。無茶はするなよ」
「分かりました……。ですが本当に気を付けてください。裏方だから地味だとは思わないでください」
当然だ。裏方担当として、表で励む各氏族をカバー出来るだけの力を有しているわけだしね。
氏族の中で随一の兵力を有しているだけでなく、諸々の力も筆頭の蛇さんに次ぐと考えるべきだろう。
いや――、総合では蛇さんよりも力を有しているかもな。
追い詰められたらどう出るかなんてのは人間もエルフもそう変わらないだろう。
特に自尊心が高い種族だ。
しでかす時は大事になりそうだな。
――警告と自分の成長を見てもらうために訪れたエリスを屋敷から見送れば、直ぐだった。
まるでエリスが帰るのを待っていたかとばかりに、
「勇者殿」
「はいはい」
現れたのは二人の男。
ポルパロングの使いの者という事だった。
「我が主がお話があるという事で、今晩、屋敷へと来ていただきたいと」
「ほうほう」
「来ていただけますかな?」
「断ったらどうなるんです?」
「我が主は様々な所に力を行き渡らせております。裏方という地味な立ち位置ですが――」
「だからこそ力があるというのは理解してますよ。さっきまでその話をしてましたからね。あと、含みのある言い方は止めて率直にお願いします」
「ゆ、勇者様のお弟子殿やその母親に……き、危害が……」
「あんた声が震えてるよ」
相対する者が恐れるのは理解できる。
この国で大恩ある存在とされる俺相手にこんな事を言うこと自体があり得ないもんね。
しかも勇者であり、北の地には広大な領地を有した公爵でもある。
ここで外交的な問題を起こせば、公爵領の悉くを敵に回す事になる。
氏族とはいえ逸脱した行動。
エルフ王だけでなく、他の氏族もこれには看過も擁護も出来ないね。
使いの二人もそれを理解しているから恐れているわけだし。
宮仕えのつらいところだね。
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