上 下
870 / 1,668
北伐

PHASE-870【軋轢があるようだね】

しおりを挟む
 公爵サイドは戦闘の意思はなし、負けも認めるようだし――、

「素直に話し合いだけですみそうですね」

「ええ、後はどういった方向で今後のミルドを治めるかといったところでしょう」
 素直に王様たちに協力して、魔王軍に対抗できる力を出してもらう。
 奴隷制の撤廃。
 というか、違法でもあるからな。封建とはいえ見過ごしてはならないよな。
 最悪な展開だと、先生が言っていたように領地はまるまる没収という流れにもなるかも。
 恨みを買わないためにも少しは残すべきだろうな。
 どうなるかは公爵をはじめとする、貴族や豪族の出方次第ではあるけど。

 他にも傭兵団が使用する薬物であるベルセルクルのキノコに、上位のエッセンスに合成獣。これらをしっかりと調べないといけない。
 公爵領に入る事になってもやることは山積み。
 これらを全て調べるだけでも時間がかかりそうだ。
 その辺りは先生が全てスマートにこなしてくれると信じよう。
 もし、先生でも大変となるなら、先生の為に有能な人材を投入しないとな。
 
 ――謁見の間でてっきり話すのかと思ったけど、その道中であるコロッセオで公爵の足が止まった。

「これは……なんとも……な」

「おお父上! この不忠な者共を討伐してください」
 当然だけどやはりここで足が止まるか……。
 どうするよ。逆鱗に触れる事になるんじゃないの。
 名誉の戦死とかの方が良かったかもしれない。

「なぜアンデッドになってしまったのだ」
 冷静に語るところが余計に怖いよ公爵。

「それは……」
 流石に王様も言葉を続ける事が出来ないよね。

「それはこちらにおられる我が主が行わせたこと」
 言葉を続ける事が出来ない王様に代わって先生が続けてくれるけど、ここで俺に振るか。
 まあアンデッドになったきっかけは俺にあるし、当然といえば当然か。

「ほう」
 しわくちゃの顔であるも眼力はやはり鋭い。
 でも、俺も負けてやらない。
 確かに鋭いけど、ゲッコーさんやベルの炯眼に比べれば、笑みみたいなもんだ。
 なので、

「なにか問題でも?」
 強気に出てやる。聞きようによっては、逆ギレしているように思われるかも。

「問題だらけだこのエセ勇者め! 我が父上を敵に回して無事に――」

「うるせぇ!」

「ひぃ!?」
 父親の前だろうが思いっきり蹴りを入れてやれば、公爵を守る征北の面々は驚くも、実の父親は表情を変えることなく俺を見るだけ。

「いつまで父親とか言ってんだよ。生前は四十を過ぎてんだろうが! 困ったら父親頼みか? 自分で始めた戦で負けて囀るなよ。公爵――」
 ここで父親の方に顔を向けて、

「貴男のご子息は手を出してはいけない事に手を出しています。我々はその辺りを徹底的に調べます。戦死なんてさせませんよ。得られる情報はしっかりと得ますから。そしたら成仏させてあげますよ」

「ほう」
 じっと俺を見る公爵の圧が原因か、周囲は黙りこくる。
 ゴクリと唾を飲み込む音が伯爵の方から聞こえてきたのは分かった。
 武闘派すらも押し黙らせる公爵の圧。

「父上ぇぇぇぇ」
 四十過ぎたおっさんアンデッドが何とも情けない声。

「黙れ」

「ち、父上!?」

「お前は負けたのだ。見苦しい姿を見せるな。敗軍の将として堂々としていろ」

「何を言いますか! 貴男の子がこの様な姿になったのですよ」

「成るべくして成ったのだ。運命として受け入れよ」

「我が子が可愛くないのですか!」

「出来のいい可愛い我が子が二人、謎の死を遂げているがな」

「な、何を急に!?」
 焦る馬鹿を鼻で笑う公爵。

「そもそもが本気で勝てると思ったのか? ここに居並ぶ者たちを見てよくも思えたものだ。お前の浅はかな行動で、私は大部分の領土を失うことになるだろう。この面々とは戦いたくはないからな」

「何を情けないことを! 前王の時代に勇名を馳せた賢人とは思えませんな」

「年を取れば耄碌もするし臆病にもなる。その上お前が勝手に動いている間、私は寝たきりだったからな。さぞ権力をいいように行使したのだろうな」

「俺はミルドの事を! そしてこの大陸の事を思って行動したんですよ!」

「私利私欲の間違いだ」
 熱く語る馬鹿の薄っぺらい思いに冷たく対応。それが虚言だというのが分かっているからだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

処理中です...