上 下
754 / 1,668
北伐

PHASE-754【背負子】

しおりを挟む
 ――――美味かった。
 こんがりトーストは最高だった。
 馬鹿息子の所で出されたものより、よっぽど食べ応えがあって豪華だった。
 あそこではほぼ食べなかったけども。見た目も味もここの方が遙かに上だな。
 最近ではコボルトの皆さんも厨房に入るようになり、調理もするようになったそうだ。
 今までは給仕としてオーダーを受けたり掃除が主だったけども、ここの面子とも打ち解けるようになれば、自然と仕事の種類も増えていくというもの。
 最初の頃は偏見もあったけど、ベルの庇護下に入った事がいい方向に影響してくれている。
 その内、独立して王都で食事処を出すコボルト達だって出て来るかもな。
 もしそうなったら、成功を願ってお客第一号になりたいもんだ。

 側で新米さん達があまりにも羨んで見ていたので、会頭として新米ギルドメンバーと、勇者として新米野良冒険者の面々に奢ってやれば感謝された。
 とりあえず野良の新米さん達にギルドに入らないかと営業をかける辺り、俺はしっかりと仕事してます。

「行きましょうか」
 コクリコがマグカップに残ったミルクを一気に飲み干しそう言い、ギルドハウスから出る。
 馬車を頼めばギルドメンバーが馭者を務める二頭立てがすぐさま来てくれた。
 その馭者とはコボルトだ。本当に仕事の種類が増えてきている。
 これで王城まで行くわけだね。
 なんか会社の社長みたいだな。
 立場的には同じようなもんか。

 ――――本日は謁見の間からのスタート。
 今日はしっかりとコクリコとシャルナも列に並んでいる。

 北からまたも使者が来るという。
 例によってロイドルが使者として来るそうだ。にしても早いな。俺たちが王様に会談の報告をしたのは昨日だったのに。
 相変わらずの移動速度の素晴らしさ。
 早いといえば――、

「俺にも見せて欲しかったぞ」
 隣に立つリンに豊作の大魔法を見たかったことを告げれば、

「物々しい動きになってきたのが原因よ」
 北に対して打って出る準備が始まり、リンも戦力として頭数に入れられているから、収穫の前倒しを先生にお願いされたという。
 お願いする先生の頼み方が何ともいやらしく、断れなかったそうだ。
 要所要所で俺やベルの名前を出してきては指示を出してくるので、上手い具合に扱われたと嘆息まじりに吐露する。

 俺はともかくとして、怠慢でいればベルにお叱りを受けるから、そこをうまく先生に利用されたわけだ。
 ちなみに俺たちの立つ位置は家臣団の方々と同じ列ではなく玉座の横。
 先生と俺とリンの三人は王様の直ぐ側だ。
 王様ときたら大英雄であるリンにこそ玉座は相応しいと、座るように促す。
 その発言に対して家臣団の誰もが異議申し立てをしないことから、リンが太祖の時代にどれだけの功績をあげたのかが分かるというもの。
 だからなのか、玉座に座る王様の尻は据わりが悪いように見える。
 馬鹿息子と違って謙虚すぎるのが美点であり欠点だな。

「使者の方がお見えになりました」
 謁見の間と通路を繋ぐ扉が開かれれば、近衛の一人がしっかりと腹から出た声で伝えてくる。
 謁見の間に反響するくらいに大きな声だった。
 が、でもなんだろう。暗さも混じっていたような。
 やって来た使者は、連絡通りロイドル。
 ――ん? なんか顔色が悪いな。
 やはり俺たちが暴れたことによって、使者として馬鹿息子からお叱りでも受けてしまったのかな?
 血色の悪い色白の肌に、落ちくぼんだ目。
 さっき棺桶から出てきましたと言われれば、信じてしまうね。

「まるでアンデッドね」

「お前が言うかね」
 嘲りじみた微笑を湛える血色のいいアンデッドのリン――なんだけども、微笑だけでなく不快さも漂わせている。
 近衛といいリンといい、なんかあるみたいだな。

「無念さが纏わり付いているわね」
 無念――さ?
 纏わり付くは分からんが、ロイドルはなぜか背負子を背負っている。
 何を背負っているのかは背中方向だから窺えない。
 ただ家臣団と同じ列に立つゲッコーさんの視線が、猛禽のように鋭くなっていることと、ベルとシャルナが柳眉をつり上げているというのは分かる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...