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新公爵

PHASE-928【壮麗】

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「しかし、それにしても……」
 あら動かなくなったな。
 ――……。

「あの荀攸さん」

「…………」
 心底、驚いているようだな。

「公達」
 俺に代わって先生が発せば、

「……は、はい!」
 自分の立場を忘れていたとばかりに背筋を伸ばし、

「これぞ新たなるミルド領、領主の力」
 俺に手を向けて誇らしく発せば、ミズーリの存在に呑まれていた諸侯たちもはたとなって俺に向けての拍手喝采。
 称える発言はするものの、ほとんどの諸侯の声は裏返ったものだった。
 俺という存在を完全に畏怖としての対象で見ている。

「この奇跡の力にて顕現した船こそ、魔王軍要塞を守護する岩の巨人からなる大艦隊を瞬く間に沈めた神船――みずぅり」
 先生と違ってまだ横文字を発するというのは苦手なご様子。
 イントネーションに苦労しつつもミズーリによる武勇伝を語る荀攸さん。
 シーゴーレムの大艦隊を沈めて火龍を救い出し、魔大陸へと単艦にて上陸。前魔王を救いだした事も伝える。
 この発言に諸侯は驚く。
 自分たちが知らなかった情報だからだ。
 現在の魔王が魔王としてずっと君臨しているとばかり思っていたようだ。
 俺達もサキュバスメイドさん達に会うまではそう思っていたけどな。
 情報を幅広く得られるような交友関係を得ていくことで、一般では知り得ない情報も得られるようになるのは本当に大切。
 ミルドの諸侯がそれらを得られなかったのは、救援できる時期に王都へと救援に駆けつけず、ミルドの地を閉鎖的にしてしまったことが理由だろうね。
 大体はカリオネルが原因か……。
 王土とミルド領での魔王軍に関する情報量は天壌の差。
 それだけこの土地が魔王軍の脅威に晒されていなかったって事だろう。
 脅威がなく平和ならいいのだが、脅威がなかったが故に爺様が昏睡だったのをいい事に、一部の権力者たちが腐ってしまった。
 腐った部分は一気に切除しないとな。
 ――荀攸さんの方を向いて小さく頷く。

「いけますかな」
 手を耳に当てて荀攸さんが一言。

『いつでもどうぞ』
 準備万端とゲッコーさん。
 同時にMH-6リトルバード一機が森の方から姿を現し、俺達の側で着陸。
 つまりは俺に乗れという事だろう。
 ローターが巻き起こす風を正面で受けつつ外装式のベンチに腰かけ、拇指を上げて合図を出せばふわりと宙に浮く。
 リトルバードが向かうのは当然ミズーリ。
 操縦するS級さんは意地悪がしたかったのか、諸侯の頭上でヘリを旋回させてからミズーリに向かうっていうね。
 
 ――。

『降下方法は?』
 ロープを使っての懸垂下降が普通なんだろうけど、

「自分で何とかします」
 言いつつベンチから立ち上がり、

「ジェロニモォォォォォォオ!」
 と、継いで気合いを発しながらミズーリ目がけてダイブ。
 ピリアを使用出来るからこその芸当。
 ストレンクスン。タフネス。ラピッドを併用して、体の強化と敏捷性を向上させる。
 壁上からの着地も可能とする今の俺の体ならこの高さも問題なし。
 甲板へと着地。ゴロゴロと体を転がして衝撃を緩和させてから立ち上がる。

『お見事』
 そう言ってリトルバードが去っていく。

「さてさて」
 ここからですよ。
 観艦式というのは沢山の艦船が並んでいるからこそ迫力というものがあるんだからな。
 初めての経験だよな。
 いつもはミズーリを召喚するだけだったからな。
 物は試し。

「さあ出てこい! 我が国の魂――――大和!」
 ミズーリの右船尾隣にプレイギアを向けて名を口にする。
 ミズーリに負けない強い光と共に現れるのは、全長二百六十メートルを超える超弩級戦艦。

「なんと美しい」
 薄墨色の船体からなる戦艦。
 たしか模型塗料だと呉海軍工廠標準色って名前で売られているんだよな。
 灰色ってのは陰鬱な色ってイメージだけども、コイツは違う。
 神々しいという言葉が似合う。

 連合艦隊旗艦はそこにあるだけで俺に高揚感を与えてくれる。
 この安心感と壮麗さはどうだ。
 世界最強の艦載砲と言っても過言ではない46㎝三連装砲の偉大さと重厚感と圧倒的強者感。
 見るだけで奮い立たされ滾ってくる。
 正に最強を冠するに相応しい戦艦じゃないか。
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