1,009 / 1,668
ミルド領・閑話
PHASE-1009【使わない理由。使えない理由】
しおりを挟む
――――――。
――――。
――。
「よう」
「なんだこれは?」
「戦いの後は徹夜明けだったからな。なのでしっかりと寝て、食事も取って、またしっかりと寝てを一週間繰り返して色々と考えた」
「だからこれはなんだ?」
現在マジョリカと俺は屋敷の庭にて相対して立っている。
周囲にはギャラリーあり。
うちのパーティーとギルドメンバーに私兵。
征北もいれば近衛もいるし当然、爺様もいる。
でもって傭兵団もだ。
「公爵として名声を得るってとても大事なんだよね。領民からの信頼を得ることが領地の安定にも繋がるからさ」
「当然だろう。ならば我々を死罪とすべきだろうな」
「そうなんだよ。斬首は当然として、トップ連中は見せしめの晒し首ってのが通常ルートなんだと」
「当たり前だ」
敗北者として処刑を受け入れるといった覚悟が見て取れるけども、晒し首って発言の時には、マジョリカはともかくとして、周囲の傭兵団は一斉に怒気を発していた。
死は覚悟しているが、団長が晒し者になるというのは許せないといったところだろう。
堪えることが出来ない怒気が罵声へと変化し、俺にバシバシと浴びせてくる。
偽善者とか暴君――などなど。
権力者としての立ち位置になれば言われるような常套の罵声だから、耳朶に触れる覚悟も出来ている。
なのでそれらにはギヤマンハートの俺でも何とか耐えることが出来る。
何とかだけどさ。
でもさ……、クソ童貞はやめて……。
もちろん罵声が飛べばこっちサイドも黙ってはいない。
先日まで命のやり取りをしていた者同士が同じ庭にいるわけだから、状況は一触即発。
この庭では傭兵団は当然のことだが、こっちサイドも武器の携帯を許可していない。
が、武器はなくても己の体を武器とする! とばかりにファイティングポーズをとり、拳での殴り合いによる再戦の気運が高まっていた。
喧々囂々な中でも騒がない者達もいる。
俺のパーティーとギルドメンバーにS級さん達。爺様にヨハンなんかは静観しているし、傭兵団では団長補佐の二人も黙って見ている。
そんな中で、
「うるさいぞ!」
大気を震わせる大音声。
一喝で全体を黙らせるだけの力を漲らせた人物が、のしのしとこちらに歩いてくる。
「――これはどういうことだ?」
「呼んでみた」
マジョリカの問いに簡単に返す。
現れたのはガリオン。
ブルホーン山の要塞でなんとか勝利し、捕縛に成功した傭兵団の副団長。
それに付き従うように後ろに続くのが、同じく要塞で俺が戦った、副団長補佐の断空と蛇牙の二人。
三人の登場により静まりかえる傭兵団。
対してこっちサイドは関係ないとばかりに再び声を上げるが、
「うるさいと言ったのだ。二度も言わせるな」
と、ガリオンとは正反対からなる語調はベルによるもの。
最強さんが淡々と発した声で背筋に冷たいモノでも走ったのか、一斉に視線下方四十五度凝視にて押し黙ってくれる。
「負けましたね」
「ああ、負けた。色々と聞かされもした。幼い時には優しい存在だと思っていた我が父が欲望に堕落したことなどな。全てを信じてやるわけでないが」
「でも内心では信じてたんだろ」
二人のやり取りに俺が割って入る。
じろりとマジョリカが睨んでくるけども、
「いやいや怖くないから。二人とも俺に負けた敗北者じゃけェ。そんな敗北者が睨んできたところで虚しいだけだぞ」
「――それで、内心で信じていたと思う根拠は何なのだ小僧?」
「マジョリカはなんで戦いの最中にベルセルクルのキノコを食べなかった? もっと言うなら抽出して効果を高めたエッセンスをなぜ使用しなかった? なぜお宅だけでなく随行していた他の連中も使用しなかった?」
「うるさい」
「使用したのは要塞戦でそこにいるガリオンに、驕り高ぶった連中だけ。ああ、ガリオンはしっかりと強敵として見てるぞ」
一応のフォローをすれば、ふんっ! と、鼻息だけが返ってきた。
「この一週間ゆっくりと体を休めながら考えたよ。で、たどり着いた答えは、マジョリカ――お宅の前では皆して気をつかって使用しなかった。そして、お宅自身は拒絶をしている。部下の忖度とお宅が拒絶する理由は、キノコが生み出す富に溺れた父親。母親が――」
「長々と! うるさいと言っている!」
おどりかかってくるマジョリカ。
俺は抵抗しないまま押し倒される。
「ムキになっているところから察するに当たっているようだな。本当は自分の父親が欲に染まってしまった結果、全てを失ってしまったと理解してんだろ。でもそれを受け入れるのが怖いから、爺様やこのミルド領を恨みの対象にして誤魔化してんだよな?」
「黙れ! 黙れ、黙れっ!!」
「なんだよ。俺より年上のくせに発想が子供じゃないか」
「あぁぁぁぁぁあ!」
「反論も出来ずに大声を出して拳を振り上げる。力で無理矢理に黙らせようとする姿。本当に子供だな。だからちゃんと現実を受け入れられない」
「貴様ぁぁぁぁぁぁあ!」
振り上げた拳。
勢いよく俺に向かって振り下ろされるけども――、俺にまでは届かない。
「!? ガリオン! なぜ止める!!」
ガリオンによってその拳は止められたからな。
――――。
――。
「よう」
「なんだこれは?」
「戦いの後は徹夜明けだったからな。なのでしっかりと寝て、食事も取って、またしっかりと寝てを一週間繰り返して色々と考えた」
「だからこれはなんだ?」
現在マジョリカと俺は屋敷の庭にて相対して立っている。
周囲にはギャラリーあり。
うちのパーティーとギルドメンバーに私兵。
征北もいれば近衛もいるし当然、爺様もいる。
でもって傭兵団もだ。
「公爵として名声を得るってとても大事なんだよね。領民からの信頼を得ることが領地の安定にも繋がるからさ」
「当然だろう。ならば我々を死罪とすべきだろうな」
「そうなんだよ。斬首は当然として、トップ連中は見せしめの晒し首ってのが通常ルートなんだと」
「当たり前だ」
敗北者として処刑を受け入れるといった覚悟が見て取れるけども、晒し首って発言の時には、マジョリカはともかくとして、周囲の傭兵団は一斉に怒気を発していた。
死は覚悟しているが、団長が晒し者になるというのは許せないといったところだろう。
堪えることが出来ない怒気が罵声へと変化し、俺にバシバシと浴びせてくる。
偽善者とか暴君――などなど。
権力者としての立ち位置になれば言われるような常套の罵声だから、耳朶に触れる覚悟も出来ている。
なのでそれらにはギヤマンハートの俺でも何とか耐えることが出来る。
何とかだけどさ。
でもさ……、クソ童貞はやめて……。
もちろん罵声が飛べばこっちサイドも黙ってはいない。
先日まで命のやり取りをしていた者同士が同じ庭にいるわけだから、状況は一触即発。
この庭では傭兵団は当然のことだが、こっちサイドも武器の携帯を許可していない。
が、武器はなくても己の体を武器とする! とばかりにファイティングポーズをとり、拳での殴り合いによる再戦の気運が高まっていた。
喧々囂々な中でも騒がない者達もいる。
俺のパーティーとギルドメンバーにS級さん達。爺様にヨハンなんかは静観しているし、傭兵団では団長補佐の二人も黙って見ている。
そんな中で、
「うるさいぞ!」
大気を震わせる大音声。
一喝で全体を黙らせるだけの力を漲らせた人物が、のしのしとこちらに歩いてくる。
「――これはどういうことだ?」
「呼んでみた」
マジョリカの問いに簡単に返す。
現れたのはガリオン。
ブルホーン山の要塞でなんとか勝利し、捕縛に成功した傭兵団の副団長。
それに付き従うように後ろに続くのが、同じく要塞で俺が戦った、副団長補佐の断空と蛇牙の二人。
三人の登場により静まりかえる傭兵団。
対してこっちサイドは関係ないとばかりに再び声を上げるが、
「うるさいと言ったのだ。二度も言わせるな」
と、ガリオンとは正反対からなる語調はベルによるもの。
最強さんが淡々と発した声で背筋に冷たいモノでも走ったのか、一斉に視線下方四十五度凝視にて押し黙ってくれる。
「負けましたね」
「ああ、負けた。色々と聞かされもした。幼い時には優しい存在だと思っていた我が父が欲望に堕落したことなどな。全てを信じてやるわけでないが」
「でも内心では信じてたんだろ」
二人のやり取りに俺が割って入る。
じろりとマジョリカが睨んでくるけども、
「いやいや怖くないから。二人とも俺に負けた敗北者じゃけェ。そんな敗北者が睨んできたところで虚しいだけだぞ」
「――それで、内心で信じていたと思う根拠は何なのだ小僧?」
「マジョリカはなんで戦いの最中にベルセルクルのキノコを食べなかった? もっと言うなら抽出して効果を高めたエッセンスをなぜ使用しなかった? なぜお宅だけでなく随行していた他の連中も使用しなかった?」
「うるさい」
「使用したのは要塞戦でそこにいるガリオンに、驕り高ぶった連中だけ。ああ、ガリオンはしっかりと強敵として見てるぞ」
一応のフォローをすれば、ふんっ! と、鼻息だけが返ってきた。
「この一週間ゆっくりと体を休めながら考えたよ。で、たどり着いた答えは、マジョリカ――お宅の前では皆して気をつかって使用しなかった。そして、お宅自身は拒絶をしている。部下の忖度とお宅が拒絶する理由は、キノコが生み出す富に溺れた父親。母親が――」
「長々と! うるさいと言っている!」
おどりかかってくるマジョリカ。
俺は抵抗しないまま押し倒される。
「ムキになっているところから察するに当たっているようだな。本当は自分の父親が欲に染まってしまった結果、全てを失ってしまったと理解してんだろ。でもそれを受け入れるのが怖いから、爺様やこのミルド領を恨みの対象にして誤魔化してんだよな?」
「黙れ! 黙れ、黙れっ!!」
「なんだよ。俺より年上のくせに発想が子供じゃないか」
「あぁぁぁぁぁあ!」
「反論も出来ずに大声を出して拳を振り上げる。力で無理矢理に黙らせようとする姿。本当に子供だな。だからちゃんと現実を受け入れられない」
「貴様ぁぁぁぁぁぁあ!」
振り上げた拳。
勢いよく俺に向かって振り下ろされるけども――、俺にまでは届かない。
「!? ガリオン! なぜ止める!!」
ガリオンによってその拳は止められたからな。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる