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エルフの国

PHASE-1051【細身、細目でも美形】

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 ――――さてさてさ~て。

 こっからは分かりやすくない時間になるって事なんだろうね~。

「なんだ? 随分と足取りが重いようだが」

「ベルも俺達と一緒になって国を見て回っていれば、同じような気持ちになっただろうさ」

「そうなっただろうな。あらましはコクリコから聞いたからな」
 階級制自体が必ずしも悪いってわけじゃないんだろうが、この国の場合ずっと変わらないから濁っていってるように思える。
 この国を訪れて一日程度の俺のようなお馬鹿さんでも理解してしまうんだからな。
 実際は俺の理解以上に濁ってんだろうな。
 
「勇者殿、あと少しで到着します」
 俺とベルの会話を先頭で耳にしていたルミナングスさんは複雑な表情を浮かべながら、謁見の間まであと少しと伝えてくる。
 
 ルミナングスさんの屋敷はドリルブロッコリーの一部でもあるので、屋敷から城内へと入れば、謁見の間まではさほど距離はなかった。

 ――流石と言うべきか、通路には等間隔でハイエルフからなる近衛の方々が立哨として警護に当たっている。
 でも俺が通る度に必ず会釈をしてくる。
 キリッとした表情をわずかに緩ませ、笑顔を俺に向けてくれる。
 やっぱり俺ってこっちでは人気者なんだよな。
 ダークエルフさん達とは反応が真逆すぎる。
 
 こりゃマジでエルフの美人さん達が俺を取り囲んでくるような嬉しいイベントも発生しそうだな。

「国を見て回った割には顔がゆるんでいるな。今からエルフの王と会うのだ。難しくても精悍な表情を作っておけ」
 難しいってなに? それは俺のルックスが勇者として残念フェイスと遠回しに言っているのだろうか……。
 もしそうだとしたら俺の精神世界アストラルサイドにかなりのダメージが入ってしまう……。
 
 ――が、

「指摘はありがたいけど……ベルも大概だぞ」

「――何処がだ?」

「何処って……抱っこしてんだろうが」

「にゃ~」
 まったくアンデッドの四足歩行愛玩動物め!
 羨ましいったらありゃしない。
 ベルのロケットおっぱいの中でぬくぬくとしやがって! アンデッドなのに! 体温がないアンデッドがぬくぬくってどうよ。ソコかわって!

「ミユキこそ預けろよ。エルフ王に会うんだから」

「出来るわけないだろう! まだ赤ちゃんなのだぞ!」

「はい。ごめんなさい……」
 怒気というか殺気をベルの声から感じ取った俺は、即謝罪のヘタレな姿を近衛の方々の前でさらしてしまった……。
 まだ赤ちゃんではなく、ずっとその姿のままなんだよ。アンデッドだからな――ってツッコミすら出来なかったよ……。

「二人とも会話はそのくらいにしておけ」
 背後のゲッコーさんが言うように、ここまでのようだな。
 廊下から次へと続く扉の側に立つ近衛の二人がその扉を開けば、同じ廊下の風景が続くのだが――一歩踏み入っただけで明らかに空気が変わったのを肌で感じとれた。
 
 森閑とした空間。自分たち以外は誰もいないといった錯覚を起こしそうになる。
 実際は先ほどまでの廊下にもいたように近衛がいるんだけど、この廊下から近衛の質が格段に上がっていた。
 壁に沿って立ってはいるが、そこにいるのにいないように思わせるほど気配の消し方が秀逸。
 近衛の中でも選りすぐりの実力者なのだろう。
 そんな実力者たちが守る廊下となれば、次の扉がいよいよって事か。
 
 そしてこの廊下から絨毯の質も上がった。
 王族や貴族のデザインセンスってのは種族が違えど似通っているようで、メインが赤。差し色が金色からなる絨毯のデザインは見慣れたものだった。
 絨毯は踝まで隠れるほどに毛足が密集して長く、その場で寝転がりたい衝動にかられるほど。
 半長靴の靴底から心地よさが体全体に伝わってくる。

「これはこれはルミナングス殿」

「プロマミナス殿。お久しぶりですな」

「あまり表にはでないので」
 と、次の扉の前で近衛と一緒に待機していた人物とルミナングスさんが会話を交わし、俺の後方では溜め息が漏れる。
 シャルナのものだった。
 目の前にいるプロマミナスなるエルフの存在に不愉快さを滲ませているのが分かる。
 
 ――長身痩躯の細目。
 他のエルフ同様に金髪碧眼。そして目を引くサークレット。
 ほのかに青みがかった輝きを発していることから、ミスリル製のサークレットだと思われる。
 サークレットの中央にはタリスマンか宝石と思われる赤色の石が埋め込まれている。
 服装は薄い緑色のローブ。
 身なりからして魔術師か文官といった感じか。
 お互いに殿と敬称をつけるあたり、このプロマミナス氏も氏族なんだろう。

「おお! これはこれは」
 プロマミナス氏の外見や発言から階級を推理していれば、その細目と目が合う。
 細身で細目であってもそこはエルフ。
 ぶれない美形である。
 そんな美形がツカツカとこちらへと歩み寄ってくる。
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