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ミルド領
PHASE-1004【だから美少女は吐くな】
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「主殿には今後の流れ見ていただき、最終的な判断をお任せします」
ここからは話し合い。
荀攸さんの活躍の場である。
爺様とマジョリカだけの話し合いだと埒が明かないだろうからね。
「では荀攸さんに場のまとめ役をお願いします。後、ヨハン」
「ハッ!」
「双方の負傷者に治療を頼むよ。ラルゴ達もヨハン達を手伝ってくれ」
「おお、任せといてくれ!」
手には槍から既にポーションに持ち替えていたラルゴ達は即応。
戦いの場では一般兵よりちょっと強い程度だけど、この対応の早さは今後の戦場にて、臨機応変さとして活かされる事だろう。
「それから傭兵団の面々、抵抗はしないように。これ以上の流血は避けたいからな。団長たちの立場を悪くしないためにも、こちら側の指示に従ってもらう」
団長たちの立場って言葉を使用するだけで、傭兵たちは力なく首を縦に振って返してくれた。
本当に結束力のある傭兵団だ。
復讐とかを考えずに活動できていたら、今ごろ大陸に良い意味で名を広げていた傭兵たちだっただろうな。
――――そういえばコイツ等、揃ってベルセルクルのキノコを使用しなかったな。
使っていれば、こっちにはもっと大きな被害が出ていただろう。
「なんにせよ。これで傭兵団との戦いは終わったということですね」
「ご苦労だったなコクリコ」
拳骨の痛みからは解放された様子。
「いえいえ。まあ、中々に出来る相手ではありましたよ。ま、それでも我らの敵ではなかったですが。しかし心配しましたよ。まさかの勇者が死にかけるんですからね。私よりもシャルナとマイヤはトールの掩護を担当するべきでしたね」
得意げに無い胸を反らすコクリコの後ろでは、シャルナとマイヤが苦笑。
得意げとは裏腹に、結構なフォローがあったんだろうな。
前髪でシェザールの表情は見えていないが、コクリコの発言に納得がいっていないのは分かる。
それでも、負けは負けだと小声にて自分に言い聞かせていた。
その小声をしっかりと耳にするコクリコは、素晴らしい負け惜しみで! と、哄笑による死体撃ちをきっちりと決めてくる。
屈伸も加えれば完璧な煽りキッズのお手本だったな。
コクリコの見下した哄笑が戦いを終えるビューグルとなれば良かったんだけども……、
「う!? うぅぷ…………オロロロロロロ――――」
「ひぃ!? 吐くな! 俺の側で吐くんじゃねえ!」
まただよ。コイツまたやらかしやがった……。
美少女としてはあってはならない嘔吐をまたも炸裂させやがった……。
以前もこの光景を目にしたけども、今回はアリーナ席で見る事になってしまった……。
思わずもらいゲロをしそうになったところで、
「キュ!」
直ぐさま俺とコクリコの間にゴロ丸が大きな手を出し遮ってくれる。
美少女の残念なところを見続けずにすんだ。
「Nice boat.」
拇指を立ててのサムズアップで、ゴロ丸に最高の賛辞を呈する。
「だからあれほど夕食は取り過ぎないようにと言ったのですがね~」
呆れ口調の荀攸さん。
言ったところで聞かないのがコクリコ。
メイドさんに対して高圧的な態度で食事の準備をさせてたもんな~。
しこたま食って、アホみたいに大立ち回りをやってりゃ、そら吐くわな……。
運が良かったのは、戦いの最中に吐かなかった事だろうさ……。
「締まらねえ勝ちだ」
「こんな連中に負けたのか……」
「言わないでくれる。試合に勝って勝負に負けたみたいな感じになっちゃうから……」
俺たちの事を半眼で見てくるマジョリカに、勝者側として堂々と立ち振る舞えないねっていうね……。
自裁から怒り、そして呆れ。
目まぐるしく変わる感情によって、マジョリカから自裁という考えが薄れたから良かった。と、勝手に自己完結させる俺。
――――。
「ふぃ~」
うん……。眠たい……。
一回、死にかけたってのも大きいな。
死を背負い、張り詰めた中での戦いが終われば、一気に緊張の糸が切れたようで、弛緩した体は睡眠を欲している。
コクリコは吐いてから直ぐに寝室に戻ったから、そのまま爆睡なんだろうが、俺はそうはいかない。
「朝日が目に染みる」
激闘からの徹夜明け。
心身共に疲弊している中で、目に入ってくる燦然とした朝日の輝きに目がチカチカとする。
軽く目頭を指でほぐしながら、現在は執務室で羊皮紙に目を通す。
「俺だけが大変なわけじゃないからな。文句は言えない」
俺達がマジョリカたちと応接室で話し合いをしていた時から今現在も、ヨハンやラルゴ達が治療や後処理に励んでくれている。
「死者は双方で238人か……」
「双方の兵力、合わせて約三千五百からなる戦い。早期決着ということもあり、犠牲は少なかったと思われます」
犠牲者数を口にしたところで、側に立つ荀攸さんが口を開く。
少なかったと言いつつも、声音にはうら悲しさがあった。
自分の想像の範囲内――ではなかった被害だったということだろう。
分からないではない。
「こちらの死者は72人。死者数の約三割がこちら側ですからね」
彼我の差は一対六。
しかもフル装備の伏兵による包囲戦であったのに、三割の死者がこちら側ってのが信じられなかったし、信じたくなかった。
征北も近衛も決して弱くない。
練度の高い者達からなる精兵だったというのにな。
数と装備の質。戦術的な観点で見ても圧倒的に有利だった。
それこそ蹂躙という言葉が似合うような決着だと思ったが、結果は三割の精兵が死を迎えてしまった。
ここからは話し合い。
荀攸さんの活躍の場である。
爺様とマジョリカだけの話し合いだと埒が明かないだろうからね。
「では荀攸さんに場のまとめ役をお願いします。後、ヨハン」
「ハッ!」
「双方の負傷者に治療を頼むよ。ラルゴ達もヨハン達を手伝ってくれ」
「おお、任せといてくれ!」
手には槍から既にポーションに持ち替えていたラルゴ達は即応。
戦いの場では一般兵よりちょっと強い程度だけど、この対応の早さは今後の戦場にて、臨機応変さとして活かされる事だろう。
「それから傭兵団の面々、抵抗はしないように。これ以上の流血は避けたいからな。団長たちの立場を悪くしないためにも、こちら側の指示に従ってもらう」
団長たちの立場って言葉を使用するだけで、傭兵たちは力なく首を縦に振って返してくれた。
本当に結束力のある傭兵団だ。
復讐とかを考えずに活動できていたら、今ごろ大陸に良い意味で名を広げていた傭兵たちだっただろうな。
――――そういえばコイツ等、揃ってベルセルクルのキノコを使用しなかったな。
使っていれば、こっちにはもっと大きな被害が出ていただろう。
「なんにせよ。これで傭兵団との戦いは終わったということですね」
「ご苦労だったなコクリコ」
拳骨の痛みからは解放された様子。
「いえいえ。まあ、中々に出来る相手ではありましたよ。ま、それでも我らの敵ではなかったですが。しかし心配しましたよ。まさかの勇者が死にかけるんですからね。私よりもシャルナとマイヤはトールの掩護を担当するべきでしたね」
得意げに無い胸を反らすコクリコの後ろでは、シャルナとマイヤが苦笑。
得意げとは裏腹に、結構なフォローがあったんだろうな。
前髪でシェザールの表情は見えていないが、コクリコの発言に納得がいっていないのは分かる。
それでも、負けは負けだと小声にて自分に言い聞かせていた。
その小声をしっかりと耳にするコクリコは、素晴らしい負け惜しみで! と、哄笑による死体撃ちをきっちりと決めてくる。
屈伸も加えれば完璧な煽りキッズのお手本だったな。
コクリコの見下した哄笑が戦いを終えるビューグルとなれば良かったんだけども……、
「う!? うぅぷ…………オロロロロロロ――――」
「ひぃ!? 吐くな! 俺の側で吐くんじゃねえ!」
まただよ。コイツまたやらかしやがった……。
美少女としてはあってはならない嘔吐をまたも炸裂させやがった……。
以前もこの光景を目にしたけども、今回はアリーナ席で見る事になってしまった……。
思わずもらいゲロをしそうになったところで、
「キュ!」
直ぐさま俺とコクリコの間にゴロ丸が大きな手を出し遮ってくれる。
美少女の残念なところを見続けずにすんだ。
「Nice boat.」
拇指を立ててのサムズアップで、ゴロ丸に最高の賛辞を呈する。
「だからあれほど夕食は取り過ぎないようにと言ったのですがね~」
呆れ口調の荀攸さん。
言ったところで聞かないのがコクリコ。
メイドさんに対して高圧的な態度で食事の準備をさせてたもんな~。
しこたま食って、アホみたいに大立ち回りをやってりゃ、そら吐くわな……。
運が良かったのは、戦いの最中に吐かなかった事だろうさ……。
「締まらねえ勝ちだ」
「こんな連中に負けたのか……」
「言わないでくれる。試合に勝って勝負に負けたみたいな感じになっちゃうから……」
俺たちの事を半眼で見てくるマジョリカに、勝者側として堂々と立ち振る舞えないねっていうね……。
自裁から怒り、そして呆れ。
目まぐるしく変わる感情によって、マジョリカから自裁という考えが薄れたから良かった。と、勝手に自己完結させる俺。
――――。
「ふぃ~」
うん……。眠たい……。
一回、死にかけたってのも大きいな。
死を背負い、張り詰めた中での戦いが終われば、一気に緊張の糸が切れたようで、弛緩した体は睡眠を欲している。
コクリコは吐いてから直ぐに寝室に戻ったから、そのまま爆睡なんだろうが、俺はそうはいかない。
「朝日が目に染みる」
激闘からの徹夜明け。
心身共に疲弊している中で、目に入ってくる燦然とした朝日の輝きに目がチカチカとする。
軽く目頭を指でほぐしながら、現在は執務室で羊皮紙に目を通す。
「俺だけが大変なわけじゃないからな。文句は言えない」
俺達がマジョリカたちと応接室で話し合いをしていた時から今現在も、ヨハンやラルゴ達が治療や後処理に励んでくれている。
「死者は双方で238人か……」
「双方の兵力、合わせて約三千五百からなる戦い。早期決着ということもあり、犠牲は少なかったと思われます」
犠牲者数を口にしたところで、側に立つ荀攸さんが口を開く。
少なかったと言いつつも、声音にはうら悲しさがあった。
自分の想像の範囲内――ではなかった被害だったということだろう。
分からないではない。
「こちらの死者は72人。死者数の約三割がこちら側ですからね」
彼我の差は一対六。
しかもフル装備の伏兵による包囲戦であったのに、三割の死者がこちら側ってのが信じられなかったし、信じたくなかった。
征北も近衛も決して弱くない。
練度の高い者達からなる精兵だったというのにな。
数と装備の質。戦術的な観点で見ても圧倒的に有利だった。
それこそ蹂躙という言葉が似合うような決着だと思ったが、結果は三割の精兵が死を迎えてしまった。
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