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エルフの国

PHASE-1029【光を呑み込む】

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 ともあれ――、

「なんで襲ったのかという質問をしてもらってもいいですか」
 意思疎通がとれるのは有り難いこと。
 ルーシャンナルさんにお願いすれば、綺麗な顔立ちからは想像できないというか、女性が見れば幻滅してしまいそうな叫び声を上げて会話が行われるという光景……。
 感謝はしてます。

 ――。

「分かりましたよ」

「ああ……どうも」
 先ほどまで叫んでいたイケメンが、柔和な笑みをこちらに向けてくるというギャップ。 
 でもギャップ萌えは発生しない。

 ――――この野生のゴブリン達の話によれば、本来は自然に自生しているキノコや木の実、果物。狩りをして小動物を獲って食べるという生活を営んでいたという。
 立ち枯れした巨木に穴を掘り、そこを家とし定住しているそうなのだが、ここ最近になって自分たちが住んでいる場所に脅威となる大型のモンスターが現れるようになり、仕方なく定住地から離れることになったそうだ。

 エルフが住まう中心の森は、昔から犯しがたい地であるというのがこの地に住まうゴブリン達の教えでもあったそうだが、定住していた場所と違い、食料の獲得が難しくなり、飢餓により追い込まれ、仕方なく襲いかかったという事だった。

 本来ならこの森の統治者といっても過言ではないエルフを襲うなんてあり得ないと、空腹が満たされれば丁寧な説明をしてくれたとルーシャンナルさん。
 お互い叫んでいるようにしか見えなかったというツッコミはするまい。

「で、ここにいるゴブリン達だけなのか?」
 俺とゲッコーさんで最初に頭を射抜かれたゴブリンを埋葬している中でベルからの質問。
 埋めて両手を合わせつつ俺もベルに続けば、まだ四十ほどがいるという。
 空腹もあって動けなくなっている者が殆どだということだった。
 だからなんだろう。ゲッコーさんが与えたレーションを全て食べることなく残している。
 でも、全くもって足りないね。
 やっぱりミズーリを出さないといけないかな。

「場所が分かるんだったら国が援助すればいいでしょ」
 車内から顔だけを出してシャルナが一言。
 人間同様にエルフも見下しているようだから、ゴブリンの為に食料を与えるってことはしないかもね。
 ルーシャンナルさんは問題ないって感じだけど、残りのエルフさん達はなんか嫌そうな感じだし。

「ふんっ!」
 嫌そうな顔を目にしてシャルナが不服げに鼻を鳴らす。
 自由が大好きなシャルナにとって、こういった隔たりが窮屈で気に入らず、国から出たのだろうか?
 だから戻りたくないって事なのかな?

「支援とか出来ませんかね? 出来ないならここらで広々とした空間のある所でも教えてくれれば」

「いえ、勇者様を煩わせるなど出来ません」
 即答のルーシャンナルさん。
 俺が発言した途端に他のエルフさん達もしっかりと首肯で返してくる。
 そこには渋々や嫌々という感情はなく、俺の為ならとばかりに、案内役の内から二人が馬の横腹を蹴り、襲歩で先へと進んでいった。
 
 ルーシャンナルさんがゴブリン達から集団がいる場所を聞けば、問題ないとこちらに伝えてくる。
 この様な暗くて深い森の中でも、目的地まで辿り着ける土地勘はしっかりある模様。
 流石はこの森の支配者であるエルフだ。

「にしても、トールが言えば二つ返事とは――ね。なんとも気に入りませんね~」
 俺の威厳にコクリコが嫉妬。
 威厳とか思っちゃう俺も大概、調子に乗ってるけども、
 しかし、なんでここまでエルフの方々は俺に親切なのか?
 こりゃエルフの美人さん達から本腰入れての接待とか受けられそうですね~。
 とんでもなく年上のお姉さん達に可愛がられたらどうしよう。

 ――――たまんねえな。

「何を期待しているかは分からんが、先に進むぞ」
 ベルも少しはここのエルフさん達のように、俺に対して優しく接してくれればいいのにな。
 一人の命を奪ってしまったが、恩の方が勝ったゴブリン達は俺達に感謝をしてくれ、そんな彼らに見送られながら森の中を更に進んで行く。
 
 陽の光が差し込まないほどの高い木々の樹齢は二千年を超えるものも多数あるそうで、ここの木々は私と同年代なんです。今は立派になってますが、地表にひょっこりと出ていた程度の時代もあったんですよ。
 と、ルーシャンナルさんのとんでもない昔話を聞かされつつ先へと進む。
 にしても、樹齢二千年と同年代ってインパクトありすぎる内容を世間話程度ですませるエルフってやっぱスゲえな。

「――――お!」
 明らかに雰囲気が変わったな。
 今までの木々は自由に生えていたけども、この辺りのは整然とした生え方をしている。
 確実に人の手が加わっているのが分かる。
 
 それに――、

「ビジョン」
 ――は、使用しているんだけども、先が見えなくなってしまったので、念のためにもう一度とばかりに声に出してみるが、やはりここから先は見えないようになっている。
 木々を取り巻くような闇により先を見通すことが出来ない。
 ゲッコーさんが運転するJLTVのライトでも先を照らすことが出来ないでいた。
 闇そのものが生物のようで、餌として光を呑み込んでいるかのようにも見える。
 
 でも不思議と不気味さはない。
 
 先を見通せない闇が眼界を占めるが、恐れなどを感じることはない。
 心身が穏やかさに包まれるような、神聖な空間にいるようだった。
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