905 / 1,668
新公爵
PHASE-905【百害あっても一利あれば――】
しおりを挟む
「押さないでください」
「ええい、うるさい!」
小悪党らしい行動だ。往生際が悪い。
盾にする商人をこちらに押し出すようにしつつ、自分は逃げるタイミングを見計らっているといったところだ。
といっても、俺とカイル、マイヤに包囲されてんだけどね。
小悪党による芝居も堪能させてもらった事だし、格好つけさせてもらおう。
「成敗」
言ってみたかった台詞を口に出せば、二人が待ってましたとばかりに動いてくれる。
俺の発言を耳にした途端、男爵が商人を押し飛ばして反転し、駆け出す。
押し飛ばされた商人はカイルの段平で叩かれ、逃げる男爵はマイヤの撓る鞭が首に絡みついて逃走は数歩で終わり。
ぐっと腕を引くだけで鞭はキュッと締まり、男爵は呆気なく膝から崩れ落ちた。
成敗とは言ったけども、
「死んでないよ――ね?」
流石に貴族の命を簡単に奪うのも問題だろうからな。
「優しく叩いただけですよ」
「軽く締め落としただけです」
破顔とクールな表情から返答。
暴れる将軍様の御庭番は成敗で命を奪うからね。
そこだけは時代劇とは違って不殺ですんでよかった。
――。
「起きてもらおうか」
「ん……? ぐぬぅ!? ブホッゴッボ!」
マイヤが手にした小瓶を気を失った男爵の鼻へと近づければ効果は抜群。
矢庭に立ち上がりむせて苦しんでいる。
「やあやあ起きたね」
「ごうじゃくざま!」
涙に鼻水を盛大に垂れ流すおっさんの顔は、気持ち悪いなどを通り越して不憫。
小瓶の中身は相当に刺激的なにおいのようだ。
「おやおやおや~。俺の顔は平凡で覚えてなかったんじゃなかったっけ?」
むせ返るのが治まるまで待てば、
「そ、そのアレは……ですね……」
と、弱々しく返してくる。
「詳しいことは別で聞かせてもらいましょう。そう! 貴男の本邸でね!」
そこはこっちにとってホーム。腕巧者が大勢そろっている。
男爵からしたら自分のシンパはおらず、抵抗も逃げることも出来ないという絶望的な場所。
「だが俺も鬼じゃない。公爵であって勇者ですからね」
「では!」
「素直に俺達の考えに従ってくれるなら、今よりも収入は減るでしょうが、地位は現状維持を約束しましょう。受け入れないで全てを没収されてゼロになる人生よりはましじゃないでしょうかね」
「本当でござい……ますか」
この地の領主に逆らったのに破格の恩赦。驚きを隠せないでいる。
普通は族誅。よくて男爵のみ斬首だろうからな。
破格の恩赦であるが故に胡散臭いとも考えているようで、疑いから身構える。
まあ、当然のリアクションだよな。
「身構えないでいいよ。俺達はこの町を見て回った。裏の裏までね」
「う……」
裏の裏という発言が何を意味しているのかは理解できているようだ。
いくら奴隷売買がカリオネルの馬鹿によって許可されていたとはいえ、本来は禁止行為。
金という欲にかられて許可していた事は、先ほどの部屋でのやり取りでも分かる。
奴隷による商売が駄目となったことで次の商売を考えていたようだが、俺達の登場でそれも頓挫したわけだ。
流石にベルセルクルのキノコを大陸に流通させるとか看過できないからな。
叩けば埃が大いに出る人物なんだろう――――が、
「この町を見たからこそ分かることもある」
「はい?」
「まあなんだ。確かに駄目な商売を許可しているけども、この町全体は活気がある。町の統治者の政治力。もしくは人材を適所に割り当てる能力が高いと判断するべきだろう」
「つまりは私の事でしょうか」
「あんた以外いないだろう」
「ありがたきお言葉」
喪服の集団が集結していたけども、それを事前に押さえ込まなかったのも自由を尊重させたと見るべきかな。
それを問うてみれば、
「私の耳に入った時はすでに王達が町の門の前まで来ておりまして、止める事が出来なかったのです。普段着の下に着込んで沿道に立っていたのでしょうな。沿道警備も隙を突かれたといったところでしょう。まあ分かった後もやめさせませんでしたが。子供の投石が王に当たったというのを後で耳にした時は、流石に肝を冷やしましたがね。今の状況ほどではありませんが」
結構ハキハキと喋るタイプだな。
小悪党タイプだからオドオドするのかと思ったけど、そうでもないようだな。
「止めさせなかったのはやっぱり自由の尊重か?」
「まさか。自由を尊重するような思考を持っているなら奴隷売買など許可しませんよ」
「お、そうだな」
悪びれることなく言うじゃねえか。
「喪服の抗議を止めさせなかったのはただの嫌がらせです。私はカリオネル様を敬愛しておりますので」
「へ~……」
はっきりとした物言いに少しは評価点が上がったけども、敬愛してはいけない人物に対して敬愛って単語を使用した時点で、呆れて言葉も出ねえよ……。
「ええい、うるさい!」
小悪党らしい行動だ。往生際が悪い。
盾にする商人をこちらに押し出すようにしつつ、自分は逃げるタイミングを見計らっているといったところだ。
といっても、俺とカイル、マイヤに包囲されてんだけどね。
小悪党による芝居も堪能させてもらった事だし、格好つけさせてもらおう。
「成敗」
言ってみたかった台詞を口に出せば、二人が待ってましたとばかりに動いてくれる。
俺の発言を耳にした途端、男爵が商人を押し飛ばして反転し、駆け出す。
押し飛ばされた商人はカイルの段平で叩かれ、逃げる男爵はマイヤの撓る鞭が首に絡みついて逃走は数歩で終わり。
ぐっと腕を引くだけで鞭はキュッと締まり、男爵は呆気なく膝から崩れ落ちた。
成敗とは言ったけども、
「死んでないよ――ね?」
流石に貴族の命を簡単に奪うのも問題だろうからな。
「優しく叩いただけですよ」
「軽く締め落としただけです」
破顔とクールな表情から返答。
暴れる将軍様の御庭番は成敗で命を奪うからね。
そこだけは時代劇とは違って不殺ですんでよかった。
――。
「起きてもらおうか」
「ん……? ぐぬぅ!? ブホッゴッボ!」
マイヤが手にした小瓶を気を失った男爵の鼻へと近づければ効果は抜群。
矢庭に立ち上がりむせて苦しんでいる。
「やあやあ起きたね」
「ごうじゃくざま!」
涙に鼻水を盛大に垂れ流すおっさんの顔は、気持ち悪いなどを通り越して不憫。
小瓶の中身は相当に刺激的なにおいのようだ。
「おやおやおや~。俺の顔は平凡で覚えてなかったんじゃなかったっけ?」
むせ返るのが治まるまで待てば、
「そ、そのアレは……ですね……」
と、弱々しく返してくる。
「詳しいことは別で聞かせてもらいましょう。そう! 貴男の本邸でね!」
そこはこっちにとってホーム。腕巧者が大勢そろっている。
男爵からしたら自分のシンパはおらず、抵抗も逃げることも出来ないという絶望的な場所。
「だが俺も鬼じゃない。公爵であって勇者ですからね」
「では!」
「素直に俺達の考えに従ってくれるなら、今よりも収入は減るでしょうが、地位は現状維持を約束しましょう。受け入れないで全てを没収されてゼロになる人生よりはましじゃないでしょうかね」
「本当でござい……ますか」
この地の領主に逆らったのに破格の恩赦。驚きを隠せないでいる。
普通は族誅。よくて男爵のみ斬首だろうからな。
破格の恩赦であるが故に胡散臭いとも考えているようで、疑いから身構える。
まあ、当然のリアクションだよな。
「身構えないでいいよ。俺達はこの町を見て回った。裏の裏までね」
「う……」
裏の裏という発言が何を意味しているのかは理解できているようだ。
いくら奴隷売買がカリオネルの馬鹿によって許可されていたとはいえ、本来は禁止行為。
金という欲にかられて許可していた事は、先ほどの部屋でのやり取りでも分かる。
奴隷による商売が駄目となったことで次の商売を考えていたようだが、俺達の登場でそれも頓挫したわけだ。
流石にベルセルクルのキノコを大陸に流通させるとか看過できないからな。
叩けば埃が大いに出る人物なんだろう――――が、
「この町を見たからこそ分かることもある」
「はい?」
「まあなんだ。確かに駄目な商売を許可しているけども、この町全体は活気がある。町の統治者の政治力。もしくは人材を適所に割り当てる能力が高いと判断するべきだろう」
「つまりは私の事でしょうか」
「あんた以外いないだろう」
「ありがたきお言葉」
喪服の集団が集結していたけども、それを事前に押さえ込まなかったのも自由を尊重させたと見るべきかな。
それを問うてみれば、
「私の耳に入った時はすでに王達が町の門の前まで来ておりまして、止める事が出来なかったのです。普段着の下に着込んで沿道に立っていたのでしょうな。沿道警備も隙を突かれたといったところでしょう。まあ分かった後もやめさせませんでしたが。子供の投石が王に当たったというのを後で耳にした時は、流石に肝を冷やしましたがね。今の状況ほどではありませんが」
結構ハキハキと喋るタイプだな。
小悪党タイプだからオドオドするのかと思ったけど、そうでもないようだな。
「止めさせなかったのはやっぱり自由の尊重か?」
「まさか。自由を尊重するような思考を持っているなら奴隷売買など許可しませんよ」
「お、そうだな」
悪びれることなく言うじゃねえか。
「喪服の抗議を止めさせなかったのはただの嫌がらせです。私はカリオネル様を敬愛しておりますので」
「へ~……」
はっきりとした物言いに少しは評価点が上がったけども、敬愛してはいけない人物に対して敬愛って単語を使用した時点で、呆れて言葉も出ねえよ……。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる