上 下
801 / 1,668
北伐

PHASE-801【ムキーッ!】

しおりを挟む
「魔導隊」
 相手さんは、数人に言い様にされている状況。
 シャルナの魔法による範囲攻撃を警戒したのか、征北の一人が指示を出せば、横隊の魔導師たちが手にするスタッフを一斉にシャルナへと向ける。
 ワンドの先端から色彩豊かな輝きが顕現する――ところに――爆発音。

「あらあら容易いわね」
 上空にて腕組みをし、漆黒のマントを靡かせるのはリン。
 さっきまで王様の横でゆったりとしていたのに、ここで動いてくれたのは俺の突撃に感化されたからだと信じたい。

「まだ強者がいるか」

「当然じゃない」
 四男坊へと微笑みつつ、手を下方へと向けるところで、

「攻撃中止! プロテクションだ」
 微笑みから察したのか、これは不味いと判断し、今度は四男坊が直接に指示を出す。
 爆発の難を逃れた一部の魔導隊は怯むことなく、指示に従い即座にワンドをリンの方向へと向ける。
 術者一人一人の前に畳一畳ほどの障壁。
 三列横隊からなる魔導隊のプロテクションは壮観でもある。
 その加護に守られている者達はこれで一安心。
 って、思いたいだろうけど、

「ファイヤーボール」

「「「「な!?」」」」
 魔導隊が一様に驚くのは、やはりサイズが原因だろう。
 野球ボールでもバスケットボールでもなく、バランスボールサイズの火球が放たれる光景。
 地下施設のオベリスクバフがなくてもこれだもんな。
 火球が障壁へと着弾すれば大爆発。その中に混じる苦痛の声。

「あらあら脆い障壁ね~。もう少し鍛錬しなさい。それじゃただの紙よ。紙。私のを止めたいなら、おばあさまくらいの実力が必須ね」

「はあ!!」

「あら、誰も貴女なんて一言も言ってないわよ。自覚しているのかしら?」

「ムキーッ!」
 安心しろシャルナ。お年寄りはムキーッ! なんて発言はしないだろうからな。十分若いよ。
 約二千歳だけど若いよ。ムキーッ! は若い。
 というか、ようやっと目立ってきたなシャルナ。ここ最近は影が薄かったのにな。

「なんという……先ほどのが本当にファイヤーボールだとでも」

「そうだよ」

「勇者殿が言うならば本当なのでしょうね……。ノービスの魔法であの威力。本気になられたら、この兵力でも……」

「勝てないだろうね。実際こっちは本気を出していないし」
 きっぱりと四男坊に言ってやる。

「鞘から刀身を見せてもくれませんからね」
 いや、それもそうなんだけど、プレイギアを封じ手にしてる時点で本気じゃないんだよね。
 正確に言うと、ベルやゲッコーさんに先生なんかは召喚された方々だから、プレイギアの力ではあるんだけど、仲間というカテゴリーだからな。
 仲間なので、プレイギアの力を使用しているという対象からは外してもいい事にする。という俺ルール。
 それよりもだ。力の差は歴然だし、この四男坊は賢いので、

「撤退するなら見逃すぜ。さっきの珍妙団みたいにな」
 と、交渉してみる。

「お断りする」
 即答だった。

「お叱りを受けるからか? 問題ないよ。その人物からお叱りを受けることはないから」

「もう勝った気でおられる」

「勝つつもりだから戦争してんだよ」

「なるほど。しかし騎士として何もせずに退くことは出来ません」
 偉いね。
 俺が転生する前、公爵サイドがこういった面々を王都の援軍に派遣してくれていたなら、魔王軍にあそこまで好き勝手させなかっただろうな。

「気概は良いな」

「また前に出てきて……」
 伯爵が軍勢を引き連れて相手とぶつかる。その中にはスケルトンライダー達の姿もあった。
 で、四男坊と対面すれば、伯爵に対して恭しく挨拶。
 俺のパーティーだけでなくギルドメンバーに兵達も本格的に戦闘開始。

 加えて――、

「一気に敵中を貫き、敵陣最奥部に楔を打ち込むための縦深攻撃を敢行する。我に続け!」
 と、ワーグに跨がる高順氏が睥睨しつつ敵陣深くに切り込んでいくのが見える。
 白銀の鎧に真紅の外套は目立つね。
 
 偉丈夫に睨まれればそれだけで相手側の動きがぎこちなくなり、そこに征東騎士団を中心とした騎兵隊が猛然と続く。
 俯瞰から見る事が出来るなら、高順氏が指揮する騎兵は、錐状となって敵陣を穿っているところだろう。
 今回は敵が陣形により対応しているから拠点あつかいになるので、ユニークスキル【陥陣営】も15パーセントから25パーセントに向上しての能力付与になる。

 突破して敵後方に回り込んで、包囲攻撃の段取りをするのが縦深攻撃だったな。
【陥陣営】発動の高順氏が指揮をしている時点で、縦深攻撃は間違いなく成功する。
 
 突破後はそのまま左右に広がって敵陣を最奥部からの翼包囲。
 こちら側もそれに連動しての翼包囲を行い、全包囲へとなれば、包囲殲滅戦へと移行するんだろうな。
 この流れが先生の考えだろう。
 
 実行されれば、ここにいる面子は投降しない限り、凄惨な状況下で命を失うことになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...