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ミルド領

PHASE-983【そ~ラ~イジングサン】

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「さあ行ってこい」

「了解」
 ゲッコーさんが背中を優しく押してくる。
 素直に従おう。
 だからこそ弱々しい返事は口から出さなかった。
 まあ、強い口調でもなかったけど。
 変哲もない普通の返事。
 
 俺自身も強くならないといけないのは分かっているから、ゲッコーさんやベルの考えに乗ってやるんだよ。
 
 さて、ガリオンよりも強いと思われる鉄仮面。
 俺の経験値アップには最高の相手だ。
 
 先に駆け出すコクリコに俺も続く。
 後衛が先駆ける姿には毎度のこと溜め息が出るが、反面、その姿を目にする俺にとって士気向上に繋がるのも事実。

「大将に続け!」
 新たな装備で身を包んだラルゴの腹から出ている声が後方から聞こえれば、それを追うように私兵たちが鬨の声を上げる。
 最初に言った指示通り、後衛での掩護だけに徹して無茶はしてほしくないところ。
 無茶をさせないためには、俺個人が励めばいいだけのこと!

「シェザール。獅子となったお前の真の力を見せてやれ」

「御意!」
 走り出した俺達の正面では、鉄仮面のくぐもった声に自信を漲らせて応じるシェザールの姿。
 鉄仮面の前に立ち、自慢のスタッフを地面に突き刺すと、両手両足を大仰に広げて大の字を書き、長い髪からしっかりと顔を覗かせる。
 頬は痩せこけて不気味なイメージの男かと思ったが、顔全体を晒すと意外とイケメンだった。

「東雲、朱色に染めるは勝者の刻印――」

「詠唱とか大魔法なんじゃないのか!?」
 人様の屋敷の直ぐ側で何を唱えようとしている!
 俺だって大魔法は一つ使用できるけど、こんなところで使用したら屋敷もだが、それ以上にこっちの兵達にも被害が出るから使用しないってのに!

「トール!」

「大将!」
 コクリコだけでなく、ラルゴも理解したようだな。

「任せろ!」
 短く返してから即アクセルを発動。
 一気に距離をつめて極界の二つ名を持つシェザールを狙う。

「無駄だ!」
 の一言で俺の残火による横一文字は防がれる。
 鉄仮面が前面に出て、籠手部分で俺の残火の刃をしっかりと受け止めた。

「魔法付与か」

「そうだ」
 これまた一言。
 次には左腕に衝撃が走る。

「防ぐか」

「お宅と一緒」
 右足による蹴撃を打ち込まれたけど、こちらも籠手でしっかりと防ぐ。
 感想としては、ベルに近い一撃だった。
 衝撃貫通スキル持ちなのかと言いたくなる。
 籠手でしっかりと受けたが、前腕の筋肉を通り越して、骨まで響いてくる一撃だった。
 蹴撃だけで分かる鉄仮面の強さ。この実力が部下達の信頼に繋がっているんだろう。

「――灼熱進上せし者は覇者となり、刻まれし者は敗者とならん。黄泉路への通手形となりし烙印押す者、その名は今生の暁光なり――――ライジングサン!」
 信頼に繋がっているからこそ、攻撃を防ぎ防がれる光景が自分の眼前で起こったとしても、ぶれることなく詠唱を続けるだけの集中力と胆力も生まれるんだろうな。

「にしても、名前からして強そうだな」
 大魔法なんだから当たり前なんだけどさ。

「当然だ。お前の後方にいる者たちは全員もれなく炭となる」
 口角を不気味に吊り上げて自信満々に返してくる、やせ形のざんねんイケメン。
 
 満点の星空には似つかわしくない、シェザールの自信が具現化されたような赫々とした輝きからなる巨大な球体が顕現すれば、ゆっくりとした速度で地面へと迫ってくる。

「熱いですね」
 足を止めて見上げていれば、後方からコクリコが北国だというのに汗を流していた。
 俺は火龍装備だから寒さだけでなく、炎系による熱を感じる事もないんだけども、皆の足が止まるほどに強力な熱が生まれているようだった。
 周囲を見れば、積もっていた雪が一斉にとけだし水となり、更にそこから湯気が上がる。

「ふっ!」

「でぇ!?」

「随分と余裕だな」

「防ぐくらいの余裕はあるからな」
 強気で返すも、内心はヒヤヒヤ。
 周囲を見ている状況を見逃してやるほど鉄仮面は甘くない。
 一気に間合いをつめてくれば、強烈な斬撃。
 危うく頭が斬り落とされるところだった。

 ギリギリ籠手で防いだが、蹴り同様に斬撃の一撃も衝撃貫通といった鈍い痛みが骨まで伝わってくる。
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