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新公爵
PHASE-898【あえて逃がしてあげよう】
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「いかんな~。いかんよ。腐敗が進んでいるよ。沿道警備をしている兵とはまた質が違うのかな?」
重々しく悪態をつけば、兵士たちがビクビクとし始める。
町の大通りは華やかで人々が楽しんでいた。沿道警備の兵士たちも行き過ぎてはいたけど、それでも励もうとしてたのが多かった。
だが裏通りとなれば、大通りとはまったく違った世界。
悪法が支配しているかのような別世界。表と裏であまりにもメリハリがありすぎる。
となればここいらの警邏を担当する兵の質も悪くなるのだろうね。
「兵士の怠慢というのはつまりは――」
「この町を治める貴族にも問題があるということだ」
しっかりとゲッコーさんが続けてくれる。
これはその貴族もしっかりと正さないといけないな。この面子なら一晩で解決できるな。
暴れん坊公爵として活躍できそうだ。
「とりあえずこの商人を連行して。詰所ではなく俺達が使用している屋敷にね。そっちで尋問するから。必ず屋敷にだよ。顔は覚えたからね」
君らは信用できないと伝え、従うように脅す。
体を縮こめながらも立ち上がって俺の指示通りに動こうとしたところで、
「くそぉ!」
立ち上がろうとした兵士の背中をドンッと押し、そのまま贅肉を纏ったまるこい体型のおっさんが反転して走り出す。
「貴様!」
「いい」
立ち上がり追いかけようとする兵士にゲッコーさんが一言。
その一言だけで小さくなっていた体から、背筋を真っ直ぐと伸ばした姿勢になる。
これぞ伝説の兵士にして指導者である男の威光。
「このまま泳がせますか?」
「もちろんだ。マイヤの初動が素晴らしかったしな」
「ですね」
流石は青色級だ。俺がゲッコーさんに問う時には既に姿がなかった。
俺達はマイヤに感謝しつつ、おっさんの逃げた方向に向かって歩き出す――その前に、
「商人は俺達が対応するとして、代わりにそこの奴隷だった男性と女の子二人を俺達が使用する屋敷まで連れて行ってもらえる。丁重にね」
「は!」
「返事はいいね。でもね。流石に騒ぎに対しての現着が遅すぎだよ。今後は真面目にやってもらわないとね。次は苦言だけじゃすまないよ。上が変わった以上、今まで通りにやってもらっては困るからね」
「はっ!!」
二度目の返事は一度目よりも強いものだった。
兵士である以上は責任を以て行動してもらわないとな。
俺だから苦言ですんでんだからな。ここに中佐がいたら蹴りだよ。蹴り。
「あの~」
「禁止になったから諦めてくれる。一応、返金は後でするから」
商人が逃げた方に何かあるなら、そこで色々と没収するものも出てくるだろうからな。そっちが優先。
公爵からの発言ともなれば、購入者も反論できずに項垂れて肯定の返事をするだけだった。
未だに肩を組んでいるカイルが「ちゃんと返金すると言ってるんだ。心配するな」と、背中をバシバシ叩いて発せば、納得いかなくても頷くしかないようであった。
領民に恨まれるにしても、喪服の集団と違ってこういった手合いばかりだったら、こっちもそれ相応に対応するから楽なんだけどな。
こんな連中ばかりが跋扈していたらこの領地は死ぬだろう。
だが、かろうじて死を回避できているのは、真っ当な者たちがしっかりと踏ん張ってくれている証拠でもある。
そんな方々に深い感謝の念を抱く。
――――。
「ここです」
「ありがとう」
「こういうのが得意なので」
ローグとして活躍していたマイヤが屋根よりスマートな着地からの合流。
中々に大きな店構え。
でも活気はない。裏通りの更に奥の奥ともなれば人通りや街灯は皆無。
暗闇の中で木造建築の入り口にかけられたランタンの灯りだけが揺らいでいる。
ビジョンを発動すれば暗闇であっても問題なく見渡せるのはありがたい。
マイヤの報告では建物入り口にて見張りをしていた男に商人が命令し、急いで見張りと共に建物の中に入っていった。
会話の内容は、裏通りに馬車を用意しろというものだった。
このやり取りがつい先ほどの出来事。
「なるほど。馬車で逃げるとなると、荷物も載せるんだろうね」
荷物ってのが何なのかは容易に分かるので不快になってしまうね。
没収という名の救出をしないとな。
「この建物入り口で先ほどまで見張りをしていた者ですが――」
建物に接近する最中にマイヤが見張りの風体を教えてくれる。
スケイルアーマーにマタギのような毛皮のマント。
マントの色は黒色。
「なるほど――ね」
この地では連中が幅を利かせてたな。
ミルド領に入った以上は、この連中も根こそぎ退治しないといけないな。
重々しく悪態をつけば、兵士たちがビクビクとし始める。
町の大通りは華やかで人々が楽しんでいた。沿道警備の兵士たちも行き過ぎてはいたけど、それでも励もうとしてたのが多かった。
だが裏通りとなれば、大通りとはまったく違った世界。
悪法が支配しているかのような別世界。表と裏であまりにもメリハリがありすぎる。
となればここいらの警邏を担当する兵の質も悪くなるのだろうね。
「兵士の怠慢というのはつまりは――」
「この町を治める貴族にも問題があるということだ」
しっかりとゲッコーさんが続けてくれる。
これはその貴族もしっかりと正さないといけないな。この面子なら一晩で解決できるな。
暴れん坊公爵として活躍できそうだ。
「とりあえずこの商人を連行して。詰所ではなく俺達が使用している屋敷にね。そっちで尋問するから。必ず屋敷にだよ。顔は覚えたからね」
君らは信用できないと伝え、従うように脅す。
体を縮こめながらも立ち上がって俺の指示通りに動こうとしたところで、
「くそぉ!」
立ち上がろうとした兵士の背中をドンッと押し、そのまま贅肉を纏ったまるこい体型のおっさんが反転して走り出す。
「貴様!」
「いい」
立ち上がり追いかけようとする兵士にゲッコーさんが一言。
その一言だけで小さくなっていた体から、背筋を真っ直ぐと伸ばした姿勢になる。
これぞ伝説の兵士にして指導者である男の威光。
「このまま泳がせますか?」
「もちろんだ。マイヤの初動が素晴らしかったしな」
「ですね」
流石は青色級だ。俺がゲッコーさんに問う時には既に姿がなかった。
俺達はマイヤに感謝しつつ、おっさんの逃げた方向に向かって歩き出す――その前に、
「商人は俺達が対応するとして、代わりにそこの奴隷だった男性と女の子二人を俺達が使用する屋敷まで連れて行ってもらえる。丁重にね」
「は!」
「返事はいいね。でもね。流石に騒ぎに対しての現着が遅すぎだよ。今後は真面目にやってもらわないとね。次は苦言だけじゃすまないよ。上が変わった以上、今まで通りにやってもらっては困るからね」
「はっ!!」
二度目の返事は一度目よりも強いものだった。
兵士である以上は責任を以て行動してもらわないとな。
俺だから苦言ですんでんだからな。ここに中佐がいたら蹴りだよ。蹴り。
「あの~」
「禁止になったから諦めてくれる。一応、返金は後でするから」
商人が逃げた方に何かあるなら、そこで色々と没収するものも出てくるだろうからな。そっちが優先。
公爵からの発言ともなれば、購入者も反論できずに項垂れて肯定の返事をするだけだった。
未だに肩を組んでいるカイルが「ちゃんと返金すると言ってるんだ。心配するな」と、背中をバシバシ叩いて発せば、納得いかなくても頷くしかないようであった。
領民に恨まれるにしても、喪服の集団と違ってこういった手合いばかりだったら、こっちもそれ相応に対応するから楽なんだけどな。
こんな連中ばかりが跋扈していたらこの領地は死ぬだろう。
だが、かろうじて死を回避できているのは、真っ当な者たちがしっかりと踏ん張ってくれている証拠でもある。
そんな方々に深い感謝の念を抱く。
――――。
「ここです」
「ありがとう」
「こういうのが得意なので」
ローグとして活躍していたマイヤが屋根よりスマートな着地からの合流。
中々に大きな店構え。
でも活気はない。裏通りの更に奥の奥ともなれば人通りや街灯は皆無。
暗闇の中で木造建築の入り口にかけられたランタンの灯りだけが揺らいでいる。
ビジョンを発動すれば暗闇であっても問題なく見渡せるのはありがたい。
マイヤの報告では建物入り口にて見張りをしていた男に商人が命令し、急いで見張りと共に建物の中に入っていった。
会話の内容は、裏通りに馬車を用意しろというものだった。
このやり取りがつい先ほどの出来事。
「なるほど。馬車で逃げるとなると、荷物も載せるんだろうね」
荷物ってのが何なのかは容易に分かるので不快になってしまうね。
没収という名の救出をしないとな。
「この建物入り口で先ほどまで見張りをしていた者ですが――」
建物に接近する最中にマイヤが見張りの風体を教えてくれる。
スケイルアーマーにマタギのような毛皮のマント。
マントの色は黒色。
「なるほど――ね」
この地では連中が幅を利かせてたな。
ミルド領に入った以上は、この連中も根こそぎ退治しないといけないな。
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