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北伐
PHASE-741【調子には乗れない。というか乗せてもらえない……】
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伯爵と馬鹿息子が睨み合う中で、伯爵の時宜を逸したという発言にますます憤怒に染まる馬鹿息子は、
「侮辱罪である。しかも公爵家に対して」
「こちらは伯爵の爵位持ちよ! まだ何も継承していない卿こそが侮辱罪で裁かれることになるぞ!」
「ならば王家の血を汚したのだ!」
「我らが尊ぶ血を汚したことはない!」
「舐めるな! 捕らえよ!」
「おう! やってみろ!」
禿頭が茹で蛸のように真っ赤になり、腰より得物であるオリハルコンの鉄鞭を両手に握ろうと構える。
馬鹿息子の前に立つ毛皮のマントを羽織った四名が更に前へと足を進めるのに反して、伯爵の圧に押され背を仰け反らせている馬鹿息子は足を後退させる。
「こ、この不忠者をとられりょ!」
「どちらが不忠か! 後、ちゃんと喋れ!」
「う、ううん――――ここは俺の支配下だ! よくも偉そうに吠えるものだな!」
「囀るなよ! こちらには無双の方々がおられる。勇者殿たちが本気を出せばこのような要塞と兵力など無いに等しい」
ここで俺たちに振るのね。
まあ、馬鹿息子をムキにさせたのは俺だけどさ。
侯爵がここは諫めてくれるかと思ったけども、いつでも抜剣出来るとばかりに柄に右手を添えた姿勢。
ゲッコーさんとミュラーさんは変わらず我関せずとばかりに状況をただ見届けるだけ――も暇だからか、ゲッコーさんは酒が気に入ったようでずっと飲んでる……。
観戦を楽しんでいるみたいだ。
「さあ捕らえよ!」
「おいでませ勇者殿」
ええ……。
まさか俺に対応させるつもりか?
得物を今にも手にして大暴れするのかと思ったのに。
「誰ぞ勇者を倒して真の勇者を名乗れ! いや、お前たちは俺にとって既に勇者であるがな」
「嬉しいことを言ってくれますね。ではここはこの疾風のマイネスが」
「おいおい。俺にやらせろよ」
いや、俺が。
いやいや俺が。と、勝手に四人で盛り上がっているけども、俺の意見は聞いてくれないのかな?
とりあえずは――、
「今回は食事も頂いたことですし、お開きにしませんか。会談を設けてくださったカリオネル殿にはお礼を述べて、今後の双方の歩み寄りを――」
「いただき!」
「「「あ!」」」
疾風の何チャラってのが低い姿勢で床を舐めるようにして俺へと迫る。
抜け駆けされたと残りの三人は呆気にとられ、馬鹿息子は疾風君が動いているのにも気付かなかった。
戦いの場にいるというのに気付けないとは、その程度の存在か。
そして――、
「この程度か」
「ぎゃん!?」
中々に馬鹿っぽい声で吹き飛んでくれる。
予想通りに大したことのない相手だ。
手を抜いた裏拳一発ですむんだからな。
といっても火龍の籠手による一撃だからね。痛いだろうね。
「な!? マイネスの動きを見切ったのか」
「信じられん……」
さっきまで余裕綽々で俺が俺がと言っていた連中が、畏怖の表情に支配されている。
――…………やべぇ……。これ、俺TUEEE作品でよくある展開じゃないか。
主人公が大した事ないと思っている事を相手が凄い事だと思ってしまうってやつ。
それを現実で体験すると――、なんだよ、結構――どころか、かなり気持ちいいじゃねえか。
「調子に乗っているのか?」
――……まあ、俺は決して俺TUEEE作品の主人公にはなれないんだけどね……。
ちょっとでも悦に入ろうものなら、低く鋭い声が耳朶にダイレクトアタックする仕様だから。
今回は酒気も漂っているという嫌なおまけ付き。
さっきまで観戦モードだったガチTUEEEな人が、俺を常に現実に引き戻してくれるからね。
俺という存在は大した事ないよって。お前より強いのが背後に立ってるよって……。
酒気を漂わせながら立ってるよって……。
今回はゲッコーさん一人だけど、普段ならここにベルも加わる。
なので常に謙虚たれの精神でいないといけない。
「侮辱罪である。しかも公爵家に対して」
「こちらは伯爵の爵位持ちよ! まだ何も継承していない卿こそが侮辱罪で裁かれることになるぞ!」
「ならば王家の血を汚したのだ!」
「我らが尊ぶ血を汚したことはない!」
「舐めるな! 捕らえよ!」
「おう! やってみろ!」
禿頭が茹で蛸のように真っ赤になり、腰より得物であるオリハルコンの鉄鞭を両手に握ろうと構える。
馬鹿息子の前に立つ毛皮のマントを羽織った四名が更に前へと足を進めるのに反して、伯爵の圧に押され背を仰け反らせている馬鹿息子は足を後退させる。
「こ、この不忠者をとられりょ!」
「どちらが不忠か! 後、ちゃんと喋れ!」
「う、ううん――――ここは俺の支配下だ! よくも偉そうに吠えるものだな!」
「囀るなよ! こちらには無双の方々がおられる。勇者殿たちが本気を出せばこのような要塞と兵力など無いに等しい」
ここで俺たちに振るのね。
まあ、馬鹿息子をムキにさせたのは俺だけどさ。
侯爵がここは諫めてくれるかと思ったけども、いつでも抜剣出来るとばかりに柄に右手を添えた姿勢。
ゲッコーさんとミュラーさんは変わらず我関せずとばかりに状況をただ見届けるだけ――も暇だからか、ゲッコーさんは酒が気に入ったようでずっと飲んでる……。
観戦を楽しんでいるみたいだ。
「さあ捕らえよ!」
「おいでませ勇者殿」
ええ……。
まさか俺に対応させるつもりか?
得物を今にも手にして大暴れするのかと思ったのに。
「誰ぞ勇者を倒して真の勇者を名乗れ! いや、お前たちは俺にとって既に勇者であるがな」
「嬉しいことを言ってくれますね。ではここはこの疾風のマイネスが」
「おいおい。俺にやらせろよ」
いや、俺が。
いやいや俺が。と、勝手に四人で盛り上がっているけども、俺の意見は聞いてくれないのかな?
とりあえずは――、
「今回は食事も頂いたことですし、お開きにしませんか。会談を設けてくださったカリオネル殿にはお礼を述べて、今後の双方の歩み寄りを――」
「いただき!」
「「「あ!」」」
疾風の何チャラってのが低い姿勢で床を舐めるようにして俺へと迫る。
抜け駆けされたと残りの三人は呆気にとられ、馬鹿息子は疾風君が動いているのにも気付かなかった。
戦いの場にいるというのに気付けないとは、その程度の存在か。
そして――、
「この程度か」
「ぎゃん!?」
中々に馬鹿っぽい声で吹き飛んでくれる。
予想通りに大したことのない相手だ。
手を抜いた裏拳一発ですむんだからな。
といっても火龍の籠手による一撃だからね。痛いだろうね。
「な!? マイネスの動きを見切ったのか」
「信じられん……」
さっきまで余裕綽々で俺が俺がと言っていた連中が、畏怖の表情に支配されている。
――…………やべぇ……。これ、俺TUEEE作品でよくある展開じゃないか。
主人公が大した事ないと思っている事を相手が凄い事だと思ってしまうってやつ。
それを現実で体験すると――、なんだよ、結構――どころか、かなり気持ちいいじゃねえか。
「調子に乗っているのか?」
――……まあ、俺は決して俺TUEEE作品の主人公にはなれないんだけどね……。
ちょっとでも悦に入ろうものなら、低く鋭い声が耳朶にダイレクトアタックする仕様だから。
今回は酒気も漂っているという嫌なおまけ付き。
さっきまで観戦モードだったガチTUEEEな人が、俺を常に現実に引き戻してくれるからね。
俺という存在は大した事ないよって。お前より強いのが背後に立ってるよって……。
酒気を漂わせながら立ってるよって……。
今回はゲッコーさん一人だけど、普段ならここにベルも加わる。
なので常に謙虚たれの精神でいないといけない。
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