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北伐

PHASE-788【追撃者は騎兵の匠】

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「多くの人生を奪ったな」

「ええ。主の号令によって家に帰れば家族もいるであろう者達の命を奪いました」
 抉ってくるね。先生……。

「ですが、このままカリオネルを野放しにすれば、それこそ家族の元に帰れなくなる者達が増えるでしょう。短期で一気に決める。損耗を少なくするために。戦争とはとどのつまり、如何に損失をおさえて莫大な利益を得るかです」

「割切るのは難しいですね」

「当然ですよ。死を簡便に出来る者は快楽殺人者の縁に立っております。後はその縁から飛び降り、深淵に堕ちれば闇の住人となります。割切るのが難しいのは正常です。ですが戦争をするという事は、戦後の利益を視野に入れなければなりません。利益が無ければ戦場に出た者達が浮かばれません」
 怪我を負った者。死亡した兵士の家族には手当てを。活躍した者には報奨を。
 それらを可能にするためには、この戦いで勝ち、公爵領から得るだけ得てそれで支払う。
 終戦となれば政治的なやり取りという流れになるんだろうけど――、何のことはない。やっている事は話を小難しくしている野盗だ。
 
 つまり戦争ってのは、インテリな野盗が行う大規模な劫掠ごうりゃくだ。
 この世界の秩序を乱して野心に取り憑かれたカリオネルが正にそれだ。
 で、終戦後に公爵領から没収できるものは没取する考えを持つ俺たちも同じ。
 筋を通すか通さないかの違いだな。

「戦争ってクソですよね」

「ええ。だから戦争を終わらせるための戦いはしないといけません。古今、勇者や英雄が立つのは浄化された大地ではなく、豊饒な流血に染まる大地です」

「はい……」
 流血の上に立ち、流血の無い綺麗な大地へと変えないといけないのが俺の役目……か。
 しんどいね……。
 とてもじゃないが俺一人では荷が重すぎる。
 胃が締め付けられて、簡単に重圧に押しつぶされそうになる。こんな時、ステータスに全振りしていれば良かったと思う事もあるけど、

「まあ、俺たちが一緒にその大地に立ってやる」
 って、ゲッコーさんがここで支えてくれる発言。毎度ながら涙が出そうになる。
 でもってベルも優しく微笑んでくれるし、肩に手も当ててくれる。
 先生も一緒。柔和な表情で俺を見守ってくれる。
 こういった人達に囲まれる幸せ、やっぱりステータスに全振りしなくて良かったと思える時だな。

「あ! トールが泣いてますよ!」
 ――……こうやってしんみりしている時にバッチリと空気を読んでない。むしろ読んでるのかもしれないが、コクリコがぶっ壊してくるよね……。
 追従で「本当だ!」と、シャルナも同様のリアクション。
 緊張と弛緩の落差が凄いのよ……。
 まあ、ありがたいけども……。
 でもって無性に二人に拳骨を加えてやりたいがそうもいかない。
 弛緩するにはまだ早い。戦いは続いているんだから。

「ドローン飛ばします」
 S級さんの一人が発せばゲッコーさんが頷く。
 数機のドローンが四方のプロペラを回転させて上昇。流石は軍用って事なのか、プロペラの回転音はとても静かで隠密性に長けている。
 回転音は怒号や悲鳴が飛び交う戦場だと無音と言ってもいいだろう。加えて光学迷彩つきだからな。

 要塞方向へとようやく舵を切った公爵軍の動きを通信機器が並ぶ指揮所に設置された大型モニターを使用し、上空の位置から送られる映像を見る。

「凄いですね。トールの持ってる小さいのと同じ原理ですか?」

「そんなところだよ」
 実際は違うけど。プレイギアは召喚した人物なんかの視点だけど、これはこの世界ではありえないテクノロジーによる賜物。
 コクリコはミズーリで経験しているから驚かないけど、シャルナやメイドさん達は大いに驚いてくれる。

「これは酷いな……」
 敵とはいえ同情する。
 逃げに徹するも、糧秣廠には逃げ込めなかったことで最後尾には鈍さが生まれたせいか、王軍に完全に追いつかれていいようにされている。

 先頭は大型の狼・ワーグに跨がる高順氏。
 そして高順氏が率いるのは征東騎士団を中心とした騎馬部隊。
 見た感想は――、触れただけ。
 ただ触れただけで、人が簡単に吹き飛んでいく。

【陥陣営】のスキル恐るべし。
 ダンブル子爵のとこの弓は得意だけど騎乗は苦手だった面子が、短期間の内に馬を乗りこなしている。
 高順氏の向ける穂先に従って、高い機動性にて追従していた。

【騎兵調練】と【騎兵用兵】もがっちりとかみ合っている。その中でも【騎兵用兵】はSランクスキルだからな。騎兵隊が高機動なのも頷ける。
 
 子爵の兵達が騎射により的確に敵兵を射ていき、高順氏と征東騎士団が槍で突き、振れば、確実に命が刈り取られていった。
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