上 下
705 / 1,668
北伐

PHASE-705【円卓】

しおりを挟む
「さて、これからの事を話し合うために場所を変えようか」
 王様の発言に臣下の皆さんが動き出すので俺たちも後に続く。

 ――――初めて入室した部屋は四十畳ほどの広さがある軍議室。
 王様も話しに参加するこの軍議室は、大本営と考えていいだろう。

 室内の中央にはドーナツ状の円卓があり、それを囲うようにもう一つの円卓という二重の作り。
 上座も下座もないが、一応は階級によって座る場所は決まっているようだ。
 内側の円卓には王様、侯爵。ゲストであり魔大陸サイドの代表者であるリズベッドが王様の隣。
 で、その隣に俺。
 隣と行っても間隔はあいており、肘が触れ合うような距離ではない。
 外周には貴族やナブル将軍。ベル、ゲッコーさん。コクリコ、シャルナにガルム氏とアルスン翁。
 非戦闘員ということもあり、姫は外周の円卓に腰を下ろすのでライラはその横。
 翁が苦労しないように、ちゃんとゴブリン用に座高の高い椅子を用意してくれる配慮はお見事。
 そんな椅子を準備してくれたのは、壁際と扉に立つ完全武装の近衛の方々。
 以前よりも洗練された装備と面構えだ。
 さっきも穂先はピクリと動いたけども、刺激しないように構えるまでにはいたらなかったからね。
 しっかりと胆力もついてきている。

 ドーナツ状の円卓なので、もちろん真ん中は空洞となっている。
 空洞となった位置には先生が一メートルほどの長さがある指揮棒を持って佇立。
 先生の足元の床には大きな地図が描かれている。
 大陸がでかでかと描かれている事から、この王都を中心とした地図なのかな? 
 海が端っこ描かれてないから多分そうだろう。
 
 しかし――、床には地図。二重になったドーナツ型の円卓というデザインは、明らかに時代が違うような気がする。
 木で出来た円卓に触れれば真新しい。
 深呼吸をすれば木の香りもしっかりと鼻腔に届く。
 うむ、このデザイン……。
 肩越しにゲッコーさんを見れば、俺の視線に気付きドヤ顔でサムズアップ。
 どうやらこの軍議室はゲッコーさんがリフォームに携わったようだ。
 このまま携わり続ければ、世界情勢を映し出すモニターを壁一面に設置しそうだな。
 
「リズベッド殿も大変でしたな。この大陸の驚異がまさか造反によるものだったとは」

「止める事も出来ず皆様には大変なご迷惑を……」

「いえ、リズベッド殿に罪はありません。その――」

「ショゴスですな」
 先生が口にした名を耳にし、「そうショゴス」と頷く王様は、スライムである存在がそこまでの驚異になった事と、その配下には忠誠心が揺るがない護衛軍が存在する事を知り、まだまだ魔王軍の力の底が見えないことに戦慄を覚えていた。

 反面、護衛軍という存在が明らかになった事と、人間サイドが知り得ない魔王軍の実態などを得ることが可能になったことで、今後の対策の幅が広がったという収穫もあったと喜ぶ。
 
 縮地による移動からの攻撃を仕掛けてくるレッドキャップス達に対抗するために、兵達には死角を補うための連係を今後の調練に組み込まなければならないとナブル将軍。

「ですがやはりショゴスの驚異が問題でしょう」
 と、一人の臣下である貴族が口を開けば、周囲も然りと続く。
 
 どの様な強者も捕食さえ出来れば、その能力を自身のものにする。
 これが想定できる程度の強者が有する能力ならまだ可愛げがあるが、リズベッドが有するマナと触れ合うことが出来るという能力は、想定どころの問題ではない。
 人間からすれば神の如き能力。
 周囲のマナをコントロールされれば、その近くにいる者達はマナによる力の発動が封じられてしまう。
 そんな能力すらもショゴスは捕食し得たという。しかもリズベッドは生かしたままに。
 
 更には四大聖龍リゾーマタドラゴンをも自身の力で封じて支配下に置き、浄化の力を反転させて、自身の瘴気を拡散させるための媒体へと変えてしまう力。
 神にも等しい四大聖龍リゾーマタドラゴンを支配下に置くだけの力を有している時点で、神と同等の力を有した存在だと見ていい。

「そして魔大陸で出会った護衛軍の指揮官であるデスベアラー・フサルク・アンスールと、サブジェクト・フサルク・エオローか。名からして後者も指揮官級なのだろう」
 王様の声は重々しい。
 強者として俺達の前に立ちふさがったデスベアラー。フランベルジュの剣音が今でも耳に残っている。

「ショゴスより作り出され、そのショゴスを聖祚せいそと敬称する二体に共通するのは――フサルクというミドルネーム。となれば、フサルクと名の付く者達が他にもいると考えるのが妥当でしょうね。そしてデスベアラーの力を継承した仙狐の存在。重複はなく上書きという欠点もありますが、力を継承し更に強くなっていくという敗者の鮮血ビクターマークなる帽子。中々に手厳しい相手のようですな。フサルクにレッドキャップスなる精鋭達は」
 デスベアラーの力を継承し、野狐から仙狐となったデミタスの怨嗟の瞳を思い出せば、背筋に冷たいものが走る……。
 俺もそうなんだけど、先生の喋々な語りを耳にすれば、軍議室には沈黙の帳が降りる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...