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北伐
PHASE-727【せめて俺にも伝えておいて】
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ほほう――。
言うだけあって兵糧が多いようだ。
木壁の内側は小屋規模の蔵がいくつも並んでおり、人足たちがその中に麻袋を運んでいるのが見える。
近くにいる兵士たちは手伝うという気配もなく、兵士は兵士。人足は人足。という線をしっかりと引いている。
ま、兵士たちに都合のいい線引きだけど。
侯爵と伯爵が来るとなれば、何もしなくても背筋だけは真っ直ぐと伸ばして起立はする。
俺たちが瘴気の地帯から現れるまでは確実にだらけていたというのは分かる。
蔵の前にあるテーブルには片付けきれなかったのか、ダーナ銅貨がテーブルの縁に一定の間隔で置いてある。
大方、中央に転がっているサイコロの出目の良かった者が、銅貨を独り占め出来る遊びでもしていたんだろう。
いやはや怠惰に耽っているよ。
アナタ、怠惰デスねぇ。って言うのが正解なのかな?
「蔵に運ばれる大量の兵糧の割に、人足は食をしっかりと取れていないようだが」
「まあ、今は非常事態ですので」
「王に弓引くためか」
結局、小声だけでは留めることが出来なかったですか。バリタン伯爵。
糧秣廠の内側――兵士の怠惰と人足たちへのあつかい。それらが苛立ちに繋がって口から出てしまったのかもな。
「その様な事は。魔王軍に対する準備ですから」
ミランドの返答に伯爵はフンッと鼻息で返す。
「それにしても不快ですね」
「まったくです」
マイヤが俺へと言えば、ランシェルも続く。
二人を見る兵士たちの目は下劣なものだから仕方ない。
男ばかりとなれば欲求も溜まるんだろうな。
それを発散させたくても出来ない環境下に現れた美人一人と、端から見れば美少女に見えるメイド服の男の娘に溜まったものを今すぐにでもぶちまけたいという欲求から目はギンギンだ。
規律と理性よりも本能が勝らないことを祈るよ。
勝って突撃してきたら、そいつの人生はそこで終わるだろうからな。
ここの兵士たちじゃ、この二人を御することなんて到底不可能。
この場にベルがいなくて本当によかったよ。
間違いなく兵士たちが美貌に当てられて乱心する。で、ベルによってこの糧秣廠が灰燼に帰される事になっただろうからな。
ともあれ野郎達が本能のままに動くという心配はなさそうだ。
いや、本能がやばいと告げているのだろう。
ゲッコーさんにミュラーさん。侯爵と伯爵が睨みを利かせているから性欲の本能よりも、生存本能が勝ったようだ。
ゲッコーさんとミュラーさんだけでなく、今回は同等の力を持つ面子が他にも三人いるから――――ね?
――…………ん? あれ? あれれ!?
「ゲッコーさん。S級さんが三人いないんですけど」
「最初からそんな奴らはいなかっただろう?」
何をバカな事を言ってますかね。俺が夢でも見ていたとでも?
「いかがいたしました?」
「気にしないでくれ」
ゲッコーさんがミランドに冷たい声音で伝えれば、ミランドは作り笑顔を無理矢理と顔に貼り付けるだけで言葉は続かない。
「トール。駄目だぞ」
「ああ……はい」
これは……、あれだな。
俺に内緒でなんかしとんな。
俺が気付くことなく、糧秣廠内部に入る前から、S級さん三人はすでに姿を消していたようだ。
その証拠に――、
「では、こちらで馬をお預かりいたします」
「大切に頼むぞ」
伯爵のドスの利いた声に、
「も、もちろんでございます。副馬もしっかりと面倒を見させていただきます」
言って、俺たちが乗っていた馬と、副馬と発した三頭の馬の手綱を握り、兵士たちが大事そうに馬小屋へと連れて行ってくれる。
ミランドも兵士たちも勘違いしているのは、最後尾で連れて行く三頭の馬は副馬ではないということだ。
鞍に触れれば意外とまだ温もりがあったりしてな。
いやはや、その馬に乗っていた三人はいったい何処へといったのやら……。
言うだけあって兵糧が多いようだ。
木壁の内側は小屋規模の蔵がいくつも並んでおり、人足たちがその中に麻袋を運んでいるのが見える。
近くにいる兵士たちは手伝うという気配もなく、兵士は兵士。人足は人足。という線をしっかりと引いている。
ま、兵士たちに都合のいい線引きだけど。
侯爵と伯爵が来るとなれば、何もしなくても背筋だけは真っ直ぐと伸ばして起立はする。
俺たちが瘴気の地帯から現れるまでは確実にだらけていたというのは分かる。
蔵の前にあるテーブルには片付けきれなかったのか、ダーナ銅貨がテーブルの縁に一定の間隔で置いてある。
大方、中央に転がっているサイコロの出目の良かった者が、銅貨を独り占め出来る遊びでもしていたんだろう。
いやはや怠惰に耽っているよ。
アナタ、怠惰デスねぇ。って言うのが正解なのかな?
「蔵に運ばれる大量の兵糧の割に、人足は食をしっかりと取れていないようだが」
「まあ、今は非常事態ですので」
「王に弓引くためか」
結局、小声だけでは留めることが出来なかったですか。バリタン伯爵。
糧秣廠の内側――兵士の怠惰と人足たちへのあつかい。それらが苛立ちに繋がって口から出てしまったのかもな。
「その様な事は。魔王軍に対する準備ですから」
ミランドの返答に伯爵はフンッと鼻息で返す。
「それにしても不快ですね」
「まったくです」
マイヤが俺へと言えば、ランシェルも続く。
二人を見る兵士たちの目は下劣なものだから仕方ない。
男ばかりとなれば欲求も溜まるんだろうな。
それを発散させたくても出来ない環境下に現れた美人一人と、端から見れば美少女に見えるメイド服の男の娘に溜まったものを今すぐにでもぶちまけたいという欲求から目はギンギンだ。
規律と理性よりも本能が勝らないことを祈るよ。
勝って突撃してきたら、そいつの人生はそこで終わるだろうからな。
ここの兵士たちじゃ、この二人を御することなんて到底不可能。
この場にベルがいなくて本当によかったよ。
間違いなく兵士たちが美貌に当てられて乱心する。で、ベルによってこの糧秣廠が灰燼に帰される事になっただろうからな。
ともあれ野郎達が本能のままに動くという心配はなさそうだ。
いや、本能がやばいと告げているのだろう。
ゲッコーさんにミュラーさん。侯爵と伯爵が睨みを利かせているから性欲の本能よりも、生存本能が勝ったようだ。
ゲッコーさんとミュラーさんだけでなく、今回は同等の力を持つ面子が他にも三人いるから――――ね?
――…………ん? あれ? あれれ!?
「ゲッコーさん。S級さんが三人いないんですけど」
「最初からそんな奴らはいなかっただろう?」
何をバカな事を言ってますかね。俺が夢でも見ていたとでも?
「いかがいたしました?」
「気にしないでくれ」
ゲッコーさんがミランドに冷たい声音で伝えれば、ミランドは作り笑顔を無理矢理と顔に貼り付けるだけで言葉は続かない。
「トール。駄目だぞ」
「ああ……はい」
これは……、あれだな。
俺に内緒でなんかしとんな。
俺が気付くことなく、糧秣廠内部に入る前から、S級さん三人はすでに姿を消していたようだ。
その証拠に――、
「では、こちらで馬をお預かりいたします」
「大切に頼むぞ」
伯爵のドスの利いた声に、
「も、もちろんでございます。副馬もしっかりと面倒を見させていただきます」
言って、俺たちが乗っていた馬と、副馬と発した三頭の馬の手綱を握り、兵士たちが大事そうに馬小屋へと連れて行ってくれる。
ミランドも兵士たちも勘違いしているのは、最後尾で連れて行く三頭の馬は副馬ではないということだ。
鞍に触れれば意外とまだ温もりがあったりしてな。
いやはや、その馬に乗っていた三人はいったい何処へといったのやら……。
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