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北伐

PHASE-719【直ぐに拳骨】

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「いつ頃から始めてんの?」

「城壁の改修は今始めたところよ。田畑は夜中から」
 夜中に王都内を動けば物音が出るからという気づかいから、夜の作業は田畑だけにしたんだな。
 加えて夜中にアンデッドが街中を徘徊してるのを目撃したら卒倒ものだもんな。

「私はここで監督をしておくから、貴男は貴男の出来る事をやらないとね」

「おう」
 田畑が更に広くなれば、大魔法で作物を一気に収穫できるようにしてくれるとも約束してくれた。
 昔、この王都の高祖である初代王に協力していたってのは、こういう光景を目にすれば信実だったというのが分かる。
 当時はまだ人間だったようだけど。
 
 ちなみにイルマイユはメイドさん達が面倒を見てくれているそうで、今はギルドハウス三階の部屋でゆっくりと寝ているそうだ。
 じゃあ俺ももう一休みといきたいけども、この冷気のおかげで完全に目が覚めてしまった。
 
 ――――自室で着替えて身だしなみを整え、お茶を一杯楽しんだ後に一階へと移動すれば、いま起きたメンバー達が早めの朝食。
 あくびで大口を開けば、そのまま口に食べ物を入れる器用さ。
 早朝に出て行った面子よりは遅いけど、それでも十分に早い時間帯だ。
 皆と挨拶をしつつテーブルの上の食事を目にすれば、

「いいね」
 ふかしたジャガイモを潰して塩で食べるシンプルなものに、収穫したばかりの稗や粟の粥。
 質素な味を豪華にするのは干し肉ではなくベーコンだ。
 とうとうベーコンが普通に食卓に並ぶようになったか。
 パンもあるし、スープだってクリーム色。野菜もゴロゴロだ。
 当初の塩のみでの味付けなの? ってのからは脱却できている。
 食が豊かになるという事は、それだけ発展しているって事だからな。

「おう会頭」
 このフランクな口調は、

「おうギムロン。久しぶり」
 立派な髭を赤い玉に通したおしゃれな仕様だけど、その髭に食べかすがついていれば台無しというもの。

「今から道具屋でも開くのか?」

「うんにゃ。今日は若い奴らを朝早くから鍛えるのよ」
 要塞トールハンマーにドワーフや腕利きの鍛冶職人が出向しているから、王都では新人の育成に力を入れているそうだ。
 ギムロン曰く、覚えがとてもいいそうだ。
 習う人材の才能もなんだろうけど、先生のユニークスキル・王佐の才の効果も大きいな。
 
 ――……うん……。王佐の才もあるんだろうけども……。

「馬鹿野郎ぃ!」
 ドスッと鈍い音が作業場に響く。
 続けて転げ回る音に、若者が悶絶する声。
 いや~俺の世界の現在の学校だと、間違いなく行き過ぎた体罰だな。
 PTAと教育委員会とマスコミが動き出すレベルだね。
 めきめきと成長するのは先生のスキルもさることながら、ギムロンたち先達の厳しいご指導によるものなんだろう。
 しかし、覚えがとてもいいとは言うけども、とてもいいという者に対する行為じゃないね。

「いいか小僧。お前のは研いでんじゃねえ。削ってんだよ! そんなんを戦いの場に持っていけば、この世界のために戦う奴らがおっちんじまうぞ!」

「は、はい……」

「練習用だからって無駄にすんなよ。それだって新米達が使うには十分な数打ちだからな」
 車輪の研ぎ石を使用してショートソードを研いでるのは人間の若者。
 俺くらいの年齢だろう。
 そんな彼を師事するのはギムロン。
 俺と一緒になって冒険したときは、無遠慮ながらも俺を立ててくれていたけど、鍛冶場の中となると、また違った一面を見る事が出来る。
 頑固で厳しいおやじだ。
 
 俺たちドワーフやエルフなんかと違って、人間ってのは短命種なんだから、俺たちよりも必死になって覚えろ! と、何とも厳しいが、それに対して心が折れることなく食らいついて行こうとする若者は、教えられたことをしっかりと体に覚えさせていく。
 こうやって優秀な人材が育っていく。
 前線に立つ者達が命を預けるに足りる装備品を後方にて魂込めて製作していくわけだ。
 ギムロンや他のドワーフ達。人間のベテラン職人達に鍛えられれば、直ぐにでも立派な職人になってくれることだろう。
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