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ミルド領・閑話

PHASE-1009【使わない理由。使えない理由】

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 ――――――。

 ――――。

 ――。

「よう」

「なんだこれは?」

「戦いの後は徹夜明けだったからな。なのでしっかりと寝て、食事も取って、またしっかりと寝てを一週間繰り返して色々と考えた」

「だからこれはなんだ?」
 現在マジョリカと俺は屋敷の庭にて相対して立っている。
 周囲にはギャラリーあり。
 うちのパーティーとギルドメンバーに私兵。
 征北もいれば近衛もいるし当然、爺様もいる。
 でもって傭兵団もだ。

「公爵として名声を得るってとても大事なんだよね。領民からの信頼を得ることが領地の安定にも繋がるからさ」

「当然だろう。ならば我々を死罪とすべきだろうな」

「そうなんだよ。斬首は当然として、トップ連中は見せしめの晒し首ってのが通常ルートなんだと」

「当たり前だ」
 敗北者として処刑を受け入れるといった覚悟が見て取れるけども、晒し首って発言の時には、マジョリカはともかくとして、周囲の傭兵団は一斉に怒気を発していた。
 死は覚悟しているが、団長が晒し者になるというのは許せないといったところだろう。

 堪えることが出来ない怒気が罵声へと変化し、俺にバシバシと浴びせてくる。
 偽善者とか暴君――などなど。
 権力者としての立ち位置になれば言われるような常套の罵声だから、耳朶に触れる覚悟も出来ている。
 なのでそれらにはギヤマンハートの俺でも何とか耐えることが出来る。
 何とかだけどさ。
 でもさ……、クソ童貞はやめて……。

 もちろん罵声が飛べばこっちサイドも黙ってはいない。
 先日まで命のやり取りをしていた者同士が同じ庭にいるわけだから、状況は一触即発。
 この庭では傭兵団は当然のことだが、こっちサイドも武器の携帯を許可していない。
 が、武器はなくても己の体を武器とする! とばかりにファイティングポーズをとり、拳での殴り合いによる再戦の気運が高まっていた。
 
 喧々囂々な中でも騒がない者達もいる。
 俺のパーティーとギルドメンバーにS級さん達。爺様にヨハンなんかは静観しているし、傭兵団では団長補佐の二人も黙って見ている。
 
 そんな中で、

「うるさいぞ!」
 大気を震わせる大音声。
 一喝で全体を黙らせるだけの力を漲らせた人物が、のしのしとこちらに歩いてくる。

「――これはどういうことだ?」

「呼んでみた」
 マジョリカの問いに簡単に返す。
 現れたのはガリオン。
 ブルホーン山の要塞でなんとか勝利し、捕縛に成功した傭兵団の副団長。
 それに付き従うように後ろに続くのが、同じく要塞で俺が戦った、副団長補佐の断空と蛇牙の二人。
 三人の登場により静まりかえる傭兵団。
 対してこっちサイドは関係ないとばかりに再び声を上げるが、

「うるさいと言ったのだ。二度も言わせるな」
 と、ガリオンとは正反対からなる語調はベルによるもの。
 最強さんが淡々と発した声で背筋に冷たいモノでも走ったのか、一斉に視線下方四十五度凝視にて押し黙ってくれる。

「負けましたね」

「ああ、負けた。色々と聞かされもした。幼い時には優しい存在だと思っていた我が父が欲望に堕落したことなどな。全てを信じてやるわけでないが」

「でも内心では信じてたんだろ」
 二人のやり取りに俺が割って入る。
 じろりとマジョリカが睨んでくるけども、

「いやいや怖くないから。二人とも俺に負けた敗北者じゃけェ。そんな敗北者が睨んできたところで虚しいだけだぞ」

「――それで、内心で信じていたと思う根拠は何なのだ小僧?」

「マジョリカはなんで戦いの最中にベルセルクルのキノコを食べなかった? もっと言うなら抽出して効果を高めたエッセンスをなぜ使用しなかった? なぜお宅だけでなく随行していた他の連中も使用しなかった?」

「うるさい」

「使用したのは要塞戦でそこにいるガリオンに、驕り高ぶった連中だけ。ああ、ガリオンはしっかりと強敵として見てるぞ」
 一応のフォローをすれば、ふんっ! と、鼻息だけが返ってきた。

「この一週間ゆっくりと体を休めながら考えたよ。で、たどり着いた答えは、マジョリカ――お宅の前では皆して気をつかって使用しなかった。そして、お宅自身は拒絶をしている。部下の忖度とお宅が拒絶する理由は、キノコが生み出す富に溺れた父親。母親が――」

「長々と! うるさいと言っている!」
 おどりかかってくるマジョリカ。
 俺は抵抗しないまま押し倒される。

「ムキになっているところから察するに当たっているようだな。本当は自分の父親が欲に染まってしまった結果、全てを失ってしまったと理解してんだろ。でもそれを受け入れるのが怖いから、爺様やこのミルド領を恨みの対象にして誤魔化してんだよな?」

「黙れ! 黙れ、黙れっ!!」

「なんだよ。俺より年上のくせに発想が子供じゃないか」

「あぁぁぁぁぁあ!」

「反論も出来ずに大声を出して拳を振り上げる。力で無理矢理に黙らせようとする姿。本当に子供だな。だからちゃんと現実を受け入れられない」

「貴様ぁぁぁぁぁぁあ!」
 振り上げた拳。
 勢いよく俺に向かって振り下ろされるけども――、俺にまでは届かない。

「!? ガリオン! なぜ止める!!」
 ガリオンによってその拳は止められたからな。
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