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北伐
PHASE-858【お馬鹿に相応しくない剣身】
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「シャルナ。アッパーテンペスト」
「はいはい」
言われて直ぐに馬鹿息子の落下地点から顕現する竜巻。
ランシェルの蹴り同様に優しさを感じられないシャルナのアッパーテンペストは、馬鹿息子の体を大きく舞わせて、背中から地面に叩き落とす。
「ゲボッゴフゥ……ヒュゥゥゥゥ……」
「随分と不細工な咳だな」
「ぎ、ぎさまぁ! 仰ぎ見る対象であるこの俺を見下ろすとは死罪だ!」
「うっさい」
一気に接近してから裏拳一発。
「ブキィ……」
「ハハハ――。まるで家畜のような鳴き声だ。いや、人のためになる家畜様に失礼か」
「ヒィィィ……」
いいね。やはりこの馬鹿は恐怖に顔を歪ませて、恐れ戦く声を上げるのが似合っている。
「それ、し~こいこい。し~こいこい」
ここで伯爵を真似てやれば、オーディエンスから笑いが起きる。
どうやら馬鹿が粗相したという話は、王軍やギルドの面子に広がっているようだ。
酒にでも酔った伯爵が、酒の肴として言いふらしたんだろうな。
「貴様いい加減にしろ! この俺の顔に手をだしゅ!?」
「いや出すよ」
俺の酷薄な一言にさらに悲鳴を上げて這って逃げる様は、
「ダイヒレンの如しだな。お前もダイヒレンも女性人には人気が無いからな~。似てるね。でもな――」
アクセルで直ぐさま眼前へと回り込めば、恐怖の声を上げるその顔に蹴りを入れてやる。
「ダイヒレンは素材になるんだよ! 何にもならないお前はやっぱりダイヒレン以下! 生態系のド底辺!」
「た、たしゅけて……」
「嫌だね」
「きしゃまは、ゆうひゃらろう!」
「必死に声を出したな。でも俺はお前から見たらエセ勇者なんだろう? だったら笑いながらさんざっぱら痛めつけても文句ないよなぁ! エセなんだからぁ!」
輩の如く言葉尻に威圧感を込めれば、馬鹿は逃げるだけ。
あと少し圧をかければ股間を濡らしそうだな。
大勢に囲まれた場で虐めるのも悪い気がすると思うのは、俺が甘い人間だからだろうな。
でもコイツは自分の利のために多くの犠牲を生み出したからな。
無駄に同情すると駄目なんだよな。こういった手合いは。
今現在、俺がやってる行動はゲスだし、勇者として失格の行為であるただの虐めだが、同情は絶対に駄目。
なので這い蹲って逃げる馬鹿の背中を踏みつけて逃がさない。
「さてさて――」
踏んだまま蹲踞の姿勢になる。
俺は殴ったし、蹴りも入れた。
ここからは――、
「俺の分はこれで終わりだ。リン、出番の緞帳は上がっとりまっせ」
「はいはい」
しれっと合流しているリンに語れば、悪そうな笑みを湛えていた。
ゆっくりとした歩み。
背筋がしっかりと伸び、ハイヒールでの歩みはモデルのようでもある。
馬鹿息子は伏せた姿勢のまま、痛みに顔を押さえながらも美女の接近に見入るという余裕はある。
その女好きの余裕も直ぐさま消え去って、恐怖に歪むだろうな。
「初めましてね。凡愚」
「な!? なんふぇしゅつれいな!」
「なにを言っているのか分からないわね~。馬鹿なの。ちょっと顔をはたかれた程度でそうなるなんて貴男、頭も体も弱いのね~」
嘲笑する姿は相変わらず挑発的だ。
周囲は敵だらけ。殴られた痛みで涙目だし、反論したくてもリンから発せられるプレッシャーによってただ黙することに徹し、俺が足をどけてやれば少しでも離れようと這って移動するだけ。
まあ直ぐに俺が進路を塞ぐんだけどな。
「ランシェル。そこに剣はあるか?」
「ございます。馬――カリオネル様の物かと」
「持ってきてくれ」
言えば主賓席から直ぐさま俺たちの立つ場所に降り立つ。
手に握られるのは、鞘に収まる一振りの剣。
「こりゃ豪華だな。謁見の間のように奢侈でもあるけど」
ゴテゴテの宝石にまみれた護拳に、黄金で出来た柄頭。
真紅の鞘も彫り物が施されている。手足のないドラゴンをモチーフにしたデザインは金と銀の二色からなるものだ。
抜いてみれば――、
「「「「おお!」」」」
と、周囲から大きな歓声が上がる。
主に冒険者たちからの声だった。
抜き身になった剣身を目にした途端にそれだ。
剣身の色はオレンジとも赤色とも言えない、視点を変えると色味が変わる不思議な金属から出来ている。
まるで剣身に炎が封じられているような独特の模様を有した剣であった。
下品な鞘、護拳なんかと違い、剣身だけなら俺の残火の白刃よりも美しく、見入ってしまう。
俺でも分かる。これは最上大業物に分類される物だ。
「はいはい」
言われて直ぐに馬鹿息子の落下地点から顕現する竜巻。
ランシェルの蹴り同様に優しさを感じられないシャルナのアッパーテンペストは、馬鹿息子の体を大きく舞わせて、背中から地面に叩き落とす。
「ゲボッゴフゥ……ヒュゥゥゥゥ……」
「随分と不細工な咳だな」
「ぎ、ぎさまぁ! 仰ぎ見る対象であるこの俺を見下ろすとは死罪だ!」
「うっさい」
一気に接近してから裏拳一発。
「ブキィ……」
「ハハハ――。まるで家畜のような鳴き声だ。いや、人のためになる家畜様に失礼か」
「ヒィィィ……」
いいね。やはりこの馬鹿は恐怖に顔を歪ませて、恐れ戦く声を上げるのが似合っている。
「それ、し~こいこい。し~こいこい」
ここで伯爵を真似てやれば、オーディエンスから笑いが起きる。
どうやら馬鹿が粗相したという話は、王軍やギルドの面子に広がっているようだ。
酒にでも酔った伯爵が、酒の肴として言いふらしたんだろうな。
「貴様いい加減にしろ! この俺の顔に手をだしゅ!?」
「いや出すよ」
俺の酷薄な一言にさらに悲鳴を上げて這って逃げる様は、
「ダイヒレンの如しだな。お前もダイヒレンも女性人には人気が無いからな~。似てるね。でもな――」
アクセルで直ぐさま眼前へと回り込めば、恐怖の声を上げるその顔に蹴りを入れてやる。
「ダイヒレンは素材になるんだよ! 何にもならないお前はやっぱりダイヒレン以下! 生態系のド底辺!」
「た、たしゅけて……」
「嫌だね」
「きしゃまは、ゆうひゃらろう!」
「必死に声を出したな。でも俺はお前から見たらエセ勇者なんだろう? だったら笑いながらさんざっぱら痛めつけても文句ないよなぁ! エセなんだからぁ!」
輩の如く言葉尻に威圧感を込めれば、馬鹿は逃げるだけ。
あと少し圧をかければ股間を濡らしそうだな。
大勢に囲まれた場で虐めるのも悪い気がすると思うのは、俺が甘い人間だからだろうな。
でもコイツは自分の利のために多くの犠牲を生み出したからな。
無駄に同情すると駄目なんだよな。こういった手合いは。
今現在、俺がやってる行動はゲスだし、勇者として失格の行為であるただの虐めだが、同情は絶対に駄目。
なので這い蹲って逃げる馬鹿の背中を踏みつけて逃がさない。
「さてさて――」
踏んだまま蹲踞の姿勢になる。
俺は殴ったし、蹴りも入れた。
ここからは――、
「俺の分はこれで終わりだ。リン、出番の緞帳は上がっとりまっせ」
「はいはい」
しれっと合流しているリンに語れば、悪そうな笑みを湛えていた。
ゆっくりとした歩み。
背筋がしっかりと伸び、ハイヒールでの歩みはモデルのようでもある。
馬鹿息子は伏せた姿勢のまま、痛みに顔を押さえながらも美女の接近に見入るという余裕はある。
その女好きの余裕も直ぐさま消え去って、恐怖に歪むだろうな。
「初めましてね。凡愚」
「な!? なんふぇしゅつれいな!」
「なにを言っているのか分からないわね~。馬鹿なの。ちょっと顔をはたかれた程度でそうなるなんて貴男、頭も体も弱いのね~」
嘲笑する姿は相変わらず挑発的だ。
周囲は敵だらけ。殴られた痛みで涙目だし、反論したくてもリンから発せられるプレッシャーによってただ黙することに徹し、俺が足をどけてやれば少しでも離れようと這って移動するだけ。
まあ直ぐに俺が進路を塞ぐんだけどな。
「ランシェル。そこに剣はあるか?」
「ございます。馬――カリオネル様の物かと」
「持ってきてくれ」
言えば主賓席から直ぐさま俺たちの立つ場所に降り立つ。
手に握られるのは、鞘に収まる一振りの剣。
「こりゃ豪華だな。謁見の間のように奢侈でもあるけど」
ゴテゴテの宝石にまみれた護拳に、黄金で出来た柄頭。
真紅の鞘も彫り物が施されている。手足のないドラゴンをモチーフにしたデザインは金と銀の二色からなるものだ。
抜いてみれば――、
「「「「おお!」」」」
と、周囲から大きな歓声が上がる。
主に冒険者たちからの声だった。
抜き身になった剣身を目にした途端にそれだ。
剣身の色はオレンジとも赤色とも言えない、視点を変えると色味が変わる不思議な金属から出来ている。
まるで剣身に炎が封じられているような独特の模様を有した剣であった。
下品な鞘、護拳なんかと違い、剣身だけなら俺の残火の白刃よりも美しく、見入ってしまう。
俺でも分かる。これは最上大業物に分類される物だ。
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