上 下
908 / 1,668
新公爵

PHASE-908【上からの指示は絶対】

しおりを挟む
「別に男爵を信用しているわけではないから。この領地を治めることは許すけども、監視はしっかりとつけるからね」

「御意! 心を清らかにして励みます」

「そこまで清らかにしなくていいよ」

「あ、はい」
 政治屋は清濁を両立させるから政治屋だから。
 汚いことも知ってないと汚いことに対応できないからね。
 ダーディーな部分も俺は重要視するよ。
 監視はつけるけど。
 誰が適任かな。こんなおっさんの為にS級さん達を投入するのは勿体ないところだしな~っと。

「あれ? そういえばS級さん達は?」

「ああ、公都で集合するようには伝えている」

「となると、各地の調査ですか?」

「そうだ」
 この町での調査を終えたと同時に、行動班からなるS級さん達はミルド領各地の調査のために動き出してくれているそうだ。
 
 この地では調べないといけないことが多いからね。
 傭兵団自体に傭兵団が使用するキノコ。カリオネルの息がかかっている連中。
 で、最も危惧しないといけないのは合成獣が何者によって創造されたかだ。
 S級さん達による調査なら結果報告も期待できるというものだ。
 この町のマッピングからミルド領全体までしっかりと調べ上げてくれるS級さん達の存在は本当にありがたい。


 ――。

「入ります」

「どうぞ」
 昼前。時間通り応接室を訪れる声が扉向こうから聞こえてくる。
 入室を許可すれば扉側に立つカイルが開いてくれる。
 開かれた扉からマンザートを先頭に数人が入室してくる。

「ククナル行政官、モンド・キクレイン殿と部下の方々に来ていただきました」

「ありがとう。さてモンド、早速だけど俺の案をこの町で実行してもらいたい」

「男爵様から伺っております」

「なら話は早いね。納得いかないこととかあるかな?」
 生真面目が服を着ているといったのが第一印象。
 でもって若い。まあ俺よりは年上だけど二十代って感じだな。
 眼鏡にセンター分けの金髪。
 長身で切れ長の目。インテリイケメンである。
 
「特にございません。私共はただ上の指示に従うだけです」

「それが悪いと思うことでも?」

「私共は私的な感情で実行しません。上がそう判断したのならそれを実現するだけです」
 ほえ~。
 ある意味、強気な人物だな。
 どうあれ上がそうしろと言うなら実行する。
 清濁関係なく実行すると言い切ることに、俺の斜め前のソファーに腰を下ろしているゲッコーさんも苦笑い。
 大した胆力の持ち主でもある。

「じゃあ俺が発せばそれには従うんだよね?」

「当然です。レンググだけではなく、このミルド領全土の支配権を有している方の発言ですから」

「じゃあ直ぐさまこのレンググで奴隷売買の禁止を」

「畏まりました。売買が禁止となれば、傭兵や派遣に紛れさせた奴隷賃貸、斡旋などが横行する可能性も考えられます。それらにも対処いたしますがよろしいですか?」

「あ、はい。お願いします」
 そんな所までは考えてなかったよ。
 そうか。売買が禁止になったら別の手段に出るよな。
 元の世界でも転売屋たちが高額売買が禁止になった途端に、別名で販売したりしてたけど、そういった抜け道もしっかりと封じないといけないな。

「お話は以上で?」

「あ、うん。以上で」

「では我々はこれにて。ご用がありましたらお呼びください」

「はい」
 典雅な一礼から背中を見せたところで――、

「行政官としては従っただろうけど、一個人として今までの法令はどう思ってたの?」
 気になってしまい口から零れてしまった。

「いいのですか発言しても」
 肩越しにこちらを見てくるモンドに首肯で返せば、再び反転して正面を俺に向けると、

「不快感しかなかったですよ」

「この町全体が退廃に蝕まれていないのは、行政官たちの活躍があったからだろうな」
 ゲッコーさんが問えば、

「買いかぶりです」
 謙遜はするけども、夜の大通りは比較的に治安がよく問題もなかったからな。
 裏通りは残念なものではあったけど、もしここに立つ行政官たちがこの町で仕事に携わっていなかったと仮定すると、大通りも裏通りのような状況になっていたかもしれない。
 
 上からの命による仕事はしっかりとこなすと言っていたけども、ギリギリのラインで退廃を防げていたのは、こういった心ある人々がいたからに違いない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...