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トール師になる
PHASE-1081【希望もある】
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「静かにするのは兄さんよ!」
「!? ルマリア!?」
「あら兄妹だったんですね。俺に怒りの感情をぶつけてくるから、視野が狭くなって妹さんも見えなくなるんだ」
「う、うるさい! フードで顔を隠されていれば分からん!」
とか言いつつ、若干の焦りが見えるね。
「フードで隠されていれば分からん! って随分と強くいうのね兄さん」
「い、いや。その……すまん」
途端に弱い姿になったな。お兄さん。
「アルテリミーアも無事よ」
「おお! 両親に伝えよう」
ここで一人のダークエルフさんが報告のために音も無く俺達の前からいなくなる。
大したもんだ。
ウーマンヤールに落とされ、呪印が刻まれてマナが使用できないのだから、今の動きは身体能力だけのものだろう。
「だがこれは一体どういうことだ?」
驚くお兄さんことネクレスさんは、なぜ二人が戻ってきたのかと妹であるルマリアさんに問う。
「――そうか。妹と友人を救ってくれたのか。とりあえず感謝はしよう」
「兄さん。言い方が!」
「恩人ではあるが、我々ダークエルフにとっては不愉快な存在でもあるのが勇者だ」
「そんなにも次代の王を救ったことが許せないんだな」
「当然だ。まあ、王族にはそこまで強い恨みはない。が、それを取り囲む一部の氏族が許せんのだ! 妹達を奪ったヤツなど特にな! そしてその様なヤツにいつまでも権力を与え続けているとなれば、王族にも怒りを覚える」
本来なら処刑されていたであろうダークエルフさん達は、ウーマンヤールという最下級に落とされた事で命は救われている。
その事はダークエルフさん達も理解はしているのだろうけど、氏族に抱く怨嗟がその理解を塗りつぶしているんだろう。
「その怒りを覚える王族もそれを正そうと動こうとしているわけで、その為にはそちらも協力をして互いに歩み寄る考えを――」
「そんな事は言われなくても分かっている。だが、こういった立場に追いやられれば、多くの者達の考えはどうしても歪む。俺もそうだ!」
旧態依然な氏族たちに、恨みだけを積み重ねていくダークエルフ達。
エリス……。変革の道は遠いようだぞ……。
本当にツテとかあるのか? 周囲を囲んでいる連中からはそういったモノは感じ取れないぞ。
「勇者よ。一応の感謝の礼として、ここでお前達を襲うことはしない。だから帰れ。サルタナもここには近づくな。ハウルーシを思うならな」
「大人が子供の友情にヒビを入れちゃ駄目だろ」
「ヒビを入れないためだ。さあ帰れ。そしてこの国からも出て行け。それがお前達のためだ」
なんのこっちゃ。
「まあ考えとくよ」
当たり障りのない返事の後に体を反転。
結局、今回も集落には入れずじまいか。
サルタナはなんとも寂しげだったけど、これ以上いると本格的にこちらに対して力を行使してくると判断したので、サルタナの手を引っ張って立ち去る。
立ち去り際、ルマリアさんとアルテリミーアさんは申し訳ないとばかりに頭を下げて俺達を見送っていた。
――。
「まったく! あれで終わりかい。この足場の悪い中をわざわざ歩いてきてやったってのに。集落の中にも誘わないどころか、水一つ出さんとわの!」
ご立腹のギムロンは不満を漏らしながら、ズカズカと大きく足音を立て不安定な大地を歩く。
今の発言、ダークエルフさん達の前で言わなかっただけよかったとしよう。
「閉鎖的な環境で心も閉鎖的になってんだよ。卑屈さが体を縛ってんのさ」
「だとしても恩人に対する礼儀がなっとらん! 前回みたいに投げ飛ばしてやればよかったもんを」
「曲がりなりにも感謝の言葉をもらえたんだ。それだけでも進展があったと喜ぶべきだろう」
「会頭は優しすぎるぞ」
この国の内情を知れば、ダークエルフさん達に対して同情するのは当然だからな。
でも実際に同情なんかすれば怒り心頭になるんだろうけどな。
エルフ特有の気位の高さが邪魔する限り、ハイエルフ達もそうだけど、ダークエルフの連中も新たな道を歩むための行動は起こせないだろう。
やはり、どっちもどっちだな。
気位の高さと、旧態依然という言葉に精神が支配されている。
「まあ――」
横を歩く、落ち込むサルタナの頭をなでつつ、
「希望もあるのが救いだよ」
と、継ぐ。
「なんですかその達観した物言いは。まるで高尚な存在のように見えますよ」
「コクリコよ。俺は勇者で公爵だよ。そしてエルフ達の師でもある。高尚な存在だろ」
「自分で言ってしまう辺り、やはりトールですね。安心しました。立派な俗物です」
――……正鵠を射るじゃないか。
腹立つ! こんな切り返しを許した俺自身に腹が立つ!
「!? ルマリア!?」
「あら兄妹だったんですね。俺に怒りの感情をぶつけてくるから、視野が狭くなって妹さんも見えなくなるんだ」
「う、うるさい! フードで顔を隠されていれば分からん!」
とか言いつつ、若干の焦りが見えるね。
「フードで隠されていれば分からん! って随分と強くいうのね兄さん」
「い、いや。その……すまん」
途端に弱い姿になったな。お兄さん。
「アルテリミーアも無事よ」
「おお! 両親に伝えよう」
ここで一人のダークエルフさんが報告のために音も無く俺達の前からいなくなる。
大したもんだ。
ウーマンヤールに落とされ、呪印が刻まれてマナが使用できないのだから、今の動きは身体能力だけのものだろう。
「だがこれは一体どういうことだ?」
驚くお兄さんことネクレスさんは、なぜ二人が戻ってきたのかと妹であるルマリアさんに問う。
「――そうか。妹と友人を救ってくれたのか。とりあえず感謝はしよう」
「兄さん。言い方が!」
「恩人ではあるが、我々ダークエルフにとっては不愉快な存在でもあるのが勇者だ」
「そんなにも次代の王を救ったことが許せないんだな」
「当然だ。まあ、王族にはそこまで強い恨みはない。が、それを取り囲む一部の氏族が許せんのだ! 妹達を奪ったヤツなど特にな! そしてその様なヤツにいつまでも権力を与え続けているとなれば、王族にも怒りを覚える」
本来なら処刑されていたであろうダークエルフさん達は、ウーマンヤールという最下級に落とされた事で命は救われている。
その事はダークエルフさん達も理解はしているのだろうけど、氏族に抱く怨嗟がその理解を塗りつぶしているんだろう。
「その怒りを覚える王族もそれを正そうと動こうとしているわけで、その為にはそちらも協力をして互いに歩み寄る考えを――」
「そんな事は言われなくても分かっている。だが、こういった立場に追いやられれば、多くの者達の考えはどうしても歪む。俺もそうだ!」
旧態依然な氏族たちに、恨みだけを積み重ねていくダークエルフ達。
エリス……。変革の道は遠いようだぞ……。
本当にツテとかあるのか? 周囲を囲んでいる連中からはそういったモノは感じ取れないぞ。
「勇者よ。一応の感謝の礼として、ここでお前達を襲うことはしない。だから帰れ。サルタナもここには近づくな。ハウルーシを思うならな」
「大人が子供の友情にヒビを入れちゃ駄目だろ」
「ヒビを入れないためだ。さあ帰れ。そしてこの国からも出て行け。それがお前達のためだ」
なんのこっちゃ。
「まあ考えとくよ」
当たり障りのない返事の後に体を反転。
結局、今回も集落には入れずじまいか。
サルタナはなんとも寂しげだったけど、これ以上いると本格的にこちらに対して力を行使してくると判断したので、サルタナの手を引っ張って立ち去る。
立ち去り際、ルマリアさんとアルテリミーアさんは申し訳ないとばかりに頭を下げて俺達を見送っていた。
――。
「まったく! あれで終わりかい。この足場の悪い中をわざわざ歩いてきてやったってのに。集落の中にも誘わないどころか、水一つ出さんとわの!」
ご立腹のギムロンは不満を漏らしながら、ズカズカと大きく足音を立て不安定な大地を歩く。
今の発言、ダークエルフさん達の前で言わなかっただけよかったとしよう。
「閉鎖的な環境で心も閉鎖的になってんだよ。卑屈さが体を縛ってんのさ」
「だとしても恩人に対する礼儀がなっとらん! 前回みたいに投げ飛ばしてやればよかったもんを」
「曲がりなりにも感謝の言葉をもらえたんだ。それだけでも進展があったと喜ぶべきだろう」
「会頭は優しすぎるぞ」
この国の内情を知れば、ダークエルフさん達に対して同情するのは当然だからな。
でも実際に同情なんかすれば怒り心頭になるんだろうけどな。
エルフ特有の気位の高さが邪魔する限り、ハイエルフ達もそうだけど、ダークエルフの連中も新たな道を歩むための行動は起こせないだろう。
やはり、どっちもどっちだな。
気位の高さと、旧態依然という言葉に精神が支配されている。
「まあ――」
横を歩く、落ち込むサルタナの頭をなでつつ、
「希望もあるのが救いだよ」
と、継ぐ。
「なんですかその達観した物言いは。まるで高尚な存在のように見えますよ」
「コクリコよ。俺は勇者で公爵だよ。そしてエルフ達の師でもある。高尚な存在だろ」
「自分で言ってしまう辺り、やはりトールですね。安心しました。立派な俗物です」
――……正鵠を射るじゃないか。
腹立つ! こんな切り返しを許した俺自身に腹が立つ!
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