上 下
864 / 1,668
北伐

PHASE-864【プチン】

しおりを挟む
 ダルメシアンの口からスマートな着地を成功させてオルトロスモドキ全体を見る。
 モロトフカクテルの爆発で大きく咳き込むダルメシアンのせいで、俺への攻撃は中断といったところ。
 
 流石に口から炎を出すだけあって、痛みは感じてもモロトフによる炎の爆発ダメージは軽微なようだな。
 咳き込む度に、俺に放とうとしていた炎が口から飛沫のように吐き出される。
 炎ではなく火の粉のようだった。

「こ、こら! こちらに向けて吐き出すな!」
 馬鹿息子は火の粉程度で大混乱。
 ――程なくしてむせ返りが治まれば、

「ゴルルルルルッ!」
 お怒りだ。ダルメシアンが俺に強い憤怒の目を向けてくる。
 白い毛並みと黒の斑点を逆立てて、絶対に俺の事を許さないといった感じ。

「ガウガウッ!」
 威嚇するように吠えれば、残った頭はさらに困惑。
 二つの頭があれば考えもそれぞれ。
 先ほどから俺がダルメシアンしか狙ってないから余計に怒りが芽生えるのだろう。
 なんで自分ばっかりなんだ! ってところかな。

「さっさとやれ!」
 お前バカに言われるまでもない! と、ダルメシアンが先行。
 本体である茶毛の方が無理矢理に引っ張られており、動きに連携は見られない。

「こういった所がモドキなんだろうな」
 きっと幻獣のオルトロスはツーカーな関係で、双頭が卓抜な連携を行うんだろう。

「やっぱお前等じゃ幻獣ほんもののポジションにはなれないな」

「殺せ!」

「言ってていいのかよ。なあミランド」

「まったくです」
 モドキがこちらに意識を向けているから、がらんどうとなった馬鹿にミランドが容易く接近。
 首を左手に持ち、右手を大きく振りかぶる。
 俺もダルメシアンが咳き込んでいる時からイグニースを練りに練って収縮。
 烈火の準備を終えたところで疾駆。

「次の折檻は手加減なしで頼むよ」

「分かりました」
 一度、殴ったところで高慢ちきな性格は治らない。
 だからこそ次は全力とばかりにミランドは腰を捻った全力姿勢。

「早くだずけろぉぉぉぉぉお!」
 悲鳴にも似た馬鹿の声だが、茶毛は反応できてもダルメシアンは反応しない。
 怒りの感情のままに俺へと接近しようとする。
 茶毛が本体ってのもあって馬鹿の指示に従おうとするが、怒りのダルメシアンと動きがかみ合わずちぐはぐとなってしまう。
 途端に双頭の怪物の動きが鈍くなる。

「これなら当てるなというのが難しいな」
 ミランドを瞥見すれば――、恐怖に歪む馬鹿息子の顔面へと目がけて拳を叩き込むことに成功。

「ひぶぅ……」
 情けない声とともに二度目の吹き飛ぶ姿を目にすれば、全力の折檻というのが分かるものだった。

 俺もミランドを見習って全力による――、

「烈火!」
 ちぐはぐで動きがダメダメなダルメシアンの鼻っ面に目がけて一撃。
 爆発が生じれば、マンティコア達よりも巨大な存在が、爆発と激痛にたまらず頭を大きく振り上げる。
 反動で体が棹立ちの状態となり……、

「あ……」
 やってしまったと思ったが、時すでに遅かった……。
 棹立ち、そのまま背中から地面へと倒れるオルトロスモドキのその位置には、吹き飛ばされたお馬鹿が起き上がろうとしたところ。
 そこに大きな影が迫ってくれば、

「!? ひぃぃやぁぁぁぁぁぁ! ぐるなぁぁぁぁあ…………あっ………………」
 ――……力ない声の後、プチンッ! という音が聞こえた。
 巨体が地面に倒れ込む重々しい音よりも、小さな何かが圧力によって潰れたような音の方がしっかりと耳朶に届いた……。

「あ、ああ……」
 なんてこった……。
 ああ! どうしよう!!

「やってしまいましたね!」
 コクリコが俺の失態に対して口を開けば、

っちまったな!」
 正面から返す俺。
 まさかこんな事で馬鹿息子――もとい、カリオネルの命を奪う事になるなんて……。
 
 命を奪う経験はしている。
 人間の命を奪う事は今回の北伐でS級さん達に俺が指示を出し、実行させた。
 その感覚があるからか、一人の命を奪う事に後悔の気持ちもあるが、それ以上に今後の情報を失った損失の方が大きいという事に重きを置いている俺がいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...