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ミルド領

PHASE-955【お久しぶりの黒】

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「よくもまあ、こんなにも多くのゴブリンをこの都市に連れ込んだものね」
 リンが冷やかすように言えば、この都市の責任者であるアビゲイルさんは顔を伏せる。
 責任者として、都市内でこういった状況が発生していたことを恥じていた。
 とはいえ、半年前といえばカリオネルが幅を利かせていたころだ。
 この都市でも好き勝手やってたんだろう。
 
 特別な力を得ることが出来るとなれば、あいつはカイメラの内情を知ろうともせず、実験を自由にやらせていたんだろうな。
 カリオネルの我が儘な性格に加えて、取り巻きの傭兵たちも大きな顔でのさばっていたんだろうし。 
 意見をすることも難しい状況だったのは想像に難くない。
 
 当のアビゲイルさんは――私がしっかりと問いただしていれば……。などと独白しつつ落ち込んでいる。
 責任者としてなにも出来なかった事がこのような暴挙を許したと、罪悪感を抱いている。

「悔やむのは後でも出来るでしょう。今は出来る事に力を注ぐべきです」
 ベルの発言にアビゲイルさんは伏せていた顔を上げる。

「そう……ですね!」
 何とも回復が早い。
 都市の代表ともなれば立ち直りも早いようだ。
 後悔ばかりしていても、都市の住人たちの安全は確保できない。
 後悔よりも人々の将来を優先。この立ち直りの早さ、責任者として身につけないとな。
 ミルド領の領主として、アビゲイルさんの切り替えの早さは手本にしなければならない。

「先へと進みましょう」
 と、本当に別人とばかりにアビゲイルさんが強い瞳で前へと進み出す。

「後衛に先頭を歩ませるわけにはいきません」
 なんて言いつつ、ゴブリンゾンビ戦開始までは最後尾にいたベルがアビゲイルさんの横に並ぶ。
 次のエリアへと進むため次の扉に手を伸ばすベルの姿は最強さんモード。
 それに合わせてリンがフィンガースナップで扉の魔法を解除。ベルが扉のハンドルを回す。
 
 ――……うん……。回すまでは最強さんだったよ……。

「「…………いやぁぁぁぁぁぁぁあ――――!?」」
 ベルが扉を開くと同時に、開いた本人と横にいたアビゲイルさんが悲鳴を上げる……。

 最強さんは俺と違い、警戒しつつ開くという事をしなかったのがよろしくなかった。

「おお!?」
 ゲッコーさんも開かれた扉から湧き出るようにこちらの部屋へと闖入する、無数の黒い物体に驚きの声を上げつつAA-12 を見舞っていく。

 ――……ゲッコーさんが応戦する中、ベルはレイピアを振るうことはなく、アビゲイルさんも魔法で迎撃や防ぐという事はしない。
 というか、二人で抱き合ってキャーキャー言うだけ……。

「ト、トール……」
 おっと助けを求める美女のか弱き声。
 それだけで俺はやる気が出る。
 実際は俺も苦手分野だが、ベルに頼られるというのが勝った。

 ワラワラ、ガサガサとこちらに迫ってくるのはお馴染みダイヒレン。
 小型犬から大型犬サイズの巨大なGの戦慄ってのは、ギムロン達との洞窟探索を思い出す。
 あの時は俺も恐怖したもんだ。
 
 だが今は恐怖より美人の救出!
 
「そいやっ!」
 ベル達の前に立って残火を振るっていく。
 本来は頭部を潰して腹部は上手いこと残すのがダイヒレンの倒し方。
 上翅と下翅は素材として金になるからな。でも今回は美人二人を守るために迫ってくるのは部位に関係なく斬獲していく。

 ――……それにしても……、やっぱコイツ等はある意味、最強だな。

 コイツ等を目にした途端、シャルナの動きが悪くなってるし、オムニガルも苦手なようで宙に浮いたまま両腕をさすっていた。
 リンは大丈夫なようだが、白い体液が一帯に広がれば、それにはかかりたくないと距離を取る。
 女性陣はコイツ等を前にすると本当に駄目になる……。
 
「ファイヤーボール」
 まあ、コクリコだけは別だけどな。
 こういう時のコクリコのメンタルは、他の女性陣では太刀打ち出来ない――――。

「よし、もういないな」
 苦もなく倒すことが出来た。
 ダイヒレン達はこの奥にいる連中が怖くて通路に集まってたんだろうな。
 で、新たな出口が出来たから一気に駆け込んできたんだろう。
 なんでこんな場所を住処にしたのやら……。どこからともなく進入するのは正にGそのもの。

「終わったぞベル」
 ダイヒレン闖入から今までの間、抱き合ってへたり込んでいた。

「感謝する。流石は勇者だ」
 最強だったり乙女だったりと忙しいけども、ベルからの称賛は嬉しい。
 今回、俺に対するベルの好感度がグングン上がっているような気がする。
 
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