853 / 1,668
北伐
PHASE-853【馬鹿の退路は塞がれた】
しおりを挟む
手を挙げてブーイングを止めさせる。
続いて三頭に顔を向けて、
「お前たちは下がってろ。危ないぞ」
動きを御していたマンティコア三頭に優しく語りかける。
人語は分かるようだけど、流石に現在の主がいる中で俺の発言に耳を傾けるのは難しいようだ。
とはいえ、ワンパンで吹っ飛ばす存在の発言に従わないとどうなるかという不安もあるようで、俺と馬鹿息子を見比べて忙しく首を往復させていた。
俺の方を多く見ていたのは、俺の方に驚異を抱いたんだろうけど、それでも逡巡といったところ。
しかたがないね。
こなったら有無も言わさずこちらに従わせよう。
「ベル」
「どうした?」
「このままだとモフモフ三頭があの馬鹿のお叱りを受けるかもしれない」
「それはないだろう。ここで倒すのだから」
うん。そうなんだけど。
「俺はそれを理解しているけど、モフモフ達がそれを理解してないだろ。見ろよ不安がってる。とて――」
「とても可哀想だ」
ありがとう俺の言葉を継いでくれて。
「だからベルが安心させてあげればいい」
「任せてもらおう」
個の武においてこの場にて最強の存在が語りかければ、言うことを聞くのは間違いないだろう。
「何をするつもりだ?」
「黙って見てろよ。もしくはこの時間を有効に活用して次の相手の準備でもしてろ馬鹿。俺としては敗北を受け入れる準備をしてほしいけどな」
「ぬかせ! 本当に生意気な奴だ。次を出せ」
指示をするも、兵士たちの応対が鈍くなっていたのか、
「早くしろ!」
怒号でようやく昇降機の滑車が動き出す音。
コロッセオの観客席が敵対関係者たちによって占拠されている光景を目にしたようで、昇降機を動かす兵士たちは、自分たちの終わりを悟ったことで動きが鈍くなっていたようだ。
素直に投降してくれるなら無駄な流血は避けられる。
なので決着の時は、馬鹿息子だけをしばいて終わらせよう。
「さあ、こっちへおいで」
普段の凛として涼やかな声音ではなく、ゴロ太たちと接する時のような優しい声。
逡巡するかと思われたけど、これぞ真の強者というものだろう。
なんの迷いもなくマンティコア三頭がベルの声に従って後に続く。
「「「「おお!!!!」」」」
簡単に大型の合成獣を手なずけたことから、観客席からベルに対する歓声が上がる。
指笛なんかも耳朶に届いた。
「トール様」
と、歓声に紛れて俺の側の観客席から声が届く。
「ランシェル」
「いかが致しましょう」
何を――とは聞き返さない。
正面上方を見る。
さっさと昇降機で箱を上げろと怒号を飛ばす馬鹿を見てから、
「一人では行動するなよ」
「分かっております」
ランシェルの代わりにコトネさんが返してきた。
ランシェル、コトネさんと共にサキュバスメイドさんが五人ほど動き出す。
メイド服のパフスリーブに両手をクロスさせて突っ込めば――、拳に備わるのはナックルダスター。
観戦している兵士たちに溶け込むようにメイドさん数人が姿を消す。
これで馬鹿息子は逃げられない。
一応の確認とばかりにゲッコーさんに顔を向ければ、口角が上がった。
どうやらメイドさん達の行動は必要なかったみたいだな。
S級さん達も密かに動いているようだ。
これで馬鹿息子から、逃げ出すという選択肢が消え去ってしまった。
「待たせたようだな偽りの勇者よ!」
「王様から任命されているから偽りじゃないぞ」
「俺が認めなければ紛い物よ! エセだエセ!」
「はいはい。じゃあ出せよ。今度は一つでいいのか」
木箱は一つ。よほど自信があるようだ。
「十分だ。絶望しろ」
「安い絶望の押し売りはいらないよ」
「安いかどうかは見て決めるがいい! そして恐れろ! ヒュドラーよ出番だぞ」
「ヒュドラーですって!?」
背後のシャルナが驚く。
ヒュドラーってあれだよね。多頭の蛇。
ギリシャ神話に出てくる怪物。
ファンタジー作品ではメジャーなモンスターだな。大抵ボスポジ。
続いて三頭に顔を向けて、
「お前たちは下がってろ。危ないぞ」
動きを御していたマンティコア三頭に優しく語りかける。
人語は分かるようだけど、流石に現在の主がいる中で俺の発言に耳を傾けるのは難しいようだ。
とはいえ、ワンパンで吹っ飛ばす存在の発言に従わないとどうなるかという不安もあるようで、俺と馬鹿息子を見比べて忙しく首を往復させていた。
俺の方を多く見ていたのは、俺の方に驚異を抱いたんだろうけど、それでも逡巡といったところ。
しかたがないね。
こなったら有無も言わさずこちらに従わせよう。
「ベル」
「どうした?」
「このままだとモフモフ三頭があの馬鹿のお叱りを受けるかもしれない」
「それはないだろう。ここで倒すのだから」
うん。そうなんだけど。
「俺はそれを理解しているけど、モフモフ達がそれを理解してないだろ。見ろよ不安がってる。とて――」
「とても可哀想だ」
ありがとう俺の言葉を継いでくれて。
「だからベルが安心させてあげればいい」
「任せてもらおう」
個の武においてこの場にて最強の存在が語りかければ、言うことを聞くのは間違いないだろう。
「何をするつもりだ?」
「黙って見てろよ。もしくはこの時間を有効に活用して次の相手の準備でもしてろ馬鹿。俺としては敗北を受け入れる準備をしてほしいけどな」
「ぬかせ! 本当に生意気な奴だ。次を出せ」
指示をするも、兵士たちの応対が鈍くなっていたのか、
「早くしろ!」
怒号でようやく昇降機の滑車が動き出す音。
コロッセオの観客席が敵対関係者たちによって占拠されている光景を目にしたようで、昇降機を動かす兵士たちは、自分たちの終わりを悟ったことで動きが鈍くなっていたようだ。
素直に投降してくれるなら無駄な流血は避けられる。
なので決着の時は、馬鹿息子だけをしばいて終わらせよう。
「さあ、こっちへおいで」
普段の凛として涼やかな声音ではなく、ゴロ太たちと接する時のような優しい声。
逡巡するかと思われたけど、これぞ真の強者というものだろう。
なんの迷いもなくマンティコア三頭がベルの声に従って後に続く。
「「「「おお!!!!」」」」
簡単に大型の合成獣を手なずけたことから、観客席からベルに対する歓声が上がる。
指笛なんかも耳朶に届いた。
「トール様」
と、歓声に紛れて俺の側の観客席から声が届く。
「ランシェル」
「いかが致しましょう」
何を――とは聞き返さない。
正面上方を見る。
さっさと昇降機で箱を上げろと怒号を飛ばす馬鹿を見てから、
「一人では行動するなよ」
「分かっております」
ランシェルの代わりにコトネさんが返してきた。
ランシェル、コトネさんと共にサキュバスメイドさんが五人ほど動き出す。
メイド服のパフスリーブに両手をクロスさせて突っ込めば――、拳に備わるのはナックルダスター。
観戦している兵士たちに溶け込むようにメイドさん数人が姿を消す。
これで馬鹿息子は逃げられない。
一応の確認とばかりにゲッコーさんに顔を向ければ、口角が上がった。
どうやらメイドさん達の行動は必要なかったみたいだな。
S級さん達も密かに動いているようだ。
これで馬鹿息子から、逃げ出すという選択肢が消え去ってしまった。
「待たせたようだな偽りの勇者よ!」
「王様から任命されているから偽りじゃないぞ」
「俺が認めなければ紛い物よ! エセだエセ!」
「はいはい。じゃあ出せよ。今度は一つでいいのか」
木箱は一つ。よほど自信があるようだ。
「十分だ。絶望しろ」
「安い絶望の押し売りはいらないよ」
「安いかどうかは見て決めるがいい! そして恐れろ! ヒュドラーよ出番だぞ」
「ヒュドラーですって!?」
背後のシャルナが驚く。
ヒュドラーってあれだよね。多頭の蛇。
ギリシャ神話に出てくる怪物。
ファンタジー作品ではメジャーなモンスターだな。大抵ボスポジ。
0
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる