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トール師になる

PHASE-1076【言質や確約はビジネスの基本だよ】

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「あのな~シャルナ、周囲を見てみろ。お前と食い意地ウィザード以外は理解してるっての」

「まったく」
 ここでルミナングスさんが嘆息。
 確実に自分に向けられたと判断したシャルナは、コクリコの食い意地を目にしたのに加えて、纏っていた怒気を更に押さえ込んで冷静になってくる。

「じゃあトールはその二人をどうしたいのよ?」

「だから好きなだけ自由にさせるって言ったじゃねえかよ」

「――ああ……なんだ。そっか、ゴメン」

「素直に謝れるのはいい事だぞ」
 ようやく理解したか。
 どんだけ頭に血が上ってたんだろうなシャルナは。
 基本すぐムキになるけども、今回は理解するの遅すぎ。
 それだけポルパロングの行動が気に入らなかったんだろうけどさ。
 コクリコはシャルナが謝ったことで最早どうでもいいということなのか、食事に集中……。
 お前も謝れと言ってやりたいが、俺は器が大きいので許してやろう。
 
 それよりも――、

「とまあ、いま言ったように、貴女たち二人は自由ということで好きにしていいですよ」

「「はい?」」

「だから自由。フリーダム。つまりこの場にいたくないなら帰ってもいいってことです」

「それは困ります!」
 大きな声ですな。
 そこまで俺に対して尽くしたいのかな?
 そうなら嬉しいことこの上ないけども、その大声は焦燥から来たものだと判断させていただきます。
 実際に顔にも出てるしね。
 
 やはりと言うべきか、あのハイエルフ――改めハイエロフのバカロングがそんな簡単にお気に入りを手放すわけがないよな。

「困らなくてもいいでしょう」
 俺に所有権が移った時点でハイエロフから自由になった。
 でもって俺が自由と発したのだから、これで本当に自由になったのだと言いつつ俺は周囲の面子に目を向ける。
 しっかりと俺の目を見てくれる辺り分かってるね。
 コクリコは俺より食い物だけど……。

「ですが私達は勇者様にお使いするように言われておりますので」

「だからその勇者が自由だと言ってるんですからいいんですよ」

「で、ですが……」
 そうやって食らいついてくるところがますます怪しいんだよ。

「もしも帰る場所がないって事で困っているんでしたら――ルミナングスさん。ご迷惑でなければ一時の間この二人をここに置いていただいてもいいですか」

「全くもって構いませんよ」

「これで当分は大丈夫ですよ」

「ですが、我々は勇者様の所有物となりましたので」

「俺はそうは思ってないので」

「しかし、ここで私達が拒まれればお叱りを受けます。勇者様も懇意な関係をと言ってましたし、ここで私達を拒めばポロパロング様も不快になるかと」
 既に俺の所有物になってるわけだし。好きなだけ自由にしていいと言うことをそのバカロングが了承しているわけだから問題なし。
 それに俺は懇意な関係になれればいいな~。と、希望的観測にて述べただけ。
 なろう。なりたい――などの確定的な言い方はしてません。
 
 と、説明。

「こういった時は相手の言質をしっかり取って確約を得ないと駄目ですよ。まあそれを貴女方に言ったところで意味はないでしょうけど」

「おいおい会頭。いくらなんでも赤裸々すぎんぞ」

「まったくだ。ここにいる全てがトールのシンパサイザーというわけじゃないからな」
 パンチが無いとか言っていたくせに、結局は二人してミルヴォーレをがぶ飲みしてんじゃねえかよ。
 飲兵衛は酒が進んで行けば、飲めるなら何でもいいって思考になるようだな。

「別にいいでしょ。バレたところで一人だけが不愉快になるだけでしょうしね。それとも俺憎しで事を構えるって考えるんでしょうかね?」

「そうなればどうするつもりだ?」

「愚問だなベル。そん時は噂で耳にしているであろう俺の力を見せるだけだ。エリスを救って乗艦させ、火龍を封じていた海上要塞を守っていたシーゴーレムの大艦隊を容易く壊滅させた力ってのをさ」
 自分でも驚くほどの酷薄な声とオーバーリアクションでの身振りにて喋々と語る。

「それも――いいだろうな」
 口角を上げてのベルの発言は、リアルに背筋に寒気が走る。
 俺の発言とベルの発言が原因だったのだろうか、俺の背後ではガシャンと音がする。
 ダークエルフさんの一人が手にしていたトレーを落としていた。

「大丈夫ですか?」
 問えば、

「は、はい……」
 問題ないと返してくるけども、その声は震えているし、顔色も悪いですよ。
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