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北伐

PHASE-824【剣圧成功】

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 距離を大きく取ることで、攻撃を仕掛けるタイミングを逸してしまうのも、見えない剣の鬱陶しいところである。
 見えないからこそ無駄に脅威レベルも上げてしまう。思考も揺さぶられる。

「アクセル」
 対応しなければ始まらないので、間合いまで入れば、

「ヒュウ」
 と、俺とガーズの間に縄鏢による妨害を行ってくる。
 こっちの勢いをくじくのが上手いな。
 ならばと、先に向こうへと狙いを定めれば、攻撃を止めて距離を取る。
 アクセルで接近するにしても移動距離は縮地と違って短いから、アザグンスの手前で効果が切れる。その間にラピッドでガーズが追いついてくる。
 レッドキャップスの奴らが当たり前のように使用していた縮地を俺も当たり前のように使用したいもんだよ。
 出来ていたら直ぐにアザグンスを仕留められるのに。

「死ね!」

「生きる!」
 追いつけば見えない剣を振ってくるから、そっちに集中。
 で、見えない分、距離を多めに取るという悪循環。

「いやはやこれは面倒くさい」
 初見殺しもいいところ。
 立ち回りさえ分かっていれば、そこまで苦戦する連中ではないんだけどな。
 いっそのことゴロ丸を召喚して片方の相手をしてもらっている間に、ガーズを先に倒すのもいいな。
 
 ストレイマーターとローバークロウラーのアンデッドコンビの時はそうしたしな。
 でも、今回は別の事を試してみたい。
 アンデッドコンビの時よりはイージーだからな。試すならもってこいの機会。

「余裕の佇みか?」

「考え事をしてるんだよ」

「戦闘中に考え事。それが余裕だというのだ!」
 剣の軌道は見えなくても、腕の動きで対応は出来る。これで剣身がしっかりと把握できれば対処は簡単なんだけど。

「イグニース」

「炎の盾か! ならばフリーズランサー!」
 ほほう! マジックカーブによる中位魔法か。
 鋭利な氷柱が迫る。
 イグニースで防げば、水蒸気を上げつつ粉々に砕け、一帯に氷が飛び散る幻想的な光景。
 衝撃も威力も十分だ。

「ふん!」
 ここで側面からの刺突。
 ここでも相手の腕の動きを頼りに、横移動で躱して伸びきった腕を掴んで、

「そいや!」
 ――投げ飛ばす。

「ちぃ!」
 背中から叩き付けようとしたけども、投げの最中に上体を反らして両足で着地。
 背中を見せているのでそのまま絞め技へと移行しようとしたけど距離を取る。
 というか取らされる。

「やっぱお前からだな」

「ククク――」
 口角を上げてくつくつと笑うアザグンスにイラッとする。
 目元が見えないから余計にムカつく。
 ――大きく深呼吸をして苛立ちを吐き出し、

「その笑みを泣きっ面に変えてやる」

「やれるものなら――」

「やってやるよ!」

「ヒュウ!」
 両手を全力で俺へと振り向ければ、二本の鋭い刃に結ばれたロープが波を打ちながら俺へと襲いかかってくる。
 今までで一番の速度。
 手首を動かして軌道を変化させる高度な技。
 俺の前で直線を描いていた軌道から、左と右に弧を描き側面からの攻撃へと移行したところで、

「ストレンクスン! インクリーズ!」
 現状でも発動しているけども、再度のピリア発動は自分に気合いを入れるためのかけ声のようなもの。
 からの――ここでようやく抜刀。
 なんだかんだでずっと無手だったな。

「どっせいや!」
 残火を全力で振るえば生じる剣圧。
 素振りや戦闘時にも風切り音は耳にしているが、こうやって剣圧だけを意識して振るのは初めての経験。
 だからこそなのか、力強い風切り音は耳朶によく届いた。

「なにぃ!?」

「オッケー」
 成功だ。
 王様が剣圧で矢を落とした場面を頭の中で思い浮かべ、左右から迫ってくる縄鏢を吹き飛ばしてやる。
 手練れが使用する投擲武器は、愚連隊レベルの弓術と比べれば、速くて力強いものだった。
 でもそれを吹き飛ばせたのだから、膂力は俺が勝ったようだな。
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