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ミルド領

PHASE-973【コイツ等ね】

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「ええっと……防御壁の前までですか?」
 こっちサイドがガバガバすぎるから、質問は呆れ口調になっていた。
 だがいくらガバガバとはいえ、流石に屋敷を囲む防御壁までは突破できないだろう。

 他の防御壁と違って、屋敷を囲う防御壁の内側には公爵家やそれに従事する者たちしか入る事ができないからね。

「残念ながら言葉通りです」
 オウ、イエー……。
 てことはなにか? 公都の六重の防御壁を突破してこの屋敷がある敷地内まで五百の敵兵が足を踏み入れてるって事か……。

「迎撃は?」
 そこは荀攸さん。ここに伝えに来ている時点で準備は万端のはずだ。何たって荀一族だからね。
 俺が自室から出る間に終わったり……、

「大半の兵達に休日を与えましたので、現状、敵襲に対して備えは整っておりません」

「いやいや! だとしても最低限の数は残っているでしょう」
 全員が全員、休んでいるわけではないですからね。

「なぜだか分かりませんが、敵側はこちらの秘密通路を知っておりまして、そこから中庭までの潜入に成功したという事です」

「秘密通路?」
 荀攸さんに答えを求めれば、流石は貴族様の屋敷。
 屋敷の地下やら中庭から外に繋がる秘密の脱出路がしっかりと存在するという事だ。
 俺は今の今までそんな存在は聞かされていなかったけどな! 

「でもですよ。その脱出路から進入してきたというのを確認しているって事は、こちらの監視はしっかりと機能しているんですよね?」

「はい。S級の方々がしっかりと監視をしておりますので、そこに関しては万事抜かりはありません」
 それを聞いて安堵だよ。
 兵達が休暇なんかで対応が遅れているとしても、S級さんが監視しているなら後はそこで撃退してくれれば終わりだ。
 ――の、はずなのに、なぜ監視だけをして武力制圧に打って出ないのか。

「さあ準備を」

「あ、はい……」
 この流れから分かることは、撃退しない最たる理由は、俺にこの敵襲を解決させるってことなんだろな……。
 だから荀攸さんは火龍装備のままで過ごしてくれって言ったんだろう。
 この敵襲、屋敷の敷地内まで侵攻してくるところまで織り込み済みって事なんだろうね。
 知らなかったのは俺だけってか?
 ま、乗ってやりましょうかね。どのみち乗らないといけないルートに入っているんだろうし。

「――――お、皆そろってるね」
 屋敷から外へと出ればパーティー全員がそろい踏み。

「愚かな連中ですよ。たった五百程度で我々に戦いを挑むのですから」
 大人数を相手に無双してやると、白息を吐きつつ意気込むコクリコさん。
 俺としては話し合いで解決したいところなんだけどな。
 が、俺を含め全員がしっかりと戦う装備。
 やはり力で解決する案件のようだな。

「ふぃ~」
 今夜は満月。
 冬の夜空の星々は、黒い紙に真砂をまいたような美しさ。
 それでも満月の輝きにはおよばない。

「灯りは不要とばかりの夜空ですね」
 荀攸さんも俺達と同じ場にて指揮をするのか、ここで敵襲を迎え撃つつもりのようだ。
 爺様もスティーブンスに護衛されながらわざわざ屋敷の外まで出てきている。
 荀攸さん同様に、この敵襲を事前に知っていたような感じだな。
 パーティーを見渡す。
 ――……うん……。良かったよ、俺一人じゃなくて。

「何です? ジロジロと見て」

「ナカーマ」
 発言と共に【(・∀・)人(・∀・)この】絵文字が頭に浮かんだよ。
 俺とコクリコだけが敵襲を知らされていなかったようだな。
 こういう時、いつもコクリコとは仲間になる。

「――はい、分かりました」
 横に立つ荀攸さんが耳を押さえつつ口を開く。
 どうやらワイヤレスイヤホンを通じて、S級さん辺りと状況のやり取りをしているようだ。

「主殿――」

「来るって事ですね」

「はい」
 さてさて、敵とは一体どこの誰なのやら。
 まあ、予想は出来るけどさ。

「来ましたよ!」
 誰よりも前に立つコクリコが構えて見据える先には、黒い塊となって乱れることなくこちらに走ってくる集団。
 月に照らされる集団の姿は黒い毛皮からなるマントを羽織った連中。

「やはり愚連隊か」

「しらけますね~」
 最前線に立つコクリコの肩が弛緩する。
 侵入してきた相手がコイツ等となると弛緩も仕方ないか。

 中には強いのもいるけど、殆どが手応えのない連中だからな。
 本気で脅威と感じたのは副団長のガリオンくらいだった。
 副団長――つまりは傭兵団の№2。それ以上の脅威となれば団長しかいないだろう。
 それ以外は取るに足らないのがこの傭兵団だ。
  
 戦いとなれば、最大の敵は己に宿る慢心になるだろう。
 油断怠りなく、全力で討伐させてもらう。
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