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北伐
PHASE-871【陛下】
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「いくら父上でも許せませんな。黙って寝ていれば良かったものを!」
「薬物で――か」
「何を!?」
「愚か者が!」
「黙れ! さっさと家督を譲れば良かったのだ」
勢いよく立ち上がれば一気に公爵へと詰め寄る。
征北に俺たちや王様まで前に出て馬鹿を止めようとするけど、公爵は手を横へと出して無用の合図。
ゆらりと前に出て杖を前に出すだけ。
「お見事」
「そなたのような美姫に讃えられれば至極の幸せ」
杖を前に出しただけの公爵のゆらりとした動きをベルは称賛。
そんなベルに返しつつ、公爵は突っ込んでくる馬鹿の肩にトンと杖の先端を当てるだけ。
だが、たったそれだけの動作で馬鹿の体勢は崩れ転倒する。
この爺さん、やり手だな。
「この杖からミスリルの白刃を出さなかっただけありがたくおもえ。本来この仕込み杖の白刃は、お前に使うために持ち込んだのだがな。まさかアンデッドになっていたとは」
「何という恐ろしい事を言うのか」
上半身を起こした馬鹿が睨めば、
「本心を言うならば、アンデッドのお前ではなく、骸のお前と出会いたかったよ」
「それが子に言う言葉か!」
「子であろうとも兄殺しをしたのだ。その不名誉は死によって償わねばならん。そして私は、後世の歴史家に嘲笑されながら不名誉な行為を行ったと書かれたくはないのでな。子殺しだけは避ける。そして、お前に親殺しの罪を背負わせなかっただけでも有りがたく思え。馬鹿者が」
終始、馬鹿で終わったなカリオネル。
許さんと大声で叫ぶも、公爵の側近に取り押さえられた後、ミランドとスケルトンルインに拘束されて連れて行かれる。
「殿下。我が子のあつかいはそちらにお任せします」
と、公爵は淡々と述べた。
「分かりました。カリオネル殿には聞きたいこともありますので」
「やれやれ、やっと肩の荷が下りた。それと同時に無念さと情けなさもある」
寂しげな公爵。
自分の子が大きな戦火を振りまこうとした野心。それに伴わない脆弱さ。
若い頃、自身も野心を持っていただけに、自身の年齢でそれが叶わなくなっていることと、それを引き継げない我が子の醜態。
その他諸々、公爵にしか分からない心境ってのがあるんだろうな。
「まずは感謝する。荀文若殿」
「荀彧で結構ですよ公爵殿。ご自身でお立ちになるまでに回復されて何よりです」
「「「「え!?」」」」
皆して声を出すよね。
何で先生は公爵と知り合いみたいな感じなの?
おかしいでしょ。何で公爵が先生の名前どころか字まで知ってるの。
正門前でお互いに会釈をしていた時点で何かはあると思ったけど。
「主、以前も言いましたが私はミルド領でも情報を集めておりましたし、間者も放っておりました」
「はい」
以前にも聞いたよ。
「ランスレン公爵が寝たきりとなり、直ぐにカリオネル殿が大仰に動き出しました。二人の兄が謎の死を遂げている以上、公爵殿にもその危険性があると考え、間者に調べさせれば、公爵殿は薬物を使用されている形跡がありまして、解毒と治療に専念しておりました」
――……うん。いや、うん……。
「なんでそれを黙ってたんでしょうか?」
「誰にも聞かれなかったので」
うん……。そんな0点の返しを爽やか笑顔で言わないでもらいたい。
「冗談はさておき。治療に専念させたとはいえ、目覚めた公爵殿が私達と考えが違えば、それはカリオネル殿と変わりませんからね。驚異となる人物か、話が通じる人物かはまだ分かりかねておりましたから。出会わないと分からない事もあります。公爵殿は後者で間違いないかと」
「そう思ってもらって構わない。無論、体が快調となり、殿下が取るに足らん存在ならば私もカリオネルと同じことをしたかもしれん」
「魔王軍との戦いで実際に私は心が砕かれていましたからね」
「だがそれがこうも立ち直るとは――、ここにいる者達の力なのでしょうな」
「はい」
「立ち直るまで支えてくれる者達。待ってくれることが出来る者達。そういった者達を有し、砕けていた時に見限られることがなかっただけの徳をそれまでに積んでいたという事でしょうね」
「叔父上にそこまで言われると逆に怖くなります」
「それはよい。玉座の上に剣がぶら下げられ、いつそれが落ちてくるか分からない緊張感を持ってもらうのもよいでしょう。頼りないとなれば、吊された剣が故意に落ちてくる事になるでしょう。今ならば我が子にすらそれを行えるでしょう。歴史の表には出さない手段で」
「本当に……叔父上は怖い方だ」
「しかし――」
公爵が俺たちを見回す。
「よくもこれだけの人材を集めましたな。先ほども述べましたが、勝てなくて当然。そしてこれから挑もうとしても必敗でしょう。私のような時代遅れはつまらぬ夢を見ずに身を退くのが最適解。本当に素晴らしい人材を集められた。その徳は前王を上回りましょう。もう殿下とは呼べませんな――――陛下」
「――感慨無量です。叔父上」
陛下――か。
「薬物で――か」
「何を!?」
「愚か者が!」
「黙れ! さっさと家督を譲れば良かったのだ」
勢いよく立ち上がれば一気に公爵へと詰め寄る。
征北に俺たちや王様まで前に出て馬鹿を止めようとするけど、公爵は手を横へと出して無用の合図。
ゆらりと前に出て杖を前に出すだけ。
「お見事」
「そなたのような美姫に讃えられれば至極の幸せ」
杖を前に出しただけの公爵のゆらりとした動きをベルは称賛。
そんなベルに返しつつ、公爵は突っ込んでくる馬鹿の肩にトンと杖の先端を当てるだけ。
だが、たったそれだけの動作で馬鹿の体勢は崩れ転倒する。
この爺さん、やり手だな。
「この杖からミスリルの白刃を出さなかっただけありがたくおもえ。本来この仕込み杖の白刃は、お前に使うために持ち込んだのだがな。まさかアンデッドになっていたとは」
「何という恐ろしい事を言うのか」
上半身を起こした馬鹿が睨めば、
「本心を言うならば、アンデッドのお前ではなく、骸のお前と出会いたかったよ」
「それが子に言う言葉か!」
「子であろうとも兄殺しをしたのだ。その不名誉は死によって償わねばならん。そして私は、後世の歴史家に嘲笑されながら不名誉な行為を行ったと書かれたくはないのでな。子殺しだけは避ける。そして、お前に親殺しの罪を背負わせなかっただけでも有りがたく思え。馬鹿者が」
終始、馬鹿で終わったなカリオネル。
許さんと大声で叫ぶも、公爵の側近に取り押さえられた後、ミランドとスケルトンルインに拘束されて連れて行かれる。
「殿下。我が子のあつかいはそちらにお任せします」
と、公爵は淡々と述べた。
「分かりました。カリオネル殿には聞きたいこともありますので」
「やれやれ、やっと肩の荷が下りた。それと同時に無念さと情けなさもある」
寂しげな公爵。
自分の子が大きな戦火を振りまこうとした野心。それに伴わない脆弱さ。
若い頃、自身も野心を持っていただけに、自身の年齢でそれが叶わなくなっていることと、それを引き継げない我が子の醜態。
その他諸々、公爵にしか分からない心境ってのがあるんだろうな。
「まずは感謝する。荀文若殿」
「荀彧で結構ですよ公爵殿。ご自身でお立ちになるまでに回復されて何よりです」
「「「「え!?」」」」
皆して声を出すよね。
何で先生は公爵と知り合いみたいな感じなの?
おかしいでしょ。何で公爵が先生の名前どころか字まで知ってるの。
正門前でお互いに会釈をしていた時点で何かはあると思ったけど。
「主、以前も言いましたが私はミルド領でも情報を集めておりましたし、間者も放っておりました」
「はい」
以前にも聞いたよ。
「ランスレン公爵が寝たきりとなり、直ぐにカリオネル殿が大仰に動き出しました。二人の兄が謎の死を遂げている以上、公爵殿にもその危険性があると考え、間者に調べさせれば、公爵殿は薬物を使用されている形跡がありまして、解毒と治療に専念しておりました」
――……うん。いや、うん……。
「なんでそれを黙ってたんでしょうか?」
「誰にも聞かれなかったので」
うん……。そんな0点の返しを爽やか笑顔で言わないでもらいたい。
「冗談はさておき。治療に専念させたとはいえ、目覚めた公爵殿が私達と考えが違えば、それはカリオネル殿と変わりませんからね。驚異となる人物か、話が通じる人物かはまだ分かりかねておりましたから。出会わないと分からない事もあります。公爵殿は後者で間違いないかと」
「そう思ってもらって構わない。無論、体が快調となり、殿下が取るに足らん存在ならば私もカリオネルと同じことをしたかもしれん」
「魔王軍との戦いで実際に私は心が砕かれていましたからね」
「だがそれがこうも立ち直るとは――、ここにいる者達の力なのでしょうな」
「はい」
「立ち直るまで支えてくれる者達。待ってくれることが出来る者達。そういった者達を有し、砕けていた時に見限られることがなかっただけの徳をそれまでに積んでいたという事でしょうね」
「叔父上にそこまで言われると逆に怖くなります」
「それはよい。玉座の上に剣がぶら下げられ、いつそれが落ちてくるか分からない緊張感を持ってもらうのもよいでしょう。頼りないとなれば、吊された剣が故意に落ちてくる事になるでしょう。今ならば我が子にすらそれを行えるでしょう。歴史の表には出さない手段で」
「本当に……叔父上は怖い方だ」
「しかし――」
公爵が俺たちを見回す。
「よくもこれだけの人材を集めましたな。先ほども述べましたが、勝てなくて当然。そしてこれから挑もうとしても必敗でしょう。私のような時代遅れはつまらぬ夢を見ずに身を退くのが最適解。本当に素晴らしい人材を集められた。その徳は前王を上回りましょう。もう殿下とは呼べませんな――――陛下」
「――感慨無量です。叔父上」
陛下――か。
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