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ミルド領・閑話
PHASE-1022【出立前】
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――――。
「んじゃ、行くかね」
「おお、行ってしまうのか……」
「出立すると言ってから元気なさすぎですよ」
「仕方なかろう……可愛い孫が……」
やめてくれる……。
言われるこっちの背中がむず痒くなってくるから。
よくもまあ憚ることなく可愛い孫とか口に出来ますね。
義理の孫だってのに、えらく可愛がられているもんだな俺。
でもって、コクリコの言いなりだったし……。
旅立つとなれば、選別としてハイポーションをコクリコに大量に与える。
コクリコは回復アイテムならばグレーターポーションがいいと望み、爺様は二つ返事だったけど、俺が却下。
甘やかしすぎ。ただでさえ出来レースで金稼いでんだから自分で買えと言ってやれば、数十本のハイポーションで我慢していた。
自腹を切るのは嫌なようだ。ハイポーションを数十本って時点でやり過ぎなんだけどな。
身内に激アマな爺様に呆れるが、周囲の近衛やスティーブンスまで寂しそうに俺を見てくる。
新しく作った公爵旗の時のテンションといい、爺様の取り巻きって、爺様と同じような感性を持っている人達なんだろうな。
まあ、皆あわせて家族ってことだろう。
「ではしばらくの間、お別れとなります」
なんでコクリコが言うのやら……。
ハイポーションだけでなく、ちゃっかりと馬車も用意してもらっているし。
馬車は、農耕馬のような立派な四肢からなる四頭立て。
コクリコがお願いすれば、可愛い孫娘と脳内で変換するのか、なんでも用意してくれる。
本当に激アマ……。
「豪気と言うより、身内贔屓の馬鹿なのだろうな」
はっきりと言えるのが凄いよな。マジョリカ。
その歯に衣着せぬ物言いを統治する領地でも発揮してもらいたいね。
もちろん領民第一主義でな。
クガ領と隣領のネアシスは、公都より南西に位置する領地という事もあり、公都内の移動は途中まで一緒という事になった。
腰に佩いた愛刀は――、
「スタイリッシュになったな」
「素直に感謝する」
「だってよ」
「気持ちよく作れたわい」
ホクホク笑顔のギムロン。
マジョリカとの戦いには参戦せず、決着後もギムロンはひたすらに公爵家の家宝である緋緋色金からなる名剣ウーヴリールと、ミスリル刀である瞬の修繕に励んでくれた。
希少鉱物からなる刀剣に触れる事が出来、尚且つその鞘と拵えを自分で手がけることが出来たことにドワーフとして大満足だったようだ。
ゴテゴテとした下品な鞘から、スマートで白を基調とした鞘となった。
ほどよく白を彩る金細工は目を引きながらも下品さは一切なく、落ち着きのある色味になっている。
ドワーフの高い技術力には感嘆する。
派手な色を使っても趣が勝るんだからな。
「んじゃ行くか」
馬車とは別に、JLTVの運転席からゲッコーさんが顔を出してそう言えば、
「次へと進むぞ」
と、ベルがチコに騎乗――騎獣した姿で発する。
その顔はギムロンとはまた違ったホクホクなモノ。
リンと顔を見合わせて互いにサムズアップ。
カイメラの地下施設以降、ベルがゴロ太を心配していたからな。
それを紛らわせる為に、リンがカイメラの地下施設で液体の中に入っていた小さなマンティコアを回収し、アンデッドとして復活させていた。
アンデッドで復活ってのもおかしな表現だが……。
だが、そのマンティコア――ベビーマンティコアの存在があったからベルの気を紛らわせることが出来た。
ゴロ太の為にベルに単独行動をされても困るからな。
リンによってベビーマンティコアことミユキは、ベルに凄く甘えるようにと刷り込まされており、効果は抜群。
帝国軍中佐の姿はそこにはなく、ただのデレデレした美人。
ベルのゴロ太に対する思いはその程度なのか? と口から出そうになったけど、殺されるのは嫌なので黙っていた。
そんなアンデッドなベビーマンティコアのミユキを抱きかかえて、チコに騎獣してご満悦なベルの周囲には、タカシ、キム、キョエのマンティコアに、オルトロスモドキ――もといシグルズというモフモフによる完璧布陣。
幸せそうで何よりである。
「春の到来まで待てばいいだろうに」
少しでもこの地にいてほしいという爺様の本音。
「悠長には過ごせませんからね。魔王軍との戦いのために更に備えないといけません」
その為にはもっと味方も増やさないといけないからな。
ミルド領では公爵である俺の指示に従ってくれる諸侯や冒険者ギルドの助力も得ることが出来たし、公爵として兵も動かせる。
後は領内で二心を抱く者が出ないように、荀攸さんや爺様に協力してもうらうけども、この辺は心配する必要もないだろう。
観艦式によるデモンストレーションでしっかりと力も見せたしな。
これ以上の力を目にしない限り、俺の留守の間にミルド領を動かしてくれる爺様の発言には従うだろう。
というか、俺が発言するよりも爺様の方が威光があるから問題なし。
「で、マジョリカは俺の私兵でもあるから、戦いとなった時は傭兵団――もとい部下達と馳せ参じてもらうぞ」
「勝者の言には従ってやる」
力こそ絶対という考えの中で動いてもらえる内は、他の領主より信頼できる。
「ヨハン。俺が呼んだらしっかりと最前線まで馳せ参じてくれ」
「勿論です。征北騎士団として私兵たちに負けぬよう、日々の修練に励みます」
「頼らせてもらうよ。それとミランド、面倒事ばかりを押しつけて申し訳ないけど、カリオネルの監視を頼むね」
「ご安心を。最近ではボードゲームに明け暮れております」
アンデッド同士、時間だけはたくさんあるからという事で、遊びに興じているそうだ。
カリオネルに対しては、悠久の牢獄的な感じの罰でもあるんだけどな。
お馬鹿の順応性の高さは大したもんだよ。
ボードゲームを楽しんではいるようだが、相手を務めるミランドが現在は全勝とのこと。
これから先もミランドは連勝街道を突き進んでいくんだろうね~。
「んじゃ、行くかね」
「おお、行ってしまうのか……」
「出立すると言ってから元気なさすぎですよ」
「仕方なかろう……可愛い孫が……」
やめてくれる……。
言われるこっちの背中がむず痒くなってくるから。
よくもまあ憚ることなく可愛い孫とか口に出来ますね。
義理の孫だってのに、えらく可愛がられているもんだな俺。
でもって、コクリコの言いなりだったし……。
旅立つとなれば、選別としてハイポーションをコクリコに大量に与える。
コクリコは回復アイテムならばグレーターポーションがいいと望み、爺様は二つ返事だったけど、俺が却下。
甘やかしすぎ。ただでさえ出来レースで金稼いでんだから自分で買えと言ってやれば、数十本のハイポーションで我慢していた。
自腹を切るのは嫌なようだ。ハイポーションを数十本って時点でやり過ぎなんだけどな。
身内に激アマな爺様に呆れるが、周囲の近衛やスティーブンスまで寂しそうに俺を見てくる。
新しく作った公爵旗の時のテンションといい、爺様の取り巻きって、爺様と同じような感性を持っている人達なんだろうな。
まあ、皆あわせて家族ってことだろう。
「ではしばらくの間、お別れとなります」
なんでコクリコが言うのやら……。
ハイポーションだけでなく、ちゃっかりと馬車も用意してもらっているし。
馬車は、農耕馬のような立派な四肢からなる四頭立て。
コクリコがお願いすれば、可愛い孫娘と脳内で変換するのか、なんでも用意してくれる。
本当に激アマ……。
「豪気と言うより、身内贔屓の馬鹿なのだろうな」
はっきりと言えるのが凄いよな。マジョリカ。
その歯に衣着せぬ物言いを統治する領地でも発揮してもらいたいね。
もちろん領民第一主義でな。
クガ領と隣領のネアシスは、公都より南西に位置する領地という事もあり、公都内の移動は途中まで一緒という事になった。
腰に佩いた愛刀は――、
「スタイリッシュになったな」
「素直に感謝する」
「だってよ」
「気持ちよく作れたわい」
ホクホク笑顔のギムロン。
マジョリカとの戦いには参戦せず、決着後もギムロンはひたすらに公爵家の家宝である緋緋色金からなる名剣ウーヴリールと、ミスリル刀である瞬の修繕に励んでくれた。
希少鉱物からなる刀剣に触れる事が出来、尚且つその鞘と拵えを自分で手がけることが出来たことにドワーフとして大満足だったようだ。
ゴテゴテとした下品な鞘から、スマートで白を基調とした鞘となった。
ほどよく白を彩る金細工は目を引きながらも下品さは一切なく、落ち着きのある色味になっている。
ドワーフの高い技術力には感嘆する。
派手な色を使っても趣が勝るんだからな。
「んじゃ行くか」
馬車とは別に、JLTVの運転席からゲッコーさんが顔を出してそう言えば、
「次へと進むぞ」
と、ベルがチコに騎乗――騎獣した姿で発する。
その顔はギムロンとはまた違ったホクホクなモノ。
リンと顔を見合わせて互いにサムズアップ。
カイメラの地下施設以降、ベルがゴロ太を心配していたからな。
それを紛らわせる為に、リンがカイメラの地下施設で液体の中に入っていた小さなマンティコアを回収し、アンデッドとして復活させていた。
アンデッドで復活ってのもおかしな表現だが……。
だが、そのマンティコア――ベビーマンティコアの存在があったからベルの気を紛らわせることが出来た。
ゴロ太の為にベルに単独行動をされても困るからな。
リンによってベビーマンティコアことミユキは、ベルに凄く甘えるようにと刷り込まされており、効果は抜群。
帝国軍中佐の姿はそこにはなく、ただのデレデレした美人。
ベルのゴロ太に対する思いはその程度なのか? と口から出そうになったけど、殺されるのは嫌なので黙っていた。
そんなアンデッドなベビーマンティコアのミユキを抱きかかえて、チコに騎獣してご満悦なベルの周囲には、タカシ、キム、キョエのマンティコアに、オルトロスモドキ――もといシグルズというモフモフによる完璧布陣。
幸せそうで何よりである。
「春の到来まで待てばいいだろうに」
少しでもこの地にいてほしいという爺様の本音。
「悠長には過ごせませんからね。魔王軍との戦いのために更に備えないといけません」
その為にはもっと味方も増やさないといけないからな。
ミルド領では公爵である俺の指示に従ってくれる諸侯や冒険者ギルドの助力も得ることが出来たし、公爵として兵も動かせる。
後は領内で二心を抱く者が出ないように、荀攸さんや爺様に協力してもうらうけども、この辺は心配する必要もないだろう。
観艦式によるデモンストレーションでしっかりと力も見せたしな。
これ以上の力を目にしない限り、俺の留守の間にミルド領を動かしてくれる爺様の発言には従うだろう。
というか、俺が発言するよりも爺様の方が威光があるから問題なし。
「で、マジョリカは俺の私兵でもあるから、戦いとなった時は傭兵団――もとい部下達と馳せ参じてもらうぞ」
「勝者の言には従ってやる」
力こそ絶対という考えの中で動いてもらえる内は、他の領主より信頼できる。
「ヨハン。俺が呼んだらしっかりと最前線まで馳せ参じてくれ」
「勿論です。征北騎士団として私兵たちに負けぬよう、日々の修練に励みます」
「頼らせてもらうよ。それとミランド、面倒事ばかりを押しつけて申し訳ないけど、カリオネルの監視を頼むね」
「ご安心を。最近ではボードゲームに明け暮れております」
アンデッド同士、時間だけはたくさんあるからという事で、遊びに興じているそうだ。
カリオネルに対しては、悠久の牢獄的な感じの罰でもあるんだけどな。
お馬鹿の順応性の高さは大したもんだよ。
ボードゲームを楽しんではいるようだが、相手を務めるミランドが現在は全勝とのこと。
これから先もミランドは連勝街道を突き進んでいくんだろうね~。
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