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トール師になる

PHASE-1065【背を向けるのも時には必要】

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「どうです? 今なら土下座で終わらせてやりますよ。泣きながらの表情での土下座でね!」

「おいおい、出来たばっかりの弟子の前でそんな恥を掻かせるわけにはいかんじゃろ」
 なんて言ってる割には、ギムロンも意地悪そうな笑みを湛えているな。

「勇者を倒したとなれば、私達の位階も上がることでしょうね~」

「そうじゃの。そろそろこの色からも卒業したいもんだの」
 双方揃って自分の認識票を俺へとちらつかせてくる。

「いいぞ。この俺に勝つ事が出来たら、俺の独断でワンランク上げてやる」

「ワンランクとは言わずに、最上位まで上げていただきたいです――ね」
 本当にコイツは躊躇なくミスリルフライパンを全力で振り下ろすね。

「なめんな!」
 右手で振り下ろしてくるフライパンを左で握る棒切れで振り払おうとする。
 狙うはコクリコの手首。
 少々痛いだろうが後で回復してやるからという思考にて、手加減なしで全力で振るえば、

「甘いですね」
 体を急停止させると、

「ホレ!」
 コクリコの背後からギムロンの丸太による突き。
 重量のある丸太でも失速することのない突きはお見事。
 コクリコへの迎撃を中断してバックステップを選択すれば、

「愚かですよ」

「まったくじゃ」
 二人して馬鹿にした笑みと声とでそう言えば、コクリコが軽く跳躍。
 宙空にてうつ伏せのような姿勢をとる。

「まさか!?」
 突きを繰り出すギムロンの丸太先端に両足を付ければ、丸太を踏み台とし、弾丸のように俺へと向かって飛んでくる。

「今度はスカイラブハリケーンみたいだな。親父が小学生の時、朝礼で校長先生が技名を口にしてまで禁止にしていたくらいな危険行為だったそうだぞ」

「せいや!」
 勢いのままにフライパンのフルスイング。

「くっそ!」
 棒切れ二本を交差させてガード姿勢。
 防いでダメージを受ける事はなかったが、目の前では木っ端が派手に舞う。
 棒切れが消失するという現実。
 柄の部分だけが虚しく手の中に残っていた。

「無手になったようなもんだ。今が好機! 一気に畳み掛けるぞ!」

「心得ました」
 本当に感心するくらいのコンビネーションだな。
 なんで事前に打ち合わせもしないでそんだけの事が出来るのかね。
 ギムロンのパワーはフォローに回っても脅威だというのが分かる。
 
 コクリコの香港映画ばりの動きには、見る側の時は感心していたけども、自分に向けられるとこんなにも脅威なんだな。
 アクセルとか使えば翻弄も可能だけど、マナを禁止にしている中で地力のみで戦うとなると、この二人とはそこまで実力に差がないことに気付かされる。
 この二人、マジョリカともいい勝負するかもね。

「トドメといきましょう」
 格好つけてフライパンを空中で一回転させてキャッチすれば、一気呵成に二人がかりで攻め立ててくる。
 余裕ある動きではあるけど、隙が見当たらないのは流石だ。
 
 なので――、

「あ! 逃げましたよ!」

「逃げてはいない。戦略的撤退と言うのだ」
 迫る二人に俺は背を向ける。
 六花の紋が泣いているなどとコクリコから絶妙な挑発を受けようとも、俺は距離を取る。
 全速力にて必死になって逃げる背中を二人に見せてあげる。
 この姿を見ているもう一人――我が弟子サルタナには正直、見せたくはないけども。
 これは発言どおりの戦略的撤退だから。

「ま、逃がしませんけどね」
 分かっていますともコクリコさん。
 情けないけどもピリア不使用だと、瞬発力ではコクリコに勝てないってのも痛感させられた。
 地力のスペックは膂力は別にしても、その他はコクリコに負けていると判断していい。
 真摯に受け止めよう。
 しっかりとこの現実を受け入れなければ、次に進むための努力に繋がらないからな。

「まったく臆病者ですね。勇ましい者と書いて勇者だというのに」
 ――……嘲笑による挑発の才能はリンといい勝負できるくらいに天才的だな……。
 
 だが――、

「コクリコ――愚かなり」

「背を見せた状態で言われてもね」
 急ごしらえの連携は目を見張る素晴らしさがあったけども、俺を押し込んでいるという優位性に油断が生じたな。

 コクリコと俺はパーティーとして一緒に行動する仲間。
 が、強者との戦いとなると俺の方が経験は上。
 つまりは培ってきた経験というのも俺が上。
 さんざっぱらスパルタ二人によって強者と戦わされたからな。
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