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エルフの国
PHASE-1044【卑屈の精神】
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「真っ直ぐ進め!」
一気に加速。俺が指さす方へと皆して疾駆し跳躍する。
「いました!」
視認による第一発見はルミナングスさん。
樹上移動ではなく、地面を懸命になって走っている小さい二人の子供。
それに続くのは、心拍センサーに映し出されたとおりに翼包囲で追いかける五つの存在。
どうやら一人の方が足を怪我しているようだ。
もう一人が肩をかして、樹上よりも安定した下生えの中を走っているといったところ。
「追走するのは狼――か?」
体に霧を纏っているように見える。
「ミストウルフじゃな」
言いつつバトルアックスを両手に持って俺の背後に続く。
本当、国の中を見て回っていた時とは別物の動きだよ。
樽型の体からは想像できない跳躍力だった。
「負けてらんねえ」
心拍センサーを持ったまま幹を蹴り、二人の子供とミストウルフの間に着地。
「というか、二人ってなんだよ」
行方不明は二人だったのか?
まあ、それは後で確認するとして、
「悪いけど追い払わせてもらう」
――と、ここで残火を抜こうとする俺の体が何とも鈍い動き。
!? 何事かと思い、前方のミストウルフの力なのかと警戒している中で、
「動作が遅いですね。らしくないですよ」
と、俺に続いて着地したコクリコがお得意のファイヤーボールで狼たちを牽制。
俺と違って敏捷なコクリコの動きからするに、ミストウルフの能力ではないようだ。
「――ああ、そうか」
この心拍センサーが原因だったようだ。
ゲームと同じ使用だった模様。
敵の場所を把握できる分、先手を取れるのがこのガジェットの強味だが、デメリットとして心拍センサーから武器へのチェンジの時に動きが鈍くなるという使用がある。
それが現実でも作用したようだ。
ゲームだと索敵担当となってフレンドに指示を出せるけども、ソロだと結構な弱点になったりもする。
使いこなせればチートなんだが、使いこなせないならいい的になったりもするガジェット。
開発陣はゲームバランスをちゃんと考えている。
そもそも偵察兵なんてほぼ使用しないからガジェット知識がうろ覚えだった。
偵察兵のメイン武器がスナイパーライフルの時点で使う気にならないからな。
俺のへっぽこエイム力でスナイパーライフルなんてもん使えるわけがない。
ガジェットの欠点を忘れたまま俺一人だけで行動していたら、余計な攻撃を受けていたかもしれん。
コクリコには感謝だ。
「よし、切り替えよう」
牽制によるファイヤーボールで後退させたが、五頭のミストウルフは翼包囲を維持したまま。
肩越しに見れば、牽制してくれたコクリコに加えてギムロンが二人の子供の前に立ち、守りに入ってくれている。
ルミナングスさんがその上の枝に立ち、弓ではなく手を向けて待機。
守りはバッチリ。
ラピッドで一気に距離をつめ、残火を一振り。
「あら?」
空を切る俺の横薙ぎ。
――なるほど。流石はミストを冠するだけある。
体を霧状にすることが出来るんだな。この状態になられると物理攻撃は通用しないわけだ。
だからルミナングスさんは弓じゃなく魔法発動の姿勢で待機してたんだな。
まったく。イルマイユとの戦いの経験が活かせてないぞ俺!
「トール、中央で他より一歩後方に位置するのを狙うべきです」
「分かった」
あれが群れのリーダーということか。
「ブレイズ」
残火に轟々と炎を纏わせて狙うはリーダー。
「アォォォォン――」
狙っていた一頭が吠える。
途端に群れが霧状になって俺達の前から姿を消した。
「えっと――逃げた?」
「その様です。勇者殿の力を目にして勝てないと判断したんでしょう」
潔い撤退は本能が故か。
「大丈夫かい?」
振り返れば震える二人の子供。
見て分かるのは、肩を貸す褐色の肌の子供の方が胆力があるといったところだろう。
瞳にはしっかりと力が宿ってる。
怪我をしている方は――耳を見ればやや短い。
ハーフエルフの子供ってことか。
「二人いたんですね」
「そのようですね」
ルミナングスさんも知らなかったようだが――、
「訳知り顔ですね」
「ええ、それよりも治療を」
ハーフエルフの子供は右足から出血しているが、程度からして軽傷のようなので安堵する。
直ぐにルミナングスさんがファーストエイドにて回復。
治療を終えたところで、
「どういうことでしょうか?」
治療を終えたところで説明を求めれば、長嘆息の後に重々しく口を開くルミナングスさん。
――ウーマンヤールからの嘆願だから、てっきりダークエルフの子供だと思っていたそうだけど、実際はハーフエルフの子供を救わせたかったんだろうとのこと。
「だったら素直に子供を助けてほしいじゃなく、子供達と伝えてくれればよかったでしょうに。まるで一人と思わせるように濁す意味が分からない」
「報復を恐れたのでしょう」
――ウーマンヤールの失態によってハーフエルフの子供にもしもの事があったならば、次の日にはウーマンヤールの集落に武装したエルフ達が責任を果たせと圧力をかけてくるおそれがあると思ったのかもしれないとの事。
実際はそんなことはないのだが、僻地に追いやられたダークエルフ達の考え方は、時代が下るにつれて卑屈になってしまったそうだ。
報復を恐れるあまり、種族名ではなく子供という単語を使って濁したんだろうとルミナングスさんは推測。
そもそもが、ハーフエルフの子供が捜索対象になっていると分かっていたとしても、自分たち以外のエルフ達は捜索に出るのも面倒くさがっただろうとルミナングスさん。
これがハイエルフやエルフとなれば必死になるが、民階級――それもエルフではなくハーフエルフとなれば、ウーマンヤールとさほど変わらない対応になるようだ。
一気に加速。俺が指さす方へと皆して疾駆し跳躍する。
「いました!」
視認による第一発見はルミナングスさん。
樹上移動ではなく、地面を懸命になって走っている小さい二人の子供。
それに続くのは、心拍センサーに映し出されたとおりに翼包囲で追いかける五つの存在。
どうやら一人の方が足を怪我しているようだ。
もう一人が肩をかして、樹上よりも安定した下生えの中を走っているといったところ。
「追走するのは狼――か?」
体に霧を纏っているように見える。
「ミストウルフじゃな」
言いつつバトルアックスを両手に持って俺の背後に続く。
本当、国の中を見て回っていた時とは別物の動きだよ。
樽型の体からは想像できない跳躍力だった。
「負けてらんねえ」
心拍センサーを持ったまま幹を蹴り、二人の子供とミストウルフの間に着地。
「というか、二人ってなんだよ」
行方不明は二人だったのか?
まあ、それは後で確認するとして、
「悪いけど追い払わせてもらう」
――と、ここで残火を抜こうとする俺の体が何とも鈍い動き。
!? 何事かと思い、前方のミストウルフの力なのかと警戒している中で、
「動作が遅いですね。らしくないですよ」
と、俺に続いて着地したコクリコがお得意のファイヤーボールで狼たちを牽制。
俺と違って敏捷なコクリコの動きからするに、ミストウルフの能力ではないようだ。
「――ああ、そうか」
この心拍センサーが原因だったようだ。
ゲームと同じ使用だった模様。
敵の場所を把握できる分、先手を取れるのがこのガジェットの強味だが、デメリットとして心拍センサーから武器へのチェンジの時に動きが鈍くなるという使用がある。
それが現実でも作用したようだ。
ゲームだと索敵担当となってフレンドに指示を出せるけども、ソロだと結構な弱点になったりもする。
使いこなせればチートなんだが、使いこなせないならいい的になったりもするガジェット。
開発陣はゲームバランスをちゃんと考えている。
そもそも偵察兵なんてほぼ使用しないからガジェット知識がうろ覚えだった。
偵察兵のメイン武器がスナイパーライフルの時点で使う気にならないからな。
俺のへっぽこエイム力でスナイパーライフルなんてもん使えるわけがない。
ガジェットの欠点を忘れたまま俺一人だけで行動していたら、余計な攻撃を受けていたかもしれん。
コクリコには感謝だ。
「よし、切り替えよう」
牽制によるファイヤーボールで後退させたが、五頭のミストウルフは翼包囲を維持したまま。
肩越しに見れば、牽制してくれたコクリコに加えてギムロンが二人の子供の前に立ち、守りに入ってくれている。
ルミナングスさんがその上の枝に立ち、弓ではなく手を向けて待機。
守りはバッチリ。
ラピッドで一気に距離をつめ、残火を一振り。
「あら?」
空を切る俺の横薙ぎ。
――なるほど。流石はミストを冠するだけある。
体を霧状にすることが出来るんだな。この状態になられると物理攻撃は通用しないわけだ。
だからルミナングスさんは弓じゃなく魔法発動の姿勢で待機してたんだな。
まったく。イルマイユとの戦いの経験が活かせてないぞ俺!
「トール、中央で他より一歩後方に位置するのを狙うべきです」
「分かった」
あれが群れのリーダーということか。
「ブレイズ」
残火に轟々と炎を纏わせて狙うはリーダー。
「アォォォォン――」
狙っていた一頭が吠える。
途端に群れが霧状になって俺達の前から姿を消した。
「えっと――逃げた?」
「その様です。勇者殿の力を目にして勝てないと判断したんでしょう」
潔い撤退は本能が故か。
「大丈夫かい?」
振り返れば震える二人の子供。
見て分かるのは、肩を貸す褐色の肌の子供の方が胆力があるといったところだろう。
瞳にはしっかりと力が宿ってる。
怪我をしている方は――耳を見ればやや短い。
ハーフエルフの子供ってことか。
「二人いたんですね」
「そのようですね」
ルミナングスさんも知らなかったようだが――、
「訳知り顔ですね」
「ええ、それよりも治療を」
ハーフエルフの子供は右足から出血しているが、程度からして軽傷のようなので安堵する。
直ぐにルミナングスさんがファーストエイドにて回復。
治療を終えたところで、
「どういうことでしょうか?」
治療を終えたところで説明を求めれば、長嘆息の後に重々しく口を開くルミナングスさん。
――ウーマンヤールからの嘆願だから、てっきりダークエルフの子供だと思っていたそうだけど、実際はハーフエルフの子供を救わせたかったんだろうとのこと。
「だったら素直に子供を助けてほしいじゃなく、子供達と伝えてくれればよかったでしょうに。まるで一人と思わせるように濁す意味が分からない」
「報復を恐れたのでしょう」
――ウーマンヤールの失態によってハーフエルフの子供にもしもの事があったならば、次の日にはウーマンヤールの集落に武装したエルフ達が責任を果たせと圧力をかけてくるおそれがあると思ったのかもしれないとの事。
実際はそんなことはないのだが、僻地に追いやられたダークエルフ達の考え方は、時代が下るにつれて卑屈になってしまったそうだ。
報復を恐れるあまり、種族名ではなく子供という単語を使って濁したんだろうとルミナングスさんは推測。
そもそもが、ハーフエルフの子供が捜索対象になっていると分かっていたとしても、自分たち以外のエルフ達は捜索に出るのも面倒くさがっただろうとルミナングスさん。
これがハイエルフやエルフとなれば必死になるが、民階級――それもエルフではなくハーフエルフとなれば、ウーマンヤールとさほど変わらない対応になるようだ。
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