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ミルド領

PHASE-1005【昔話】

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「悔やまれます」

「主殿、戦いとはそういうものです。主殿はこのミルド領の支配者。支配者たるもの兵達の死に対し、悲しくは思ってやっても悔やんではいけません。戦う者には死が訪れます。それは戦いの中では必然なのです。それを分かった上で戦いを行うのですから、悔やむ事などあってはなりません。兵士一人一人の為に悔やむ支配者などおりません。いてはなりません。それは慈愛ではなく愚鈍というものです」

「はい……」
 喋々と荀攸さんが語るのも珍しい。
 普段は温厚な人物だが、こと戦いとなれば芯の強い姿を目にすることが出来る人物であるのは、ゲーム内の人物紹介のテキストにも記載されている。
 慈愛ではなく愚鈍か。
 確かに一人一人の死を悔やみ、次の戦いでは絶対に死傷者を出さないような戦い方をしよう――なんて考えるトップは愚鈍というアホな存在だよな。

 勿論、犠牲者を少なくする戦い方は大事だけども、一人も死傷者を出さないとかいう思考は現実逃避の夢想もいいところ。
 そんなことを現実で実行すれば、ただ守勢に回って何もせずに削り取られて全滅ルート。
 慈愛ではなく愚鈍。
 甘ちゃんの俺には刺さる言葉だよ。
 
 戦となれば多くの死傷者が必ず出るってのはカリオネルとの戦いでも分かっているし、一方的な殺戮になった射撃命令だって実行している。
 実行した事を悔やんでしまったら、実行のために動いてくれたS級さん達に対する裏切りでもある。

「犠牲になった者達は、この世界の礎となってくれたのです」

「そう思い、感謝をし、死者の様々な思いを背負いながら次に進む。死を悲しんでも悔やんではいけない――ということでしょうか」

「その通りです。そもそも今回の戦いにおける責任は、相手の力量を見誤った私にあります」
 聞いていた話とは違い、実力ある者達による編制だったということで判断を誤ってしまったと猛省。
 敷地内に誘い込む事に簡単に成功していたから、余計に相手の力量を見誤ったそうだ。
 でもそれは見誤っても仕方ない。
 実際に愚連隊レベルの連中が幅を利かせていたからな。
 こっちは監視班がいたとはいえ、あれだけ統率の取れた連中だとは対面するまで誰も分かっていなかっただろうさ。
 ピンキリを目にした俺達が一番、驚いていたからな。

「彼の者達をこのままにするのは惜しいかと」

「まあ、その考えになりますよね」
 五百の数で六倍のこちらと良い勝負をしたんだからな。
 数に対して臆することなく勇猛に戦える存在というのは貴重だ。
 マジックカーブの使い方も自己満足に留まらず、しっかりと自分の強化に繋げているだけの人材達だった。
 プロテクションによる障壁からなる要塞も見事だったしな。

「ですけど、味方になりますかね?」

「主殿は味方にする事には抵抗はないのですね」

「なってもらえるならさっきまで戦っていた相手であろうとも受け入れますよ。清濁併せ呑むスタイルなんで」

「寛容ですな」

「そうならないと、強大な脅威には立ち向かえませんからね」

「すんなりと受け入れると言えるところは大器であり、この公達、頭が下がります」

「有り難うございます」
 荀氏の才人に頭を下げてもらえるなんて名誉だよ。

「ただ……。ふむん……」
 大きく声を漏らしてしまう。

「そう簡単にこちらへと組み入れるのは難しいでしょうな。そもそも頭目や幹部などは斬首が妥当です」
 刑を執行すれば、俺達は恨みの対象。
 有能な者達は俺達に従うことは絶対にないだろう。

「こちら側についてくれってのは、現状では難しいでしょうね……」

「然り」
 味方にする条件となると、間違いなく団長達に対する恩赦を嘆願してくるだろうな。
 
 ――嘆願の対象となるマジョリカとはちょっと前まで応接間で話し合っていた。
 敗北をすんなりと受け入れる辺り、話し合えばお互いに歩み寄れる存在だというのは分かったんだけども。
 どうしても爺様との確執がそれを妨げてしまっている。
 
 まあ、それは仕方ないことだけどね。
 
 戦いも終わって、少しは冷静になったマジョリカ。
 だからこそ爺様を睨みながらも話を聞く姿勢までにはなったが、発せられた内容の全てが真実であるとは限らないと懐疑的だった。
 というか、受け入れるつもりもなかったようだ。
 
 受け入れなかった話というのは、今から遡ること二十年ほど前の話。

 ――――エドゥルド・アルマンド・ドルカネス伯爵。
 つまりはマジョリカの父親に関する話。
 
 話の内容は、隣領であるネアシス領領主であるロブレス伯爵とは懇意な間柄であったにもかかわらず、突如としてその関係が終わりを迎えることになった経緯。
 
 事の起こりとなったのは、ネアシス領の隣領であるクガ領――つまりはドルカネス伯爵が領主を務める領地にて発見されたある素材。

 その素材とは――ベルセルクルのキノコ。
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